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遺伝性乳がん卵巣がんと診断されたら――がんの発症リスクに基づく予防と早期発見の重要性

遺伝性乳がん卵巣がんと診断されたら――がんの発症リスクに基づく予防と早期発見の重要性
富永 修盛 先生

市立東大阪医療センター がんゲノム医療センター長、臨床腫瘍科部長/乳腺外科

富永 修盛 先生

目次
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遺伝性のがんの一種である遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)と診断されると、がんを発症しやすい臓器やその確率などの情報に基づいて、がんの予防や早期発見・早期治療のための対策を取ることができます。そこで今回は、市立東大阪医療センター がんゲノム医療センター長/臨床腫瘍科 部長 富永 修盛(とみなが しゅうせい)先生に、遺伝性乳がん卵巣がんと診断された場合にがんの発症を予防するための方法(リスク低減手術)と同センターにおける取り組みについてお話を伺いました。

リスク低減手術とは、遺伝性乳がん卵巣がんと診断された場合に、がん発症リスクの高い乳房や卵巣をあらかじめ切除し、がんを防ぐ方法です。現在のところ、遺伝性乳がん卵巣がんに対して行われている手術は以下の2つであり、これらの手術を同時に行うこともできます。

  • リスク低減乳房切除術(RRM:Risk Reducing Mastectomy)
  • リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO:Risk Reducing Salpingo-Oophorectomy)

ただし、遺伝性乳がん卵巣がんと診断されても、全ての人が乳がん卵巣がんを発症するとは限らないため、これらのがん予防を目的とした手術を行うかどうかは、メリットやデメリットを踏まえて検討することが大切です。

乳がんが発生する乳房の“乳腺組織”をあらかじめ切除する手術で、乳がんの発症を90%以上減らすことができます。術式は乳房全切除術が基本となり、大胸筋、小胸筋以外の乳腺組織のほとんどを取り除きます。また、腋窩郭清(えきかかくせい)(腋の下にあるリンパ節の切除)は行いません。

手術の合併症としては、感染や再建術後の拘縮(こうしゅく)(再建した胸が硬くなったり痛みが生じたりすること)などがあり得ます。また、手術で乳腺組織を完全に取り除くことは難しく、乳がんの発症を完全には予防することができないため、その後も定期的な検査を行う必要がある点には注意が必要です。

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画像提供:PIXTA

なお、リスク低減乳房切除術を受けると胸の膨らみがなくなり、見た目が変化してしまいますが、乳がんの手術と同様に乳房再建術を受けることもできます。乳房再建術では、患者さん自身の腹部などから採取した組織やシリコンなどのインプラントを用いて、新たに乳房をつくります。手術の合併症として、患者さん自身の組織を用いた場合には移植した組織の壊死、インプラントによる再建では感染や拘縮、また頻度は低いですが乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)などを引き起こすことがあります。

リスク低減乳房切除術のみの場合、手術は1回、入院期間は5~7日程度です。乳房再建術を行う場合、手術回数や入院期間は術式により異なります。リスク低減乳房切除術と同時に行う一次再建の場合には手術回数は1回、リスク低減乳房切除術の数か月から数年後に実施する二次再建の場合には手術回数は2~3回です。入院期間は数日から2週間以上と幅があり、患者さんの体質や状況によって異なります。

卵巣・卵管を切除することで、卵巣がんの発症リスクを減らす手術です。卵巣がんは早期発見のための検査方法が確立されておらず、進行がんで見つかることが多いため、リスク低減卵管卵巣摘出術は卵巣がんの発症リスクを下げる有用な方法だといえます。本手術は、今後妊娠の予定がない35~40歳、遅くても45歳までに受けることがすすめられます。

リスク低減卵管卵巣摘出術の多くは腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術により実施され、卵巣がんが発生する卵管と卵巣を周囲の腹膜とともに切除します。手術は1回、入院期間は3~5日程度です(当院の場合)。手術の合併症として、出血、感染、腸管の損傷などが起こることがあります。なお、卵巣を摘出すると女性ホルモンが減少して閉経を迎えるため、更年期症状をきたすことがあります。日常生活に支障が出る場合には対症療法や漢方薬による治療、乳がん未発症の方についてはホルモン補充療法も検討されます。

