院長インタビュー

専門性をいかした医療を届けたい―大阪労災病院の地域における役割と今後の展望

専門性をいかした医療を届けたい―大阪労災病院の地域における役割と今後の展望
田内 潤 先生

大阪労災病院 病院長

田内 潤 先生

この記事の最終更新は2017年09月11日です。

独立行政法労働者健康安全機構大阪労災病院は1962年(昭和37年)に大阪府堺市に開設されました。地域の中核病院として高度専門医療・急性期医療を提供するほか、労災病院として治療と就労を両立するための支援を行っています。ベッド数678床、24診療科で幅広い疾患に対応しながら政策医療も同時に行っている同院について、地域のなかで担っている役割や今後の課題・展望について、院長である田内潤先生にお話を伺いました。

当院は、1957年(昭和32年)に施行された労働福祉事業団法に基づいて設立された特殊法人である労働福祉事業団 (現独立行政法人労働者健康安全機構)によって全国で27番目の労災病院として開設されました。機構が所管する全国34労災病院のなかで最大のベッド数を有するリーディングホスピタルです。 国指定地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、臨床研修指定病院などの指定を受け、大規模な病院でありながらも、地域連携は早い時期から積極的に取り組んできました。現在紹介率は90%、逆紹介率は110%をそれぞれ超えています。病床の稼働率は、最近在院日数の短縮によって80%程度にとどまっていますが 、一日当たり60人前後という非常に多くの新入院患者さんを受け入れている状況です。

堺市では徐々に人口が減少する一方で、高齢者の数は増え続ける こ と が 予 測 さ れ て い ま す が 、労災病院として働く方々の健康を守りながら、 堺市二次医療圏での中核病院として堺市 の北部において特に専門性の高い急性期・高度急性期医療を 担っています。

当院の特徴一つは多くの手術数をこなしていることです 。年間約13,000件の外科手術を行っており、国内でも5位に入る実績を誇っています。 そのなかでも特徴的なのが、眼科手術、内視鏡手術、整形外科における手術です。

当院の眼科の手術件数は非常に多く、年間約6,000件強にのぼります。主に行われているのは、白内障、網膜・硝子体疾患の手術です。これらの手術に関しては、西日本においても質・量ともに随一の規模で、他道府県からも患者さんが受診に訪れるほどです。59床の眼科専門病棟を設けており、網膜剥離など緊急性の高い患者さんの当日入院にも対応しています。常に最新の医療機器をそろえ、2014年(平成26年)には、画像ファイリングシステムを導入しデータベースを構築しています。これにより、患者さんそれぞれの画像・検査データを一括管理し、より細かく経過を把握できるようになりました。

当院では、内視鏡を用いた手術を積極的に行っています。地域がん診療連携拠点病院としてがん患者さんの負担をできるだけ少なくすることを目指して、上部・下部消化管疾患や肝臓・胆のう・膵臓疾患に対する治療はもちろん、婦人科疾患や耳鼻咽喉科・頭頚部外科における内視鏡手術もほかの病院に先駆けて実施しているのが特徴です。婦人科では腹腔鏡下子宮体癌根治手術が2014年(平成26年)より保険適用になりましたが、当院ではそれ以前より大学病院にならんで先進医療として行ってきました。子宮頸がんに対する腹腔鏡下広汎子宮全摘出術も、2015年(平成27年)より先進医療として行っており、より体に負担の少ない治療方法を選択することが可能となっています。また、耳鼻咽喉科では、慢性化中耳炎真珠腫性中耳炎に対して行う鼓室形成術、耳硬化症に対して行うアブミ骨手術の大半で内視鏡下耳科手術を行っています。頭頸部外科でも、下咽頭がんや喉頭がんに対して内視鏡下経口的腫瘍切除を行っており、患者さんの負担が少ない治療を実現しています。

当院の整形外科は、総計21名の医師で診療を行っています。病床数136床を擁する病棟を備え、年間約1, 700件強の手術を行っています。この数は、全国でも有数の規模を誇っています。整形外科では5つの専門外科を設けており、それぞれで行っている手術は以下のようなものです。

  • 関節外科クリニック......股関節や膝関節疾患に対する人工股関節置換術など
  • スポーツ整形外科クリニック......膝関節や足関節の靭帯再建術、損傷した半月板の機能再建術など
  • 脊椎外科クリニック......脊柱変形や頚椎後縦靱帯骨化症による圧迫性脊髄症に対する手術治療
  • リウマチクリニック......破壊された関節に対する機能再建手術(人工関節置換術、足趾形成術、関節固定術など)
  • 手の外科クリニック......手関節疾患やリウマチによる手指・手関節障害に対する手術

