概要
血液にはさまざまな細胞が含まれ、骨の中にある骨髄と呼ばれる場所で主に作られます。形質細胞は通常、抗体と呼ばれる免疫反応にかかわる物質を作っています。骨髄に含まれる“形質細胞”ががん化して骨髄腫細胞ができます。
骨髄腫とは、骨髄腫細胞が異常に増殖する血液のがんです。この形質細胞が異常に増殖するために、骨の中がパンパンに膨れ上がって痛みが出たり(骨痛)、骨を壊す役割を持った細胞(破骨細胞)を活発にさせて骨を溶かして簡単に骨折する状態にします。また、血液の工場である骨髄の働きを邪魔することで、通常の血液細胞が作れなくなり様々な症状が起きます。骨髄腫細胞は異常なたんぱく質を大量に作り出すため、体の異常物質を取り除く役割をしている腎臓に大きな負担がかかり、深刻なダメージを与えます。
高齢者に多く発症し、診断される平均年齢は65~70歳です。骨髄腫細胞は血液の流れにのって体中を巡り、時には皮膚や骨、内臓などに塊を作ることがあります。最終的に血液中に骨髄腫細胞が増加し、白血病を発症することもあります。
原因
骨髄腫の原因は不明です。 ベンゼン環を含む有機化合物や放射線、除草剤や殺虫剤などに長期間触れることで発症する危険性が高まります。遺伝的要因やウイルス感染なども発症に関連があります。
症状
骨髄腫の症状は、無症状から重篤な状態まで数多くあります。
骨に関わる症状
最も高頻度な症状は、背中や腰の痛み(骨痛)です。動いたときや姿勢を変えたときにひどくなり、反対に安静にしているとよくなります。また、背骨が溶けて骨折しやすくなり低身長になります。軽くぶつけただけで手や足を簡単に骨折してしまいます(病的骨折)。骨が溶けることでカルシウムが血液中に大量に溶け出し、高カルシウム血症になります。また背骨を骨折するとせき髄と呼ばれる太い神経の束にダメージを与え、足先がしびれたり、チクチクしたり、筋力が低下したりします。
血液に関わる症状
正常の血液が不足するため、全身がだるい、疲れやすい、やる気が出ない、めまいがする、少し動いただけで息切れする、いつもより風邪をひきやすい、鼻血がでやすい、などの症状が現れることがあります。
検査・診断
血液検査
血液に含まれる細胞の数や形などを調べます。また、骨髄腫細胞が作る異常なたんぱく質が含まれていないかどうかも調べます。腎臓の機能もチェックします。
尿検査
尿に骨髄腫細胞が作る異常なたんぱく質が含まれていないかどうか調べます。
骨髄検査
血液を作る工場である骨の中の骨髄をほんの一部とります。うつ伏せの姿勢で、局所麻酔を行い腰の骨に針をさします。病理医と呼ばれる別の医師が顕微鏡を使って、形質細胞ががん化していないか詳細に観察します。また、染色体検査といって、細胞の中の設計図にどのような異常が起きているのかについても調べます。
画像検査
X線検査やCT検査で骨が溶けている場所がないか調べます。約8割の患者さんでは骨が丸く薄くなっている異常が見つかります。
治療
病気のタイプや年齢、進行度、症状によって治療の選択は大きく変わります。血液や骨髄検査の結果から病気の進行具合を示す指標があり、大きく低リスクと高リスクの二つに分類されます。リスク分類は予後に影響します。
治療は高カルシウム血症、腎不全、貧血、骨病変などの臓器障害がなければ、ほとんど無症状で数か月から数年間は治療を行うことなく、定期的に通院しながら検査を行い病気の進行具合を観察します。
臓器障害が出始めたら以下に示すような治療を受ける必要があります。 治療法は大きく以下の5種類に分けられます。複数の薬剤を組み合わせて治療が行われることもあります。これらの治療法をどのような患者さんに行うのが適切なのか、その選択方法は非常に複雑になっています。
新規治療薬
従来の抗がん剤とは作用や働きが異なる薬剤です。多くの薬剤はステロイドの一種であるデキサメタゾンと併用します。飲み薬と点滴薬の両方があります。1)免疫調節薬、2)プロテアソーム阻害剤、3)モノクローナル抗体、の3種類の薬剤に大きく分けられます。1)は飲み薬です。2)は飲み薬と注射薬があります。3)は注射薬です。3)は骨髄腫細胞の表面にでている特徴(特異的な抗原)を認識して骨髄腫細胞を取り除きます。2017年夏においては最も新しい治療法です。
化学療法
抗がん剤などの薬物を用いて骨髄腫細胞を退治する治療です。多くの場合は入院して、治療が行われます。身体にかかる負担が少ない治療から大きい治療まで幅広い選択肢があります。病気の進行具合と患者さんの状態に応じて、一つの薬剤を選択し少ない量から治療を開始する場合、あるいは複数の薬剤を組み合わせ同時にたくさんの量で治療を行う場合があります。
効き目が高い治療は、身体にかかる負担が大きいです。高齢者に多く発症するため、複数の薬剤を組み合わせた治療に耐えられない患者さんがいます。その場合、治療の強さを少し下げ、できるだけ副作用を抑えながら悪性の細胞が増えないようにコントロールします。
ステロイド療法
飲み薬と注射薬と両方があります。複数の種類(プレドニゾロンや デキサメタゾン)があります。長期間治療を行うと糖尿病、高血圧、不眠、顔がむくむ、感染しやすい、などの副作用が出ることがあります。
造血幹細胞移植療法
HLA(組織適合性抗原)という型が一致するドナーから提供された造血幹細胞を移植することで、血液の大本の細胞を入れ替える治療です。唯一、骨髄腫を完全に直すことのできる治療です。上記の化学療法で述べたような通常の抗がん剤治療を行い、病気を良い状態にコントロールした後に続いて治療を行うことがほとんどです。大量の抗がん剤や放射線を用いて、骨髄にいる悪性の細胞だけでなく正常の細胞まですべて破壊してしまうため、身体にかかる負担が非常に大きく、高齢者がこの治療を受けることは稀です。
放射線療法
骨髄腫細胞が骨や内臓に塊を作った場合、放射線をその部位に直接当てることで骨髄腫細胞を取り除きます。上記に述べたような治療と併用することがあります。神経の太い束(せき髄)に塊が接していて症状がある場合には、こちらの治療を優先して行うことがあります。
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