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新生児マススクリーニングとは、赤ちゃんの時に先天性代謝異常などを早期に発見し、適切な治療を行い、その発症を防ぐことを目的に行われる検査です。検査は先天代謝異常症のほか、先天性甲状腺機能低下症と先天性副腎過形成症という病気も対象となります。
先天代謝異常症は遺伝子の異常によって体内の物質の代謝*を司る酵素に異常が起こり、代謝が障害されることで発症する病気の総称です。先天代謝異常症の中には、発達の遅れや重篤な状態に陥るリスクがありますが、いくつかの病気は早期に発見して食事療法などを行うことで、発症を未然に防ぐことができます。
先天性甲状腺機能低下症と先天性副腎過形成症は、ホルモンの異常によって起こる病気で、ホルモンを補充する治療を行うことにより発症を抑えることが期待できます。
日本では、1977年から公費で新生児マススクリーニング検査が行われるようになりました。検査の対象疾患数は都道府県や政令指定都市により異なりますが、現在では以下に挙げる病気を含むおよそ20疾患が検査対象です。
*代謝:生命の維持や体を動かすため、栄養素をエネルギーに変える体のはたらき
新生児マススクリーニングは、赤ちゃんが生まれた日を0日と数え、出生後4~6日の間に実施されます。
検査では、踵にランセットという器具を刺し、ごく少量の血液を採取して、特殊なろ紙に染み込ませます。
なお、ろ紙は検査センター(東京都の場合、東京都予防医学協会)に送られ、検査結果は検査センターから赤ちゃんが生まれた病院に通知されます。検査値に問題があった場合は、検査結果が出てから早期のうちに採血した医療機関または保健センター、精密検査医療機関から保護者へ連絡されます。異常がみられない場合、通常は1か月健診時に保護者へ結果が伝えられます。
先天代謝異常症は摂取した栄養がうまく代謝されないことで異常値が現れます。病気の判定にあたって、十分に栄養が供給されていないと検査値に誤りが生じるため、哺乳量が少ない場合は哺乳状態が改善してから再検査を行います。
また、出生時の体重が2,000g未満の低体重児は、可能な限り出生後4~6日の間に採血し、その後、出生後1か月、または2,500gに達した時期や、医療機関を退院する時期のいずれかの早い時期で再度採血を行います。
検査結果で再検査や精密検査が必要になっても、慌てずに対応することが重要です。
新生児マススクリーニングは先天性代謝異常の可能性をチェックするための検査であり、検査結果のみでは病気の発症が確実か診断できないケースがあります。また、病気でない場合でも何らかの不備があった場合には再検査が必要になるケースもあるため、慌てず医療機関の指示に従って対応しましょう。
新生児マススクリーニングは踵からごく少量の血液を採取するのみであり、検査時間は一般的な採血と同程度です。採血時にチクッとした痛みを感じる可能性がありますが、それ以外への影響はありません。
検査の結果には、以下の5パターンがあります。
新生児マススクリーンング対象疾患の中には、急に状態が悪くなる病気や、すぐに治療を開始しなければ後遺症が残る病気もあるため、検査で異常が認められた場合は早急に医療機関を受診しましょう。新生児マススクリーンング検査は、発症前の患者を早期に発見するために行います。したがって「症状が出ていないから医療機関を受診する必要はない」と判断するのは間違いです。異常値が見つかることで不安な気持ちになる方は多いかもしれませんが、新生児マススクリーニングの結果が出た段階では、病気があると確定したわけではなく、また場合によっては病気ではないのに異常値となる(偽陽性)こともあります。まずは検査結果について医師から詳しく説明を受けることが重要です。
要精検と診断された場合は、専門医で酵素活性測定や遺伝子検査などの検査を行います。これらの検査を行って、病気があることが確定されればその病気に対する適切な治療が行われます。たとえば、フェニルケトン尿症というアミノ酸代謝異常と診断された場合は、タンパク質制限などの食事療法が行われます。イソ吉草酸血症という有機酸代謝異常では、食事療法や薬物療法のほか、重症例では血液透析を行うこともあります。
検査の結果、精密検査や再検査が必要といわれた場合は、できるだけ早く検査を受けましょう。新生児マススクリーニングは病気の可能性をチェックする検査であり、要再検や要精検と診断された場合でも、病気があると決まったわけではありません。慌てずに医療機関の指示に従いましょう。
本記事で採用している検査名称はより一般的な表現を採用しておりますが、医療機関や検査機関によって異なる場合があります。また名称が異なる場合、検査内容も一部異なっている場合があります。