福岡産業保健総合支援センター 所長
織田 進 先生
福岡産業保健総合支援センター 副所長(現 八女労働基準監督署 署長)
稲光 克彦 先生
福岡産業保健総合支援センター 労働衛生専門職(両立支援担当)
三谷 梨紗 さん
がんやメンタルヘルス不調など、さまざまな病気を抱える労働者が、適切な治療を受けながら仕事を続けることができるように、福岡産業保健総合支援センターでは「両立支援」事業を行っています。同センターは、労働者の健康管理から緊急時の受診まで、一人ひとりの働き方に合わせたサポートを実施しています。
今回は、労働者を対象とする両立支援の取り組みについて、同センター所長の織田進先生、副所長(現 八女労働基準監督署署長)の稲光克彦さん、労働衛生専門職の三谷梨紗さんにお話を伺いました。
産業保健総合支援センターは、労働者の健康と安全の確保に取り組む、厚生労働省所管の法人です。産業医、保健師、衛生管理者といった産業保健関係者の支援や、職場の健康管理の啓発などを行っています。各都道府県に設置されている産業保健総合支援センターのひとつである福岡産業保健総合支援センターは、1993年の開設以来、産業保健に関する調査研究や窓口相談などを実施し、徐々に事業の拡大を行ってきました。2014年からは、本来の産業保健推進センターの事業に加えて、メンタルヘルス対策支援事業と、地域産業保健事業として主に小規模事業場に無料の支援(長時間労働者、高ストレス者に対する医師の面接指導、健診後の事後措置など)を実施しています。
当センターでは、病気を抱える労働者が、治療と仕事を両立できるようにするための両立支援を行っています。両立支援に関する相談対応、セミナーの開催、社内の体制づくりをお手伝いする個別訪問支援、事業場内の意識啓発を目的とした教育研修など、さまざまな治療と仕事に係る両立支援事業を行っています。ここでは、事業内容の一例を、ご紹介します。
当センターでは、両立支援に関するさまざまな相談に応じています。より多くの方に、両立支援についてお気軽に相談していただけるよう、医療機関に相談窓口の開設を呼びかけてきました。2019年3月現在、当センターと同じく労働者健康安全機構を運営母体とする九州労災病院と門司メディカルセンターの2つの病院において、両立支援の相談窓口がすでに開設されています。また、当センターの両立支援促進員が出張し、両立支援の相談に応じる出張窓口を、福岡大学病院、久留米大学病院の2つの病院(2019年4月から九州大学病院)に設置しています。
当センターは、事業者や産業保健スタッフ向けの両立支援対策に関するリーフレットや、患者さんやご家族向けの「両立支援カード」を作成しています。両立支援カードには、当センターの連絡先や、九州労災病院と門司メディカルセンター内に設けられている両立支援相談窓口の連絡先を記載しています。また、当センターのWebサイトには、両立支援相談窓口をはじめ、ハローワーク、がん相談支援センターなどの一覧を掲載しています。治療と仕事の両立支援を必要とする労働者の皆さんに、ぜひ活用していただければと思います(福岡産業保健総合支援センター「治療と仕事の両立支援」はこちら )。
医師会や労働局などの関係機関との連携のもと、産業医学や労働衛生工学、関係法令などの専門家を産業保健相談員として委嘱しており、さまざまな分野で産業保健に関するアドバイスを得ることができます。
なかでも、当センターと連携している産業医科大学病院には、両立支援科という診療科があります。当センターの職員が両立支援科のカンファレンスに積極的に参加し、両立支援を進めていくうえでの課題などを一緒に検討しています。
産業保健に関する多くの専門家のご協力を得ながら両立支援事業に取り組んでいます。
厚生労働省が発表した「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(平成31年3月改訂版)」には、両立支援の対象となる病気は「がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他難病など、反復・継続して治療が必要となる疾病」と記述されていますが、メンタルヘルス不調については詳しく記載がありません。
