社会医療法人財団董仙会・恵寿総合病院が展開している「けいじゅヘルスケアシステム」は、医療から介護・福祉・保健まで包括的なヘルスケアを統合電子カルテによってワンストップで提供する革新的な事業モデルが評価され、2016年に第1回日本サービス大賞・総務大臣賞を受賞しました。「1患者1ID」を軸に展開する地域医療連携のさまざまな取り組みについて、神野正博理事長にお話をうかがいました。
(画像:神野先生ご提供資料より)
能登半島全体の人口はおよそ21万人です。一見すると小さいように思われますが、一周すると関東の伊豆半島と同じぐらいの大きさがあります。医師数はそれほど多くなく、医療資源の多くは七尾市周辺に集約されています。
七尾市には434床の公立能登総合病院、426床の恵寿総合病院、そして210床の国立病院機構七尾病院があります。人口5万人規模で400床以上の高度急性期病院が2つもあることから、全国的にもまれな地域であるといわれています。
このように医療や介護が充実していることは、暮らしやすい街という評価にもつながっており、雑誌などのトップランキングでも七尾市は常連となっています。その能登半島地域で、先端医療から福祉までを担う医療グループとして私たちが展開してきたのが「けいじゅヘルスケアシステム」です。
(画像:神野先生ご提供資料より)
「けいじゅヘルスケアシステム」は恵寿総合病院を中心として、超急性期の先端医療から福祉までのサービスを垣根なく提供しています。人口が減少していく中で、この地域に住んでいる方たちが「どこに行けばいいだろう」「どのサービスを利用しようかな?」と思ったとき、けいじゅIDを持っていれば、医療介護福祉の幅広いサービスを利用していただくことができます。
私たちのグループの特色のひとつに、セントラルキッチンという給食工場設備があります。七尾市から離れた金沢市にある恵寿金沢病院へもそこから食事を運んでいますが、2016年12月からは金沢市内の別の病院でも利用していただくことになりました。昨今は病院給食を作っていた人が辞めてしまうと、新しい働き手がなかなか見つからないという現状もあります。そこで、私たちのセントラルキッチンシステムで作った料理を届ければ、現地で温めて盛り付けをするだけで提供することができます。
私たちのシステムは「1患者1ID」という、大きな特徴があります。医療から介護・福祉のサービスに移行しても、患者さんの情報はすべてひとつの電子カルテ、データベースに統合されています。これは記事1「地域包括ケアシステムから、生活支援企業を巻き込む「地域包括ヘルスケアシステム」へ」で申し上げたような面展開とも密接に関係しています。
ひとりの患者さんにひとつのIDということは、ひとつの電子カルテの画面上に内科医の所見だけでなくデイサービスの所見もあり、その患者さんのところへいつヘルパーさんが行ったかというような履歴も参照できるということになります。もちろん、診療報酬などお金に関わる部分はそれぞれ別になっていますが、検査のデータや処方内容、医師・看護・介護の記録や履歴については、仮想上のひとつの大病院として扱うことができる仕組みを作っているのです。
(画像:神野先生ご提供資料より)
ですから、普段はクリニックなどを利用している方が急に総合病院に来たときにも、それまでの診療履歴はすべて把握することができます。また、介護系の施設に入所している方たちの場合も、患者さんのケアに関する日常の記録などがすべてつながった連続性のある状態で病院に入院することになります。
(画像:神野先生ご提供資料より)
医療連携の中で高度急性期医療から縦につながっていく垂直連携はよくみられる形です。しかし地域で連携していくためには医療・介護を横展開していく必要があります。これは垂直と水平で2D、つまり平面ということになります。国が提唱している地域包括ケアシステムも、この部分に対する取り組みであるとみることができます。
しかし、私たちはそれに時間軸という考え方を取り入れました。これはX, Y, Zの3つの軸からなる3Dということになります。
多くの人は病院で生まれ、まず「医療」との関わりが生じます。そして保育所に行くようになると「福祉」が関わってきます。しかしその間、風邪をひいたり熱が出たりするとそのたびに「医療」にかかります。
やがて大人になり、ある程度の年齢になると今度は「介護」が関わってきます。しかし、「介護」を受けるようになった後はずっと「介護」だけというわけではありません。急に熱を出したり肺炎を起こしたりすれば「医療」に行き、肺炎の治療が終わればまた「介護」に戻ります。
