「多発性骨髄腫」とは、身体を異物から守る免疫系で重要な役割を担っている「形質細胞」という細胞が「骨髄腫細胞」にがん化してしまうという、治療の難しい病気です。多発性骨髄腫が進行すると、どのような症状が現れるのでしょうか。国立国際医療研究センター(当時。現・東京女子医科大学)の萩原將太郎先生にお聞きしました。
多発性骨髄腫が進行すると、体のあちこちに骨の痛みが出てきます。それに対しては痛み止めの内服や経皮吸収剤で対策をします。具体的には「オピオイド」と「アセトアミノフェン」の内服です。骨髄腫はあっという間に腎機能障害を起こすので、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は使いづらくなります。 オピオイドには、モルヒネ製剤、オキシコドン、フェンタニルパッチ(経皮吸収剤)などがあります。強い痛みにはアセトアミノフェンとオピオイドを併用します。また、ゾレドロネートやデノスマブなど骨吸収を抑える薬剤も骨の痛みには有効です。
赤血球減少により貧血が起きます。貧血だけでなく、血小板減少や白血球減少も起きます(化学療法を繰り返すことも白血球が減る原因になります)。貧血に対しては「エリスロポエチン」(貧血を改善させるための腎臓由来のホルモン)を用いたり、また場合によっては輸血をすることがあります。
多発性骨髄腫の重要な合併症として腎臓の機能障害があります。骨髄腫が骨を溶かすことによって起きる高カルシウム血症は急性腎不全を引き起こします。また多発性骨髄腫のMタンパクが腎の尿細管に詰まってしまい腎障害をおこすことをキャストネフロパチーと呼びます。骨髄腫から分泌され異常タンパク質が腎臓に沈着してアミロイドという物質に変化してネフローゼや腎不全を起こすこともあります。時には骨髄腫細胞が直接浸潤することもあります(骨髄腫細胞(がん細胞)が腎臓に浸潤していきます)。さらには、細菌やカビも直接腎臓に浸潤してきます。また、高カルシウム血症の結果としてカルシウムが腎臓に沈着していきます。
多発性骨髄腫に対する治療をすすめることにより腎障害が軽快することがありますが、腎不全が進んだ結果、透析を必要とすることもあります。もし、痛み止めとしてロキソプロフェンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤を服用している場合には即座に鎮痛剤を中止します。
高カルシウム血症は危険な合併症です。骨髄腫細胞により骨を破壊する「破骨細胞」が活性化して骨を溶かすことによって起きます。意識障害、四肢の脱力、不整脈、急性腎不全などが主な症状です。適切な診断と治療が遅れると時に死に至ることがあります。十分な補液と副甲状腺ホルモン剤、ステロイド剤などによって血清カルシウム値の速やかな正常化を図ります。最近では「ゾレドロネート」「デノスマブ」などにより骨の融解を防ぎ、血中カルシウム値を迅速に正常化することができるようになってきました。
但し、デノスマブでは、カルシウム値が下がりすぎることがあるため長期間使用する場合にはビタミンDとカルシウム剤による補充が必要です。
サリドマイドやボルテゾミブ、ビンクリスチンなどの抗がん剤は、末梢神経障害をおこすことが知られています。手や足の指先あるいは足の裏にしびれが出てきます。ピリピリとした痛みがでることもあります。また、末期になると、骨髄腫細胞(がん細胞)は末梢神経や中枢神経にまで浸潤することが報告されています。最近、造血幹細胞移植や新規薬剤などにより長期生存が可能になった反面、末期に中枢神経を含む様々な臓器へ骨髄腫細胞が浸潤するケースが増えているようです。
多発性骨髄腫細胞から分泌される異常蛋白がアミロイドという蛋白に変化して臓器に沈着することがあります。このアミロイドが心臓にたまってしまったときには致命的な不整脈や心不全を起こすことがあります。
感染症は最も頻度の高い死因の一つです。多発性骨髄腫の患者さんは、肺炎や敗血症(全身に細菌がまわること)を起こしやすくなります。多発性骨髄腫ではMタンパクが増える反面、正常な免疫グロブリンが少なくなるため、免疫グロブリンによる「オプソニン作用」がなくなると考えられています。オプソニン作用は、インフルエンザ桿菌や肺炎球菌のように「莢膜が厚い菌(除去しにくい強い菌)」を除去するためにはとても重要な作用ですので、その作用が弱くなると、インフルエンザ桿菌や肺炎球菌による感染症に罹りやすくなります。多発性骨髄腫では正常な免疫グロブリンが作られにくいためワクチンの効果が弱くなるかもしれませんが、肺炎球菌ワクチンなどの予防接種は是非受けておくべきです。
また、治療のためにステロイドを長期投与している場合には真菌(カビ)やウイルス(特に帯状疱疹ウイルス)に対して非常に弱くなるため注意が必要です。
東京女子医科大学 血液内科講師
萩原 將太郎 先生の所属医療機関
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