概要
トラコーマとは、クラミジアトラコマティスと呼ばれる病原体が目に感染して発症する感染症を指します。全世界における失明の主要原因のひとつで、トラコーマが原因で失明・視力障害となる方は約190万人に及ぶと報告されています。
アフリカや中南米アメリカ、アジアやオーストラリア、中東などの発展途上国を中心に41か国で流行が見られると言われています。健康被害を抑えるため、トラコーマの根絶が目標に掲げられています。進行例に対しての手術、クラミジアトラコマティス排除のための抗生物質投与、顔面の清潔を保つ、病原体伝播を減らすための衛生管理、が重要な目標として掲げられています。この取り組みは、それぞれの行動目標を頭文字に取って、「SAFE」と呼ばれています。トラコーマによる失明を根絶するための努力は、GET2020(Global Elimination of Trachoma by the Year 2020)と呼ばれています。
なおクラミジア感染は、日本では性感染症の一環として確認することがあります。ただし日本ではクラミジア結膜炎として軽症な経過を辿るため、失明に至るほどの重篤なトラコーマとは区別されています。
原因
クラミジアトラコマティスは、感染者や保菌者の目や鼻などの分泌物に混じって排出されており、これらに接触することで感染が成立します。他にも分泌物に触れたハエを介して感染することもあります。
症状
クラミジアトラコマティス感染初期の段階では、感染から1週間ほどの潜伏期間を経た後に、眼瞼の充血やむくみ、まぶしいという感覚、涙が増えるなどの症状が生じます。その後7~10日ほど経過すると、上まぶたを中心に濾胞が形成されるようになります。1か月ほどの経過を経て濾胞は大きくなり、炎症性反応も伴うようになります。同時に角膜への血管新生も生じるようになります。
数か月から数年の単位を経て、濾胞性病変は瘢痕化します。この時期になると逆さまつげが生じやすくなり、角膜を傷つけやすくなります。角膜は、ものを見るうえで重要な役割を果たしているため、ここが傷つくと光がうまく通らなくなり、視力障害、最悪の場合には失明に至ることもあります。
視力障害が進行するスピードは、感染症の流行状況、家庭環境などに影響されるため個人差があります。しかし無治療の場合では、30歳から40歳までに失明に至ります。
検査・診断
トラコーマが疑われる場合、まぶたや角膜など症状の出やすい部分に病変がないか確認して診断することが多いです。しかし、症状が乏しく決め手が掴めないなど診断に迷う際には、涙や鼻水などを採取してPCRや培養などの検査を行い、病原体であるクラミジアトラコマティスを同定することもあります。
治療
トラコーマの治療は、SAFE戦と呼ばれる手術(Surgery), 抗生物質(Antibiotics), 顔面の清潔(Facial cleanliness), 衛生環境の改善(Environmental improvement)に沿って行われます。
なおこのとき、逆さまつげなどの形態学的な変化が見られれば、手術して角膜を傷つけないよう対応します。病原体であるクラミジアトラコマティスそのものは、アジスロマイシンなどで治療します。トラコーマでは他人からの伝播を避けるために顔面の清潔を保つほか、清潔な水の管理、媒介者となりうるハエの駆除などの環境整備が重要となります。
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