労災病院として、仕事中に負傷した患者さんの整形外科的診療を行うことが多いのが特徴です。今後、脊椎疾患への手術や人工関節の手術に一層 注力していこうと考えています。

そのほか、心臓血管外科・循環器内科におけるハイブリッド手術室、泌尿器科における手術支援ロボットダ・ヴィンチ、整形外科におけるナビゲーション手術などを導入して、精度の高い高度な手術が行えるよう設備を整えています。

 

当院の循環器内科は、16名の医師で診療を行っており、堺市内の循環器系救急搬送の約半数を受け入れています。日本循環器学会専門医をはじめ、日本心血管インターベンション治療学会指導医・認定医など豊富な専門医資格を持った医師が多数在籍しています。心臓集中治療室(CCU)6床を備え、24時間体制で治療を行っている状況です。虚血性心疾患などに対するインターベンション治療や不整脈に対するアブレーション治療、 ペースメーカー治療は、地域でも中心的な役割を担っています。

年間の心臓カテーテル検査実施数は約1,300件です。最近ではアブレーション治療や末梢動脈疾患に対する血管内治療の実施数が増えており、今後、さらに実施数を増やせるよう注力していく予定です。

また循環器以外の領域の救急についても、診療各科の協力の下、専門性を生かした24時間救急に尽力し、断らない救急を目指しているところです。

当院は、疾患を持つ患者さんが治療と仕事を両立できるよう、治療就労両立支援モデル事業を行っています。対象としている分野は、がん・糖尿病脳卒中(リハビリ)、メンタルヘルスの4分野です。 以前は退職後は働かずに悠々自適で暮らしたいとか、病気になれば治るまで仕事は休んだ方が病気回復のためにもよいとする考え方が多かったと思います。しかし近年では年をとっても働ける間は仕事を通じて社会に貢献したい、また病気があっても可能であれば仕事を続けたいと望む人が多くなっています。特にがんに関しては、5年生存率が7割を超えようとしている時代を迎えながら、がんと診断されたらすぐに仕事を辞めてしまう傾向が続いており、後で仕事を辞めたことを後悔するケースが多くみられます。乳がんなど、症状が全身的でなくても、長期間にわたる抗がん剤治療がつづくため、副作用の影響で一時的にフルタイムで働けなくなり自主退職してしまうというケースなどです。私どもの治療就労両立支援センターでは、産業医や職場の方と相談しながら、症状のつらいときには負担を軽減し、症状が軽くなったらまた働いてもらうなどといった対応ができるよう職場と医療とのコミュニケーションの仲立ちをするコーディネータ機能の確立とその人材育成に取り組んでいます。

ただ単にコミュニティに所属するだけでなく、仕事を通じて社会に積極的に参加したいと考えている方は多くいます。当院では働きたいと望む方が働けるように、サポートしていくことが大切だと考えています。現在はこの4分野のみですが、今後は整形外科分野などにも広げて行ければと思います。

当院は、非常に症例数が多く、実技の経験を豊富に積めるところが特徴です。 診療だけでなく臨床研究も積極的に行なっており、忙しい病院でありますがやりがいのある職場環境といえるでしょう。働いている各科、各職種スタッフのあいだの風通しもよく、よい意味でのライバル心を持ち ながら互いに切磋琢磨できる環境が整っていると思います。海外留学にも対応しており、これまで3人の医師が当院から海外留学しています。成長するには知識と経験が必要ですが、海外留学では幅広い知識を身につけることができます。もちろん所属医局の意向もあり調整が必要ですが今後も留学支援を行って行きたいと思います。

当院は建物が非常に古いため、建て替え計画が進行中です。2021年(平成33年)には新病院に移ることを予定しています。新しい病院では急性期医療をより充実させるため手術室やICU、CCU、HCUなどの集中治療室を拡充したいと考えています。その際に、麻酔科医、集中治療医をいかに確保できるかが課題です。

私は、大規模病院といえどもひとつの病院がすべての医療分野を網羅する時代は終わったと考えています。地域の病院がそれぞれの病院の特性 ・専門性をいかし連携し合う、地域完結型医療を進めていくことが重要です。堺市は、一つの市、一つの医師会で一つの二次医療圏が成り立っているため、非常に連携がしやすい地域だと思います。当院のような大規模な病院や、回復期の患者さんを受け入れる病院、地域で診療を行っている開業医の先生など、すべての医療機関で協力しあっていかなくてはと思っています。

救急医療に関しては救急搬送を基本的にすべて受け入れる体制です。今後は、当院の高度な専門性をいかした中核病院としての救急医療に、より力を入れていく予定です。

田内潤院長

当院はこれからも地域の中核病院として、大学病院に準ずるような高度な急性期医療を提供していきます。引き続きご支援とご理解をよろしくお願いいたします。

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