福岡産業保健総合支援センター 所長
織田 進 先生
福岡産業保健総合支援センター 副所長(現 八女労働基準監督署 署長)
稲光 克彦 先生
福岡産業保健総合支援センター 労働衛生専門職(両立支援担当)
三谷 梨紗 さん
病気を抱えている労働者が安心して働ける職場づくりのためには、事業場が治療と仕事の両立支援対策を行うことが課題となります。なかでも人事担当者は、労働者への配慮や、支援しやすい体制の整備など、さまざまな対応が必要になります。福岡産業保健総合支援センターでは、両立支援を行う事業場の方に向けて、相談対応や個別訪問支援などを行い、よりよい両立支援の実現に向けてサポートしています。
今回は、事業場を対象とする両立支援の取り組みについて、同センター所長の織田進先生、副所長(現 八女労働基準監督署署長)の稲光克彦さん、労働衛生専門職の三谷梨紗さんにお話を伺いました。
当センターでは、社会保険労務士や保健師、理学療法士などの有資格者を「両立支援促進員」として委嘱し、事業者、人事労務担当者、産業保健スタッフの方々を対象に、次のような両立支援の取り組みを行っています。
厚生労働省が発表した「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(平成31年3月改訂版)」などの普及・啓発を目的とした啓発セミナーを行っています。セミナーでは、病気を抱える労働者が治療と仕事を両立できるようにするため、両立支援を行うにあたっての留意事項や、両立支援の進め方などについて、事業者の方に向けて、分かりやすくお伝えしています。
病気を抱える労働者にかかわる、健康管理、就業上必要な配慮、職場環境への配慮など、両立支援に関する全般的なご相談に応じています。産業医をはじめ、看護師や保健師、衛生管理者、人事労務担当者、事業主など、幅広い職種の方からのご相談をお受けしています。当センターに相談にいらした人事労務担当者のなかには、「相談してみたら、病気を抱える社員との接し方が初めて分かった。社員の働き方を休職前と変える必要がないと分かってほっとした」と、安心して両立支援を進められるようになった方もいました。
個別訪問支援では、社会保険労務士などの「両立支援促進員」が事業場を訪問し、両立支援に関する制度の導入について、各事業場に合わせた提案や助言を行っています。また、両立支援に関する意識啓発のための社内研修も行っています。個別調整支援が必要になる事例としては、医療機関との連携や、就業上の配慮についてのケースが多いです。
個別調整支援では、病気を抱える労働者と事業場との間で行う仕事と治療の両立支援が、お互いに納得できるものになるよう、当センターの職員が提案や助言を行っています。労働者(患者さん)ご本人から同意をいただいたうえで、治療に対する配慮の内容、職場復帰支援プランの作成、および主治医との連携などを支援しています。
当センターでは、職場のメンタルヘルス対策支援を行っています。事業場からの支援要請を受けて、メンタルヘルス対策促進員が皆さまの職場を訪問し、職場復帰プログラムの策定や基盤づくり、事業場内のチームづくり、ストレスチェックの導入など、事業場ごとにアドバイスしています。
また、当センターでは、精神科医と産業医を招いて、定期的に事例検討会を実施しています。それぞれの病院や医師が特に力を入れている分野を把握し、患者さんの治療により適した病院を紹介できるように努めています。
英語圏以外の外国人労働者が在籍している事業場では、日本語も英語もあまり話せない労働者と、コミュニケーションを取ることすら困難だという場合が少なくありません。外国人労働者が体調を崩したとき、事業主はどのようなコミュニケーションをとるとよいでしょうか。
当センターは、外国人労働者が日頃からコミュニケーションを取りやすくなるように、音声翻訳機の導入をおすすめしています。ベトナム人留学生を招いて音声翻訳機を試してもらったところ、曖昧な表現では適切に翻訳されないことがありました。できるだけ短い文章で切って話すなど、工夫しながら使用するとよいと思います。
また、音声翻訳機は、外国人労働者が医療機関にかかるときに使用すると便利です。医療通訳を導入していない医療機関では、音声翻訳機を活用して、医師や看護師とのコミュニケーションに役立てていただきたいです。
従業員が病気を発症し、継続して治療が必要な場合は、治療と仕事の両立を支援するため、その従業員の主治医から意見をもらうことが大切です。その際、従業員の勤務情報を主治医に提供して、相談することをおすすめしています。職種や職務内容、勤務形態などを詳しく伝えることで、主治医の先生も患者さんの仕事をイメージしやすくなり、今後の就業継続の可否や、配慮が必要な事項などについて、具体的な意見を出しやすくなります。
当センターと連携している医療機関のスタッフからは、患者さんの勤務情報について、事業場が作成した書類を持参される患者さんはまだ少ないと言われました。どのようなことを医師に伝えたらよいか分からない場合は、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(平成31年3月改訂版)」に記載されている「勤務情報を主治医に提供する際の様式例」を、ぜひご活用ください。
両立支援を必要とする患者さんの事例収集を行うなかで感じたことは、仕事と治療の両立について誰にも相談しないまま、退職を選んでしまう方が多いということです。まずは一度、当センターにご相談いただければと思います。ご家族や職場の方、病院の先生、看護師さんといった周囲の方々が、「両立支援相談窓口に相談してみたら」と患者さんに声をかけたら、患者さんは「少し相談してみようかな」と思うかもしれません。労働者が両立支援を受けやすい雰囲気づくりを、ぜひ周囲の方々が心がけてください。
両立支援という言葉は、まだ社会に浸透しておらず、率先して両立支援に取り組もうとしている企業は限られているかもしれません。しかし、私たちの両立支援事業が社会に浸透していけば、企業の皆さんにも広がっていくと信じています。私たちの取り組みに、ぜひ耳を傾けてください。
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