概要
成人T細胞白血病・リンパ腫(成人T細胞白血病)とは、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)に感染することによって発症する白血病のことです。
HTLV-1は主に母親が感染者の場合に母乳を介して子に感染するウイルスです。体内に入り込むと血液細胞の一種であるリンパ球のT細胞に感染することが分かっていますが、感染しても多くは何の症状もなく生涯を終えるとされています。しかし、感染者の5~10%は40歳以降にこの病気を発症します。この病気を発症すると免疫力低下、肝臓や脾臓の腫れ、リンパ節の腫れなどの症状を引き起こし、2年以内に亡くなるケースがほとんどです。
治療は抗がん剤治療と造血幹細胞移植がありますが、この病気は高齢で発症することも多いため年齢によっては副作用が強い治療が行えないことも少なくありません。
なお、HTLV-1の感染者の割合は地域によって異なり、日本では沖縄県、鹿児島県、宮崎県、長崎県に多いとされています。現在では、妊婦健診の際に母親のHTLV-1感染の有無を調べる検査が行われ、感染者であることが分かった場合はミルク育児を徹底することでHTLV-1感染者は年々減少しています。
原因
成人T細胞白血病は、HTLV-1と呼ばれるウイルスに感染することによって発症する病気です。
HTLV-1は人のT細胞に感染しますが、その多くは特に症状を引き起こすことなく生涯を終えるとされています。しかし、感染者の5~10%はHTLV-1に感染したT細胞が異常増殖を引き起こしてこの病気を発症します。
なお、HTLV-1の感染経路は感染者である母親の母乳を介するもの、感染者との性行為、輸血などが挙げられます。一方で、成人T細胞白血病は乳幼児期に母乳を介して感染して発症するケースがほとんどであり、成人になって感染して発症するのは高度の免疫不全に陥っている状態のときのみとの報告があります。
症状
成人T細胞白血病を発症すると、異常なT細胞が増殖するためリンパ節、肝臓、脾臓などの臓器が腫れるようになります。また、赤い発疹ができたり、皮膚の下にしこりができたりするなど皮膚症状がみられるのもこの病気の特徴です。そのほか、下痢や腹痛などの消化器症状が生じることも少なくありません。
また、この病気では免疫力の低下により感染症にかかりやすくなり、重篤な肺炎などを発症して死に至るリスクが高くなります。病気が悪化すると血液中のカルシウム濃度が高値となり、頭痛、倦怠感、便秘などの症状を引き起こし、意識障害が現れることがあります。
検査・診断
成人T細胞白血病が疑われるときは、以下のような検査が行われます。
血液検査
HTLV-1への感染を確認するには血液検査で抗HTLV-1抗体の有無を調べる必要があります。また、血液検査で貧血の有無、肝機能や電解質異常など全身の状態を評価するためにも血液検査が必要です。
末梢血液像検査
成人T細胞白血病を発症すると、血液中に“フラワーセル”と呼ばれる特殊な細胞が現れるようになります。
骨髄検査
血液を作る骨髄の中に異常な細胞が含まれているか否かを調べるために骨髄を採取して顕微鏡で詳しく観察する検査が行われます。この検査では成人T細胞白血病以外のタイプの白血病との鑑別に有用です。
画像検査
リンパ節や肝臓、脾臓などの腫れの程度や範囲を調べるためにCT、MRI、PETなどを用いた画像検査が行われます。
治療
成人T細胞白血病の治療は、抗がん剤治療と造血幹細胞移植を行うのが一般的です。しかし、この病気は60歳以降に発症するケースが多く、65歳を超えていると造血幹細胞移植は大きな負担となるため一般的には抗がん剤治療が行われます。
一方で、進行のスピードや症状、各検査の結果によっては積極的な治療を行わないケースもあり、皮膚の症状がある場合はしこりを切除する治療などが行われることもあります。
予防
成人T細胞白血病を予防するには、HTLV-1への感染を防ぐ必要があります。
上述したとおり、この病気は母乳を介してHTLV-1に感染した場合に発症するケースがほとんどであるため、母親がHTLV-1に感染している場合は母乳を与えずにミルク育児をすることが必要です。そのため、現在では妊婦健診でHLTV-1感染の有無を調べる検査が行われており、HTLV-1の感染率は年々減少しているとされています。
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