概要
多発性骨髄腫とは、血液細胞の1つである形質細胞が悪性化し、増殖していく病気です。
形質細胞は骨髄に存在し、腫瘍化した形質細胞が増えると骨が溶けて骨痛が生じたり、骨が脆くなって骨折しやすくなったりします。このような骨病変だけでなく、ほかにも腎機能の低下や貧血などがみられることもあります。ただし、全ての患者に症状が出現するわけではなく、健康診断などをきっかけとして発見されるケースも少なくありません。
多発性骨髄腫と診断された人は、女性よりも男性に多いとされています。30歳代や40歳代の若い人にもみられますが、高齢の人に多い病気で診断時の多くは60歳以上となっています。
多発性骨髄腫の治療では病勢のコントロールを目指して、主に薬物療法が行われます。
原因
骨髄の中にある血液細胞の1つの“形質細胞”が悪性化することで発症します。形質細胞が悪性化する原因については、まだ明らかになっていません。
形質細胞は主に体内に侵入した細菌やウイルスなど異物を攻撃する“免疫グロブリン”というタンパク質(抗体)を作るはたらきを持っています。この形質細胞が悪性化したものを骨髄腫細胞といい、多発性骨髄腫では骨髄腫細胞が骨髄内で増殖していき、異物を攻撃する力のない役に立たない抗体(Mタンパク)を作り続けます。骨髄腫細胞やMタンパクが増えることで、正常な血液細胞(赤血球・白血球・血小板など)や正常な抗体の産生が妨げられ、体にさまざまな悪影響が及ぶようになります。
なお、この病気は一般に遺伝することはないと考えられています。
症状
多発性骨髄腫は病気の進行が比較的遅く、初期には自覚症状が乏しいですが、徐々に以下のような症状が現れます。
骨病変
もっとも多くみられるのが骨の症状です。骨髄腫細胞は骨を破壊する破骨細胞を刺激し、骨を作る骨芽細胞のはたらきを抑えます。その結果として、骨が脆くなって骨折しやすくなったり、背骨や腰骨などに痛みが出現したりします。
高カルシウム血症
体内にあるカルシウムの90%以上が骨に存在し、骨髄腫細胞によって破骨細胞が活性化されることで、カルシウムが血液中に放出されて血中のカルシウム濃度が高くなります。
これによって、体のだるさや疲れ、食欲不振、吐き気、喉の渇き、多尿などの症状がみられるようになります。重篤な場合には昏睡状態に陥ることもあります。
腎臓の機能低下
腎臓は血液から不要な物質をろ過して排泄する役割を持っていますが、骨髄腫細胞が作り出すMタンパクの一部が腎臓の糸球体でろ過された後で尿細管に詰まってしまうことがあります。また、まれに腎臓の糸球体や尿細管に沈着することもあります。その結果、体内の不要物のろ過・排泄がスムーズに行われなくなります。
腎機能の低下の程度が軽い間は自覚症状がほとんどありませんが、腎機能が著しく低下すると、むくみや息切れ、吐き気などの症状が現れます。
貧血
骨髄腫細胞によって正常な血液細胞の産生が妨げられ、酸素を運搬する赤血球が減少することで貧血が生じます。貧血が進行すると、動悸や息切れ、頭痛、胸痛などが起こります。
そのほか
細菌やウイルスなどの異物から体を守る正常な免疫グロブリンが少なくなるために免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。また、頭痛や視覚障害、出血傾向、下肢の麻痺などの症状が現れることや、心臓や腎臓など全身の臓器にMタンパクの一部が沈着するアミロイドーシスを合併することもあります。
検査・診断
多発性骨髄腫では骨髄細胞からMタンパクが作られるため、まずは血液検査や尿検査(畜尿検査)でMタンパクの有無を調べます。Mタンパクが検出されると、次に骨髄腫細胞の増殖を確認するためや骨の異常の有無を調べるために、骨髄検査(専用の針を腸骨に刺して骨髄液や骨髄組織を採取する)や画像検査(レントゲン・CT・MRIなど)が行われ、これらの検査結果を総合して診断されます。
多発性骨髄腫の進行度を表す病期はI~IIIの3段階に分類され、血清ミクログロブリンや血清アルブミンの数値などによって決定されます。
治療
多発性骨髄腫は根治が難しいことから、病勢コントロールを目指すことが治療目標となります。多発性骨髄腫は早期治療によって予後が改善しないことや、治療による副作用のリスクを考慮して、症状がないうち(“くすぶり型骨髄腫”と呼ばれます)は経過観察をし、症状が出てから治療を始めるのが一般的です。
しかし、最近では新薬の開発によって以前よりも予後が大きく改善しています。
薬物療法
現在使用されている薬には、ボルテゾミブ、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、エロツズマブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブクエン酸エステル、シクロホスファミド水和物、メルファラン、デキサメタゾンなどがあります。
一般的に初期治療として、ステロイド剤のデキサメタゾンまたはプレドニゾロン(内服薬)と、プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブ(注射薬)あるいは免疫調節薬のレナリドミド(内服薬)が用いられます。また、ダラツムマブなどの抗CD38抗体の併用でより高い効果が期待できます。
このような初期治療で十分な効果がみられなかった場合や再発した場合には、ほかの薬が用いられます。
移植療法
多発性骨髄腫に対する主な移植療法として、患者自身の造血幹細胞を移植する自家末梢血幹細胞移植療法があります。
抗がん剤を大量に使用することで腫瘍細胞を多く減らすことができますが、その一方で造血幹細胞もダメージを受けて血液を作る能力が失われるため、造血幹細胞をあらかじめ採取して保存しておき、大量化学療法(大量のメルファラン投与)後にそれを戻して血液を作る能力を回復させます。
また、同種移植療法という方法もあります。これは自分の造血幹細胞ではなく、健康な血縁者もしくは非血縁者から採取した造血幹細胞を移植する方法です。自家末梢血幹細胞移植療法よりも高い効果を得られる可能性がある反面、合併症の発症率が高く、副作用も多いといわれています。
そのほかの治療法
骨病変の進行をおさえる目的でビスホスホネート製剤やデノスマブの投与、骨病変による局所的な痛みを抑えるために放射線療法が行われることもあります。また、薬の副作用によっては必要に応じて薬を減量・休薬したり、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与や成分輸血が行われたりすることもあります。
セルフケア
多発性骨髄腫では、免疫力が下がって感染症にかかりやすくなるため、日頃から基本的な感染症対策(マスクの着用・手洗い・うがい)を心がけましょう。
適度な運動を行うことも大切です。運動によって骨に適度な刺激が加わり、骨の丈夫さをある程度維持することができます。ただし、負荷の強い運動は骨折の危険もあるため、軽い運動を行うようにしましょう。腰背部痛がひどいときにはコルセットを装着したり、下肢痛があるときには杖を使用して、それ以上の骨折の進行を予防することも大切です。
また、多発性骨髄腫では腎機能の低下がよくみられます。腎機能の負担を軽くするためにも、水分を意識的に取るようにしましょう。
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