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急性白血病(AML:急性骨髄性白血病、ALL:急性リンパ性白血病)の検査、診断の重要性と治療内容

急性白血病(AML:急性骨髄性白血病、ALL:急性リンパ性白血病)の検査、診断の重要性と治療内容
小川 啓恭 先生

大阪暁明館病院 血液内科部長

小川 啓恭 先生

目次
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白血病の治療には、抗がん剤による治療、分子標的薬などの新規治療薬による治療や、最終的には造血幹細胞移植があり、患者さん一人ひとりの病態に合った治療が可能です。白血病には多くの病型があり、タイプ別に治療法や予後が変わってくるため、治療前に行う検査と診断が重要になります。

大阪暁明館病院 血液内科部長の小川 啓恭(おがわ ひろやす)先生に、急性白血病(AMLとALL)の検査や診断、治療の概要などについてお話を伺いました。

白血病の疑いがある場合は、血液検査や骨髄検査を行います。また、染色体検査、遺伝子検査などを行い、治療計画を立てます。さらに、必要に応じて臓器の異常や感染症などの合併症の有無を確認するために、超音波検査やCT検査などを行います。

血液を採取し、白血球数、ヘモグロビン値、血小板数を測定すると同時に、顕微鏡で末梢血に出現している白血球の性状を観察します。急性白血病では、正常時にはみられない白血病細胞が出現し、赤血球や血小板などが少なくなります。

骨髄検査は、白血病の確定診断および病型の分類に役立ちます。

骨髄検査には、骨髄穿刺(こつずいせんし)と骨髄生検があります。骨髄穿刺は、局所麻酔をしたうえで腰の骨(腸骨)もしくは胸の骨(胸骨)に細い針を刺し、骨髄液を注射器で吸引採取して骨髄液に白血病細胞が含まれていないかを調べます。

場合によっては骨髄生検が行われます。骨髄生検は、腰の骨に針を刺して骨髄組織を採取し、白血病細胞の存在の有無に加えて、骨髄の線維化、骨髄細胞の多寡などを調べます。

白血病の病型を決めるため、ペルオキシダーゼ染色(AMLとALLを判別する)、エステラーゼ染色(AMLの病型を判断する)などの特殊染色を行います。さらに、白血病細胞の性格は個々の患者さんで異なるため、個々の白血病細胞がつくり出すタンパクをそれぞれのタンパクに対する抗体を用いて調べます(細胞表面マーカー)。細胞表面マーカーの解析は、治療効果を判定する際にも用いられます。

骨髄検査で白血病細胞の有無を調べると同時に、その白血病細胞の染色体検査や遺伝子検査が行われます。染色体異常の有無と種類は、治療方針の決定、治療効果、予後の判定などに用います。特にALLでは、フィラデルフィア染色体の有無で治療薬が変わるため、染色体検査が重要な検査となります。

染色体検査では染色体の培養が必要であり、通常、検査結果が出るまでに1〜2週間ほど時間がかかります。一部の染色体異常は、関連する遺伝子異常が分かっていますので、PCR法を用いて同定することも可能です。また、染色体検査では分かりませんが、FLT3遺伝子の変異を遺伝子検査で同定することが重要で、予後や治療法が変わる可能性があります。

急性白血病は、最初に行う寛解導入療法により患者さんの大半は完全寛解に入りますが、一方で、再発することが多い病気です。骨髄で白血病細胞が5%以下に減少すれば、完全寛解と診断されます。すなわち、完全寛解とは、白血病細胞が体から完全に消失したのではなく、正常な骨髄細胞のうち、5%以下の比率で存在している可能性があることを示しています。白血病に特異的な遺伝子異常を定量的に増幅して調べるリアルタイムPCR法では、微量に存在する白血病細胞を定量的に測定することができます。このように、顕微鏡で見ても分からない微量の白血病細胞を微小残存病変(MRD)といいます。MRDを測定するためのツールを、MRDマーカーと呼びます。キメラ遺伝子やWT1遺伝子がそれに相当しますが、患者さんごとにMRDマーカーは異なりますので、治療前に見つけておくと的確な治療が可能になります。

急性白血病は種類によって治療方針や予後が変わるため、上記に述べたように、治療に入る前に一連の検査を行う必要があります。急性白血病は、AMLとALLに大別され、それぞれさらに細かく“FAB分類”に基づいて分けられます。

AMLは、M0〜M7まで8つのタイプに分けられます。M0は、もっとも未分化な白血病細胞からなるタイプです。M2、M3、M4の一部は適切な化学療法を行えば、予後は良好といわれています。M1、M5、M6、M7では、化学療法で寛解導入を目指し、その後の再発を防ぐために、状況が許せば、同種造血幹細胞移植が行うことがあります。また、M3は特殊で、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)(disseminated intravascular coagulation:DIC)を非常に高い頻度で伴うことから、以前の化学療法は大変でしたが、最近では分化誘導剤であるオールトランス型レチノイン酸(ATRA)を用いることで飛躍的に治療成績が向上しました。このように、AMLでもタイプによって予後や治療方針は大きく変わってくるのです。

ALLは、L1〜L3の3種類に分けられます。小児はL1、成人の場合はL2、L3のどちらかになります。それぞれ予後はさほど変わりませんが、治療で使う薬剤が異なります。