発症した患者さんが、治療中にうつ病を発症することはまれではなく、治療と仕事の両立支援には、メンタルヘルスのケアはとても重要です。また、当センターには、メンタルヘルスの相談が多く寄せられており、メンタルヘルス不調を抱える労働者の方は増えてきていると感じています。身体的病気だけでなく、精神的病気を有する労働者の両立支援に積極的に対応しています。行政主催のセミナーなどで、両立支援にはメンタルヘルスのケアが必須であることを伝えていきたいと考えています。
当センターに寄せられるメンタルヘルスの相談のなかで、今もっとも深刻な問題だと考えているのは、若年層のうつ病です。
若い方が「うつ病」と診断された場合に、その背景として、発達障害や境界性パーソナリティ障害というほかの病気を有する場合があります。若年層のうつ病は、「現代型」あるいは「ディスチミア型」と呼ばれています。これらのうつ病を治療するときは、背景にある病気にもしっかり対応する必要があります。
一方、「メランコリー型」と呼ばれる中高年層のうつ病は、充分に休養をとったり服薬したりすることにより、症状の軽快が期待できるため、職場復帰しやすい傾向があります。治療の進め方や費用などについての認知度も高いです。
職場において、「現代型」や「ディスチミア型」のうつ病の患者さんに対して、「メランコリー型」のうつ病の患者さんと同じように対応すると、職場復帰がうまくいかなくなるという事例が、数多く報告されています。まずは、適切な診断を受けることが大切です。自分自身や、周りの方のメンタルヘルスについて気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。
福岡県のかかりつけ医が参加する「とびうめネット」は、患者さんの医療情報を登録した情報ネットワークです。とびうめネットに登録していれば、これまでの病歴や服用中の薬の情報、アレルギーの有無などが病院側に正しく伝わります。緊急時に適切に処置できるため、より多くの人に登録をおすすめしています。私も、自分の症状や服薬状況、主治医などの情報を登録しています。
とびうめネットを活用することで、次のようなメリットが考えられます。
現在の登録者数は少数ですが、今後は行政や医師会などの積極的なはたらきかけにより増加を期待しています。
とびうめネットに個人情報を登録することが難しい方には、自分の病気や健康状態に関する情報を自分で管理する「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)」という方法を、おすすめしています。PHRとは、健康診断結果や診療情報(病名、治療方法、服薬履歴など)のデータを、スマートフォンや電子タブレットなどに登録して一元的に管理することです。
PHRを活用することで、次のようなメリットが考えられます。
これまで、検査結果や服薬履歴などの診療情報は、かかった病院や薬局に管理されていましたが、それらの情報を一元的に管理することで、医療費の削減だけでなく、患者さんが受ける医療サービスの質の向上につながると期待されています。
PHRを電子ファイルで管理することが難しい場合は、紙ベースで管理できます。
病気を持つ労働者の意向に沿った働き方を支援するには、まずは本人と面談し、働き方に対する意向をしっかり聞き取り、職場で病気のことをオープンにする範囲を決めます。「私はこんな病気で、こんな努力をしている」、「こんなことができないので支援してほしい」と説明することで、周囲の方は病気についての理解が深まり、サポートしやすくなります。
インターネットなどのIT技術の進歩による情報化や、働き方の多様化(在宅勤務など)で、病気を抱えながら働く機会は増えています。職場環境や労働条件を考慮した両立支援をしなければならないと考えています。両立支援について気になることがあれば、気軽にお問い合わせください。
事業場の方に対して、もっと積極的に両立支援を広めるはたらきかけを行いたいと思っています。たとえば、がんやメンタルヘルスでは休職が認められている職場において、それ以外の病気では休むことが難しいため、職場には病気を隠して治療を続けているという方々がいらっしゃいます。どのような病気の方でもよりよい働き方ができるように、仕事と治療の両立を支援する社内の雰囲気づくりや、社内のコミュニケーションの活性化をはたらきかけることが重要です。
当センターは今後も、Webサイトの充実をはじめ、両立支援の周知啓発に努めてまいります。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
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