サーベイランスとは、遺伝性乳がん卵巣がんの方において、がんを早期に発見するために、通常のがん検診よりもきめ細やかに行われる検診のことです。推奨される検査頻度や方法は対象となる臓器の特徴により異なりますので、以下に紹介します。

日本の乳がん検診では、通常、40歳以上の女性に対してマンモグラフィによる検査が2年に1回実施されています。しかし、遺伝性乳がん卵巣がん患者さんの場合には以下のように、がんをより正確に検出できる乳房造影(にゅうぼうぞうえい)MRIも用いて、より早期から検査を行います。

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遺伝性乳がん卵巣がん患者さんの性別、年齢に応じた乳がんの主なサーベイランス

卵巣がんは、おなかの膨満感や違和感などの自覚症状が現れても、がんとは気付きにくく、短期間に進行することの多いがんです。また、現時点では卵巣がんを容易に検出することのできる腫瘍(しゅよう)マーカーや画像検査がありません。そのため、遺伝性乳がん卵巣がんの方は、卵巣がんの予防のためにリスク低減卵管卵巣摘出術を受けることが推奨されます。

手術を選択しない場合には婦人科医と相談のうえ、30~35歳ごろから経腟超音波検査および腫瘍マーカー(CA-125)による定期的な評価(3~12か月ごとが目安)を検討します。

男性の場合は、前立腺がんのサーベイランスとして、40歳から腫瘍マーカー(PSA)検査を1年に1回受けることが推奨されます。

遺伝性乳がん卵巣がんの方に対するリスク低減手術やサーベイランスは、すでに乳がんまたは卵巣がんを発症している方に対しては健康保険が適用されます(下記の費用以外に、診察料や技術料、入院費などが必要になることがあります)。

また、検査で新たにがんが見つかった場合などは、その後のサーベイランスの費用に健康保険が適用されることもあります。当院の場合、費用は以下のとおりですが、高額療養費制度*の手続きを行うことで、患者さんが負担する金額は軽減されます(自己負担額上限の平均は8~9万円程度)。

*高額療養費制度は年齢や所得に応じて支給金額が異なります。不明点についてはおかかりの病院の医療相談窓口や加入している健康保険組合にご相談ください。

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遺伝性乳がん卵巣がんは、その影響が複数の臓器に及ぶこと、また長期的かつ計画的な健康管理が必要となることから、関係する診療科や専門的なスタッフと連携しながら検査や手術、サーベイランスを進めていく必要があります。

当院における遺伝性乳がん卵巣がん診療の強みは、総合病院として診断から治療・予防までを一貫して行うことができる点です。また究極の個人情報を扱うため、院内関係者を集め定期的に遺伝子診療委員会やHBOCカンファレンスを開催しています。多職種による議論から、治療・予防を客観的に評価できる環境を目指しています。

BRCA1/2遺伝学的検査に伴って行う遺伝カウンセリングには、担当医(乳腺外科の場合は日本乳癌学会 乳腺認定医)のほか、日本遺伝カウンセリング学会認定の臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーが同席し、患者さんを継続的にサポートしています。また、リスク低減手術を行う乳腺外科や産婦人科、乳房再建を担う形成外科、長期的なサーベイランスに向けて放射線技術科などの検査部門とも連携しながら、総合的な遺伝性乳がん卵巣がん診療を提供しています。

(遺伝カウンセリングの詳細については、前のページをご参照ください)

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日本人の2人に1人が生涯に1度はがんを経験する時代*にあって、がんに関して正しい知識を持ち、予防・早期発見に努めることは、私たちの健康管理のうえでとても重要なことです。

遺伝性乳がん卵巣がんの方は、一般の方に比べてがん発症リスクが高く、ご家族などへの影響などを考えると、その検査・診断を行うことに不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、遺伝子検査で得られた情報に基づいたがん対策は、患者さんの健康寿命を延ばし、人生をよりよく過ごすことができるだけでなく、ご家族にとっては早期からがんに対する心構えを持ったり対策を検討できたりと、強力な武器となり得ます。

私たちは、遺伝性乳がん卵巣がんに関する医学的な情報提供だけでなく、患者さんやご家族のお話を伺いながら、それぞれに合った対策や看護ケア、そして患者さんのwell-beingを考え、実践することを大切にしています。遺伝性乳がん卵巣がんに関して気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。

*国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」累積がん罹患リスク(2019年データに基づく)より

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