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新たな医療のかたち、介護医療院と総合診療医―2025年問題を打開するために

新たな医療のかたち、介護医療院と総合診療医―2025年問題を打開するために
武久 洋三 先生

平成医療福祉グループ 代表

武久 洋三 先生

この記事の最終更新は2018年01月29日です。

記事1『超高齢社会を迎えた日本の医療の行く末―慢性期医療のあるべき姿とは』では、日本の医療の現状と慢性期医療の重要性についてお伝えしました。増えゆく高齢者を受け入れる施設として、今、介護と医療を一元化して提供することのできる新たな施設「介護医療院」が注目されています。また、現在主流となっている臓器別専門医から総合診療医へと、求められる医師の役割も変わりつつあります。危機に直面した日本の医療を救う介護医療院と総合診療医について、引き続き日本慢性期医療協会 会長の武久 洋三先生にお話をうかがいます。

介護施設での様子

急性期病床では高齢者が寝たきりとなり、QOL(生活の質)の低下や医療費の増加が問題になっています。そのため急性期病院は本来の役割に徹することができていません。そこで今後は時代や患者さんの実態に即し、慢性期医療を充実させることが強く求められます。

早期に地域包括期や慢性期を担う病院へ移行することで早い段階からリハビリテーションを始められ、元通りの生活に戻れる可能性も高まるのです。そうしてたとえ入院してもすぐに生活復帰ができるようになれば、健康寿命が延びることが考えられます。すると、介護老人保健施設などの介護施設は数が少なくても十分でしょう。

健康で長く暮らすことができることは、本人のQOLを高めるだけでなく医療費・介護費を削減し、日本の社会保障制度の破綻を防ぐことにつながるのです。

高齢者において医療と介護は本来連続してサポートされるものであるにもかかわらず、現行の制度では、医療と介護はシームレスな連携ができていません。その理由のひとつには、医療を行う場と介護を提供する場がわけられている点にあると考えています。

そこで、慢性期医療と介護を一手に担う介護医療院を創設することで、同じ施設で医療と介護を行い、シームレスな連携を実現しようという動きが出ています。

介護医療院とは、要介護高齢者の長期療養・生活施設です。重い身体疾患を持つ、あるいは複数の疾患を持ち認知機能が低下しているような日常的な医学管理が必要な重介護者の受け入れから、看取りやターミナルの機能、そして生活施設としての機能を併せ持ちます。

言い換えると、今まではそれぞれ慢性期病院、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど、ばらばらだった施設の役割を一元化して、ひとつの施設で医療から介護、生活の場を提供する場所です。

介護医療院の大きな特長は、医療と介護を同じ場所で提供できる点にあります。たとえば介護老人福祉施設では、医師は非常勤である場合もあり、利用者の容態が悪化してもすぐに対応ができない状況でした。看護師は常勤でいますが、入所者100人に対し看護師は3人です。一部の専門資格を持つ看護師を除いて薬の処方など自発的な医療措置は、現状ではできません。

一方、介護医療院では慢性期病院としての機能を持つため、常勤の医師も看護師もいます。

退院後の行き先がない問題も解消できます。病院内に介護医療院があるためそちらへの移行もスムーズです

老人施設を新たに設置する際には、多くの費用がかかります。しかし介護医療院はすでにある病院を活用するため、新たに施設をつくる必要はありません。そのため、現在ベッドが埋まらない病院を介護医療院に転換することで、ベッドや検査機器などの設備の活用や医師や看護師などの医療職の活用が期待できます。

現在ある病院を活かして介護医療院に転換すれば、これからさらに高齢者が増加しても高齢者向けの施設の新設にかかる費用は限りなくゼロにすることが可能です。そして、高齢者向けの施設の設置に使われるはずだった費用をほかの社会保障に充てることができるようになります。

かかりつけ医と患者

今後、日本の病院の体制はふたつにわかれると予想しています。これからの社会ニーズを汲めば、病院は高度急性期病院と地域多機能型病院のふたつになっていくでしょう。

高度急性期病院は今まで通りに緊急の患者さんの治療に徹し、地域多機能型病院は地域に密着し、重症度などを問わずあらゆる疾患の患者さんを受け入れる病院になっていきます。

現在、救急で対応する患者さんのなかで本当に重症である例は全体の2割もありませんから、残りの8割は地域多機能型病院で受け入れが可能です。そのため、急性期病院は今後さらに減っていくでしょう。

高齢化に伴いこれからさらにニーズの増す慢性期医療は、地域多機能型病院が担っていくに違いありません。

地域多機能型病院が増え慢性期医療を提供するようになれば、医師に求められる役割やスキルも当然変わります。

日本の医療ではまだまだ臓器別診療がメインとされ、臓器別専門医が重要とされています。しかし、今後さらに増え、患者さんのうちの多数を占める高齢者においては、臓器別専門医よりもあらゆる疾患を診ることが可能な総合診療医のほうが求められることは自明です。

総合診療医はその人の体だけでなく生活も含めてサポートをし、患者さんがより人間らしく生きることができるように努力する役割を担います。

日本では臓器別専門医のほうが圧倒的に多いですが、アメリカでは、総合診療医が医師の約半数を占めています。各家庭がプライマリ・ケア医(地域に根ざしたかかりつけの総合診療医)を持ち、疾患の予防、早期発見やリハビリテーション、健康相談などにプライマリ・ケア医を活用しています。大きな病院の受診が必要な場合はプライマリ・ケア医から病院のホスピタリスト(院内の総合診療医)に連絡が行き、そこから必要に応じて院内の各診療科の専門医が担当します。

このようにアメリカでは街の小さなクリニックから大きな病院まで、総合診療医が活躍して患者さんの健康をサポートする窓口となっているのです。

実際に、体調不良で急性期病院を受診する高齢者は、脱水、低栄養、電解質異常など総合診療医が対応できる範囲の方が多くいます。その状態さえ回復できれば、また元気に過ごすことのできる高齢者も多数いるのです。しかしながら急性期病院の臓器別専門医ではそうしたいろんな状態の患者さんをしっかりとみることはできませんから、代わりに総合診療医がその患者さんをケアすることが必要です。

今後の日本の医療は、人口構造の変化によって急性期医療から慢性期医療へとその主軸が転換していくことでしょう。慢性期医療のキーパーソンの一人が、総合診療医です。

私が会長を務める日本慢性期医療協会は、活動の一環として総合診療医を育成する講座を開講しています。

これからは、よい慢性期医療なくして日本の医療は成り立ちません。慢性期医療を中心とした日本の医療を支えることが、当協会の使命であると自負しています。

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