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多発性骨髄腫の治療。完治が難しい病気

  • #多発性骨髄腫
  • #血液の病気
  • インタビュー
  • 公開日:2015/06/28
  • 更新日:2017/01/11
多発性骨髄腫の治療。完治が難しい病気

「多発性骨髄腫」とは、身体を異物から守る免疫系で重要な役割を担っている「形質細胞」という細胞が「骨髄腫細胞」にがん化してしまうという、治療の難しい病気です。多発性骨髄腫にはどのような治療を行っていくのでしょうか。多発性骨髄腫診療の第一人者である国立国際医療研究センターの萩原將太郎先生にお聞きしました。

多発性骨髄腫の治療とは

がん細胞である「骨髄腫細胞」を死滅させていくことが、多発性骨髄腫の治療です。そのためには、さまざまな種類の抗がん剤を用います。抗がん剤による治療のことを化学療法と言います。

比較的若くて元気な方(具体的には、年齢が65歳以下で肝機能・腎機能・心肺機能に大きな問題のない方)には、「寛解導入療法」という初期治療のあとで、大量の抗がん剤による化学療法をもちいた「造血幹細胞移植」を行います。造血幹細胞移植の際に行う化学療法は非常に強力で、がん細胞である骨髄腫細胞も正常な血液細胞も、一度はすべて死滅させてしまいます。その後に造血機能(血液を造る機能)を再生させるために造血幹細胞を移植します。移植した幹細胞が骨髄で生着すると新しい血液細胞が増えてゆきます。十分に白血球、赤血球、血小板などの血液細胞が回復したのちに、地固め療法という比較的強力な治療を行い、引き続いて維持療法という弱めの治療を長期間続けます。造血幹細胞移植の効果が不十分であった場合には、施設によっては移植を2回連続で行うこともあります。

年齢が高い方(一般に66歳以上)にはこの大量化学療法・造血幹細胞移植は行えないため、治療は、寛解導入療法と、それに引き続く維持療法が中心となります。治療法についての詳細は、別記事でより詳しく説明します。

多発性骨髄腫の治療は、どの段階で開始するのでしょうか?

CRAB症状
C:カルシウム(calcium)値の上昇 カルシウム値>11mg/dL
R:腎臓(renal)の障害 クレアチニン値>2mg/dL
A:貧血(anemia) ヘモグロビン値<10g/dL
B:骨(bone)の病変 骨の病変がある

多発性骨髄腫には、「無症候性(症状がない)」の骨髄腫、「症候性(症状がある)」の骨髄腫の二つがあります。上図の「CRAB」症状のうち一つでも当てはまる場合には症候性の多発性骨髄腫と診断します。一般に「CRAB」がない場合には早めに治療をする必要はありません。しかし、「CRAB」がない骨髄腫でも以下のようなケースでは症候性骨髄腫と診断します。
具体的には、

  • 骨髄腫細胞(がん化した骨髄腫細胞)が60%以上ある
  • フリーライトチェーン(抗体の検査法)の結果、比率の数値が100以上である
  • 全身のMRIを撮影して、2箇所以上に異常が見られる(ただし、全身のMRIをとるには時間がかかり、どこの施設でもできるわけではありません。)

無症状なのに「検査で分かる」のはなぜ?

タンパク質のいろいろな指標(A/G比(アルブミンとグロブリンの比)、TTT、ZTT)が健康診断や人間ドックの検査に組み込まれることがあり、そこから見つかることがあります。

多発性骨髄腫治療の目標

多発性骨髄腫は、完治させるのが極めて難しい病気です。したがって、治療の目標はできるだけ「いい状態を継続していく」こととなります。「いい状態」とはがん細胞である骨髄腫細胞を少しでも減らすことです。病気そのものは完治できなかったとしても、「症状が表に出てこない状態で質の高い生活を維持できること」がひとつのゴールになります。もしがんが進行して「末期症状」の状態になったとしても、ひとつひとつに対処していきます(末期症状については別記事参照)。

治療効果の指標

治療を続けて行くとMタンパクが減ってゆき、骨の痛みや貧血症状などが和らいできます。治療効果は血液検査や尿検査で調べることができます。

国際骨髄腫ワーキンググループ2011
完全寛解(CR) 免疫固定法で血清および尿中にMタンパクを認めない
  体に形質細胞腫を認めない
  骨髄穿刺で形質細胞5%未満
厳密な完全寛解(sCR) 完全寛解に加えて、フリーライトチェインのκ/λ比が正常
とてもよい部分寛解(VGPR) 免疫固定法ではMタンパクを認めるが、蛋白電気泳動でMタンパクを認めない
  あるいは90%以上の血清Mタンパクの減少および尿中Mタンパク<100㎎
部分寛解(PR) 血清Mタンパク50%以上減少、尿中Mタンパク90%以上減少あるいは<200㎎
  血清・尿でMタンパクが測定できない場合には、フリーライトチェインの差が50%以上減少
  骨髄穿刺で形質細胞50%以上減少(ベースラインで形質細胞30%以上の場合)
  形質細胞腫がある場合、50%以上のサイズ縮小
安定(SD) CR,PR,PDのどれにもあてはまらない
再燃あるいは進行(PD) 血清Mタンパクあるいは尿中Mタンパク最低値から25%以上の増加
  骨病変あるいは形質細胞腫の増大あるいは新たな病変の出現
  血清カルシウム値の増加

また、最近はどこまで骨髄腫細胞が少なくなっているのかについて、「微小残存病変」(残っている小さな病変)を検出するためのさまざまな検査が用いられており、新しい検査も開発されています。フローサイトメトリーという機械を使って骨髄腫細胞表面の標識を見分ける方法や、遺伝子を増幅して僅かな残存を見つける方法などが開発されています。

MGUSとは?

MGUS(臨床的意義の不明なMタンパク血症)という疾患があります。「腫瘍がなくてもMタンパクが出るが、症状を引き起こさない」状態です。これは50歳以上では約2%程度の人に見つかる比較的頻度の高いものです。ほとんどの場合、症状はなく特別な治療を必要としませんが、年間約1%の確率で多発性骨髄腫や原発性アミロイドーシスに進展することが知られています。また、一部の人では腎機能障害が出現することがあるため、定期的な蛋白尿の検査などが必要です。
多発性骨髄腫を治療していると、非常によく効いているのにMタンパクが少量残ることがあります。この場合にはMGUSに戻ったと考えてもよいかもしれません。

治療についての説明は、次の記事に続きます。

萩原 將太郎

萩原 將太郎先生

東京女子医科大学 血液内科講師

日本における多発性骨髄腫の第一人者。浜松医科大学を卒業後、沖縄県立中部病院にて研修。その後、国立国際医療センターで血液内科レジデントを経て、北里大学医学部助手、シアトルのFred Hutchinson Cancer Research Centerへ留学、骨髄移植を学び、国立国際医療研究センター血液内科診療科長を経て現在は東京女子医科大学血液内科講師を務める。AIDS関連悪性リンパ腫に関する研究や多発性骨髄腫の新規治療に関する多施設共同臨床試験の実施など、血液内科に関する様々な分野に精通している。

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