概要
造血器腫瘍とは、血液細胞ががん化する病気の総称です。“血液がん”“造血器悪性腫瘍”などとも呼ばれます。
血液細胞とは白血球・赤血球・血小板などのことを指し、これらは骨の中にある骨髄という場所で作られます。骨髄には血液細胞の元となる造血幹細胞が存在し、造血幹細胞は血液細胞へと徐々に分化して、最終的に血管の中へ流れ込んでいきます。
造血器腫瘍では、異常な血液細胞や、造血幹細胞が分化する過程の未熟な細胞が骨髄やリンパ節などで増殖します。
種類
造血器腫瘍には多くの種類があり、症状や進行の速度、治療方法などが異なります。ここでは、主な造血器腫瘍の種類について説明します。
白血病
白血病とは、造血幹細胞から血液細胞が作られる過程で異常な血液細胞が増殖して、正常な血液細胞が作られなくなる病気です。大きくは、がん細胞の増殖が急速な“急性白血病”と増殖の遅い“慢性白血病”に分けられます。
白血病の主な種類
- 急性白血病……急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病などがあります。
- 慢性白血病……慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病などがあります。
- 骨髄異形成症候群……さまざまな症状、進行速度を示す多様な疾患の集まりで、一部は急性骨髄性白血病へ移行することが知られています。
- 子どもの白血病……小児がんの中でももっとも多いがんといわれています。急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病などの種類があり、およそ70%は急性リンパ性白血病です。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫とは、白血球の1つであるリンパ球ががん化する病気です。100種類近くのタイプがありますが、リンパ球の種類などから、大きくは“B細胞リンパ腫”“T/NK細胞リンパ腫”“ホジキンリンパ腫”に区分されます。
悪性リンパ腫の主な種類
- B細胞リンパ腫……びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫などがあります。
- T/NK細胞リンパ腫……末梢性T細胞リンパ腫、血幹免疫芽球性T細胞リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫、成人T細胞白血病・リンパ腫などがあります。
- ホジキンリンパ腫……古典的ホジキンリンパ腫、結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫などがあります。日本では悪性リンパ腫の5%程度を占めます。
- 子どものリンパ腫……乳幼児の発症頻度は低く、10歳前後からの発症が多いと考えられています。
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫とは、白血球の1つであるリンパ球のうち、B細胞から生じた形質細胞ががん化し、骨髄で増加する病気です。がん化した形質細胞を骨髄腫細胞と呼びます。
症状が現れている場合には治療が必要ですが、症状のない“無症候性多発性骨髄腫”はすぐに治療せず、経過観察となることもあります。
原因
細胞は分裂して増殖しますが、その過程で、遺伝子の複製ミスが生じることがあります。その際に、癌化を起こし得る異常が起きることがあり、このような遺伝情報の異常が積み重なって発病すると考えられています。その誘因ははっきりしない場合がほとんどですが高齢化するほどリスクは高くなります。
また、一部では、ウイルス感染が発症の一因になっていることがあります。たとえば、悪性リンパ腫の1つである“成人T細胞白血病・リンパ腫”はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)に感染することが原因となります。しかし、HTLV-1の感染者が成人T細胞白血病・リンパ腫を発症する確率は5%程度です。
症状
白血病
急性白血病
急性白血病では、正常な血液細胞の減少によりさまざまな症状が現れます。また、症状は急激に生じることが特徴です。
白血球の1つである好中球が少なくなることで、感染症にかかりやすくなるほか、赤血球の減少による動悸・息切れ・めまいなどの貧血症状、血小板減少による出血もみられます。
白血病細胞が増殖してさまざまな臓器に入り込むと、その臓器のはたらきが損なわれたり、発熱や体のだるさなどの症状が引き起こされたりすることもあります。
慢性白血病
慢性白血病はゆっくりと進行するため初期症状がほとんどなく、健康診断の血液検査などで偶然発見されることも少なくありません。
慢性白血病の中でも“慢性骨髄性白血病”は、進行すると白血球や血小板の数が増えることが特徴です。白血球増殖による体のだるさ、無気力、寝汗、体重減少、脾臓が大きくなることによるお腹の張りなどがみられます。
また、赤血球は減少するため、息切れや動悸などの貧血症状が起こります。
骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群では、赤血球減少による貧血の症状や、血小板減少による皮膚の点状出血、鼻血などが現れます。体のだるさや発熱が生じることもあります。
なお、症状がほとんどみられない人もいます。