AMLとALLでは、使用する薬剤が多少変わるものの、基本的な流れは同じです。

初期治療として、“寛解導入療法”と呼ばれる多剤併用化学療法が行われます。これは、強力な抗がん剤を用いて、骨髄に多く存在する白血病細胞を正常な細胞もろとも壊し、完全寛解(白血病細胞が5%以下)を目指す治療法です。正常の細胞は白血病細胞よりも再増殖スピードが速いため、骨髄の中をいったん更地のような状態にすることで、正常な造血細胞が白血病細胞に競り勝って増えていくのです。寛解導入療法は、強力な抗がん剤を使用するため、副作用が強く出るデメリットがあります。急性白血病の場合には、80%ほどの患者さんが寛解導入療法で寛解に至ります。

寛解導入療法で寛解導入に成功した後は、わずかに残っているであろう白血病細胞を0に近づけるための“寛解後療法”を行います。寛解後療法では、地固め療法と寛解を維持するための維持療法を行います。まず、数か月間、治療強度は弱いものの、寛解導入療法で使った薬剤の一部に別のいくつかの抗がん剤を組み合わせて地固め療法を行います。次に、基本的に飲み薬の抗がん剤を服用して、定期的に入院を繰り返しながら1〜2年ほど維持療法を行います。最近では、長い維持療法を行わず、高用量シタラビンで強化療法を行い、短期間での治療終了を目指す方法も行われています。白血病のタイプによっては、抗がん剤だけでなく分子標的薬との組み合わせで寛解を目指します。

寛解導入療法で寛解に導入できた後の抗がん剤治療では、骨髄検査に加えて、前述したMRDマーカーを用いて残存腫瘍量(ざんぞんしゅようりょう)を、定期的に検査します。また、ALLの患者さんでフィラデルフィア染色体が陽性だった場合は、RT-PCR法でBCR-ABL mRNAを調べることにより、MRDをモニタリングすることができます。血液学的な寛解であっても、BCR-ABL mRNAが存在していれば、事実上の再発を意味します。その場合には新たな治療が必要となります。

化学療法だけで寛解が難しい場合や、いったん寛解に入っても再発した場合は、 “造血幹細胞移植”を検討します。

造血幹細胞移植とは、まず化学療法や放射線治療により、骨髄にある悪性細胞を正常細胞もろとも根絶させ、その後、ドナーから採取した正常な造血幹細胞を静脈から投与することで、骨髄の再構築を図る治療法です。移植に用いられる造血幹細胞として、骨髄、末梢血(骨髄から血液中に流れ出た造血幹細胞)や、臍帯血(さいたいけつ)(胎児と母体をつなぐ臍帯の中に含まれる血液)の3つがあります。

造血幹細胞移植にはいくつかの種類があります。患者さん自身の造血幹細胞を使用するものを“自家造血幹細胞移植”と呼び、ドナーから提供された造血幹細胞を使用するものを“同種造血幹細胞移植(以下、同種移植)”と呼びます。白血病に対しては、同種移植が一般的です。同種移植は、血縁者、または非血縁者でHLA(白血球の血液型)が一致しているドナーから提供された造血幹細胞を用いて行われます。基本的には、HLAが完全に一致する血縁者ドナーを探しますが、もし該当するドナーがいない場合には、骨髄バンクや臍帯血バンクから提供を受けることができます。骨髄バンクからの移植の場合、ドナーを探し、調整する必要があるため、移植まで一定の期間(コーディネート期間)を要します。

移植の前には、移植前処置と呼ばれる化学療法や放射線治療を行います。どのような強度の移植前処置を行うかは、患者さんの状態や臓器障害の程度、患者さんの希望も考慮して選択します。たとえば、強力な移植前処置として骨髄破壊的移植(骨髄機能を完全に抑える)を行う“フル移植”は、副作用や合併症が起きやすいため、高齢の方や若年の方でも臓器障害がある場合は、フル移植よりも治療強度の弱い骨髄非破壊的移植(ミニ移植とも呼ばれる)を選択します。

フル移植では、移植前処置によって白血病細胞をできる限り死滅させてから、造血幹細胞移植を実施します。移植されたドナーの造血幹細胞は、患者さんの骨髄に到達し、そこで新たに血液細胞をつくります。感染症を防ぐのに重要な好中球が生着(移植した細胞が正常に機能すること)するまでは、通常2〜4週間程度かかります。

移植による合併症には、生着不全*、臓器障害、細菌やウイルスによる感染症やドナーの免疫細胞が患者さんの正常組織を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)などが挙げられます。また、移植前処置で使用する抗がん剤の種類によっては、脱毛、口内炎、吐き気などの副作用が起こることがあります。このような移植による合併症や再発がないかを確認するために、退院後も通院が必要です。

*生着不全:患者さんの免疫細胞がドナーから移植された造血幹細胞を異物として判断し、攻撃することで生着を妨げられること。

白血病は寛解しても再発のリスクがあります。そのため、治療が終わった後も定期的に血液検査などを行い、再発していないかを調べます。

一通り治療を行ったにもかかわらず、主治医に「寛解は困難」と言われた場合や、ドナーが見つからなかった場合には、HLAが半分一致していれば移植可能である“ハプロ移植”を検討することがあります。次のページでは、ハプロ移植について詳しくご説明します。

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