このように行ったり来たりするたびに情報が分断されていると連続性がなくなってしまうため、時間軸をつなぐ必要があります。全部がひとつのカルテにあるというのは、まさに3Dの考えです。
私たちは1997年からデータの電子化を進めてきました。すべての施設が同時にスタートしたわけではありませんが、少なくとも恵寿総合病院に関しては1997年以降の20年分のデータがすぐに取り出せるようになっています。そこへ後から介護などの情報を追加していくことによってより大きなデータとなり、それによって時間軸の管理ができるようになってきています。
3Dの先にあるのが4Dの世界ですが、これは記事1「地域包括ケアシステムから、生活支援企業を巻き込む「地域包括ヘルスケアシステム」へ」でお話ししたように生活とつながることを意味します。たとえば、週に何回フィットネスクラブに通っているか、どんなサプリメントを飲んでいるかといった、生活に関わるさまざまな情報とつながっていくということです。
医療が地域の生活とつながるということは、地元のお店や企業ともつながっていく必要があり、それがひいては地域振興や街づくりにもなります。たとえば全国チェーンのお店であれば、どこで買っても同じ商品が同じ価格で手に入りますが、東京や金沢で買わずに七尾市内の店舗で買うことによって、地元の産業や雇用を守ることにもつながっていきます。私たちのグループ全体では、1,700人以上の従業員が働いてくれています。もちろん、売上高でいえばもっと規模の大きいところもありますが、これも地域への貢献のひとつといえるでしょう。
私たちの「”恵寿式”地域包括ヘルスケアサービス」は、2016年の第1回 日本サービス大賞において総務大臣賞を受賞しました。
(画像:神野先生ご提供資料より)
これまでにもご説明したように、私たちのシステムでは医療も介護も統合されたひとつの電子カルテ、ひとつのデータベースしかありません。しかし、いくらスマートフォンの時代とはいえ、そこに患者さんやサービス利用者の方が直接アクセスすることは難しいため、その間にHuman Interfaceとしてコールセンターを置きました。それが今回受賞した「”恵寿式”地域包括ヘルスケアサービス」の事業モデルです。
(画像:神野先生ご提供資料より)
けいじゅサービスセンターは診療の予約をするだけではなく、デイケアやデイサービスの予約やキャンセルもできます。さらに利用者のスケジュール確認や連携医療機関との紹介・照会窓口、入力代行業務も行っています。
たとえば雪が降ってデイケアの送迎車が遅れている場合には、運転手がサービスセンターへその状況を連絡すると、その後向かう予定の利用者に「車が15分遅れています」というように連絡を入れることができます。
また、1年後にMRI検査の予約があるような場合、患者さんがうっかりその予定を忘れてしまわないように、予約日が近くなった頃にご連絡をします。その際、診察とMRI検査の予約確認だけではなく、「楽のり君」という無料送迎車の予約もご提案しています。
(画像:恵寿総合病院ホームページより)
さらに、普段かかっているかかりつけ医の紹介状なども忘れずにお持ちいただくよう申し添えています。1年後に検査のためだけに受診されるような患者さんの場合、日常的なフォローはかかりつけ医にお願いをしていることが多いため、そこで最近の経過を書いてもらい、一緒に持ってきていただくことで紹介率も上がります。
また、連携している他の医療機関との間に入って、「今、そちらのクリニックにかかっていらっしゃる患者さんが来られているのですが、よろしかったらそちらで出しているお薬を教えていただけませんか」「できれば紹介状をFaxで送っていただけると助かります」など、問い合わせの窓口としての機能も果たします。
サービスセンターの業務の多くの部分を占めているのは代行入力です。医療も介護もひとつのデータベースで扱うということは、介護のヘルパーさんたちにも日々の記録を入力する負担が生じます。この手間が大きいため、特に急がない情報についてはサービスセンターで入力を代行しています。
ただし、第三者が代行入力をするからには、用語や表現をすべて統一しなければなりません。ですから、その部分については法人内のどの施設でも同じ表現を使うようにします。よく使うものについては記号化するなどの方法により、さらに合理化することも可能でしょう。私たちはサービスの改善や拡充の努力を続け、患者さんの利便性を常に追求することが大切であると考えています。