子どもの白血病
子どもの白血病の主な症状として、貧血による症状や出血、感染症、肝臓や脾臓の腫れ、発熱、骨の痛みなどが挙げられます。白血病細胞が脳や脊髄で増殖すると、頭痛や吐き気、嘔吐などの症状がみられることもあります。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫の症状は種類によって異なりますが、主にリンパ節の多い首や腋の下、足の付け根などに痛みのないしこりが生じます。ときにしこりが周辺の気道・血管・脊髄などを圧迫することで、気道閉塞、血流障害、麻痺などの症状が起こることもあります。
さらに、発熱や体重の減少、激しい寝汗、皮膚のかゆみなどの症状がみられることもあります。
多発性骨髄腫
骨髄腫細胞の増加によって正常な血液細胞が作られなくなり、さまざまな症状が現れます。赤血球減少による貧血症状や、血小板減少による鼻血・歯茎からの出血などがみられることがあります。体のだるさや発熱が現れる人もいます。
また、骨髄腫によって骨の組織が破壊されてしまうため、骨折が起こったり、骨からカルシウムが溶け出すことによる高カルシウム血症が原因でめまい、頭痛、口の乾き、便秘、食欲の低下、精神異常などがみられたりする場合もあります。加えて骨髄腫細胞の作り出す“Mタンパク”と呼ばれる抗体が血液中で増殖すると、血液の粘りが強くなることで、めまいや頭痛を引き起こす場合があるほか、Mタンパクの変化した物質が体に沈着して手のしびれや痛みが生じることもあります。
なお、症状には個人差があり、症状がまったく現れない人もいます。
検査・診断
組織検査
症状や血液検査の数値などから造血器腫瘍が疑われた場合には、確定診断をするために組織検査を行うことが重要です。
骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)
局所麻酔で臀部の骨(腸骨)に針を刺し、内部にある骨髄液を吸引する検査(骨髄穿刺)を行います。また必要に応じて、骨髄組織を採取する骨髄生検を行うこともあります。
骨髄液を顕微鏡で確認すると、白血病の場合には白血病細胞の増加が確認され、多発性骨髄腫では異常な形質細胞の増加が確認されます。
リンパ節生検
リンパ節の腫れがある場合に手術で切除し、採取した組織を顕微鏡で見ることで、良性・悪性の判断や、悪性リンパ腫の悪性度やタイプの分類などを行うことができます。
画像検査
病気の進行度合いなどを調べる目的で画像検査を行うことが検討されます。
造血器腫瘍の中でも、悪性リンパ腫は病変が広範囲に広がっている場合があるため、全身CT検査・PET-CT検査などで全身のリンパ節の状態などを確認します。多発性骨髄腫の場合、骨にも影響が及んでいる可能性があるため、骨のX線検査を行うことが一般的です。
治療
白血病
急性白血病
患者の年齢や病気のタイプによっても異なりますが、まずは複数の抗がん薬を用いた“寛解導入療法”を行うことが一般的です。寛解導入療法後、抗がん薬による“寛解後療法”を行い、再発を予防します。これらの治療のみでは再発する可能性が高いと判断された場合、年齢や全身状態に応じて造血幹細胞移植が検討されます。
造血幹細胞移植とは、大量の抗がん薬を用いた化学療法や放射線治療により、がん細胞を減少させて自己免疫細胞の抑制を行った後、正常な造血幹細胞を点滴で投与し、正しい造血機能の回復を目指す治療方法です。根治できる可能性がある一方、ひと際副作用が強く、合併症も生じやすいため、医師とよく相談して治療方針を決めることが大切です。
慢性白血病
慢性骨髄性白血病の薬物療法としては、分子標的薬が標準です。白血病細胞を減少させて症状を和らげるのみならず、治癒も期待できます。無効の場合や進行例では造血幹細胞移植が考慮されます。
なお、“慢性リンパ性白血病”は進行が緩やかで無症状である場合には、ある程度進行するまで経過観察となることが一般的です。治療としては分子標的薬が主流です。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫の治療法には、抗がん薬(化学療法)や分子標的薬を用いる薬物療法、放射線治療、造血幹細胞移植、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法などがあり、病気のタイプや全身状態などに基づいて選択されます。
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法とは、患者のT細胞を採取し、特定の抗原を攻撃するキメラ抗原受容体(CAR)と呼ばれるタンパク質を作り出せるように作り替えて、患者の体に投与する治療方法です。再発または難治性のB細胞リンパ腫の一部に対して行われることがあります。
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫の治療法としては、骨髄腫細胞を減少させることを目的とした薬物療法や造血幹細胞移植が挙げられます。薬物療法には、分子標的薬、免疫調整薬、副腎皮質ステロイド、抗がん薬(化学療法)などの選択肢があります。
また、支持療法として、骨病変に対する放射線治療や薬物療法のほか、感染症に対する抗生物質の処方、腎不全に対する血液透析など、症状に合わせた治療が検討されます。
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