DOCTOR’S
STORIES
循環器内科医として、患者さんの背景を考慮した治療に尽力する柳 統仁先生のストーリー
患者さんの目線に立ち、寄り添うこと。これが私のポリシーです。
私は医師なので、医学の専門家としての知識や経験を持っています。一方、患者さんは多くの場合、医学について右も左も分からないでしょう。ですから、患者さんが医療に何を望んでいるのか、という心の深いところにある思いを汲み取るために、私は、患者さんの目線に立ち、寄り添う医師でありたいのです。
患者さんの目線に立ち、寄り添うためには、病気を診るだけではなく、患者さんの家族関係、社会的・経済的背景、人生観などを含めた“全体像”を捉える必要があると考えます。つまり、診療ガイドラインだけを信じるのではなく、患者さんのバックグラウンドを考慮した治療を行うことが重要ということですね。
私は、鹿児島生まれです。父は公務員ですし、医師の家系ではありません。
子どもの頃、地域で頼りにされる医師の姿を見て、“お医者さんは偉い人”というイメージを抱き、なんとなく憧れていました。手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』も大好きでしたね。夢中になって『ブラック・ジャック』を読んでいるときに、両親から「あなたが医者になればいいんじゃない」とよく声をかけられていたことも影響したのかもしれません。
医師という職業は、ともすると「先生、先生」と呼ばれて慢心し、年上のコメディカルやMR(医療情報担当者)の方に横柄な態度をとってしまったり、患者さんに対して難解な医療用語を使ってしまったりすることがあります。私は、そのようにはなりたくない。
「医師である前に、人。医師という立場に甘んじてはいけない」という思いを常に抱きながら、患者さんの目線に立ち、寄り添うという医師としての価値観が、私の中で徐々に形成されたのだと思います。
循環器内科を選んだ理由はとてもシンプルで、がんを扱うことが少ない分野だったからです。
私が研修医の頃は、患者さんにがんを告知しないことが一般的でした。そのような時代に研修医としてがんの診療に携わっていたため、患者さんに真実を伝えられないことが本当につらく、いたたまれない気持ちで日々を過ごしていました。
そのような経験があり、がんのない循環器内科に進むことを決意したのです。循環器内科で扱う病気は、基本的に悪化も回復も変化がダイナミックなので、その点でも自分の性に合っていたのだなと今になって思います。
「先生に診てもらってよかった」と患者さんに言ってもらえたときは、何より嬉しいですし、そのような言葉が医師としての原動力です。
さらに、最近は後進の教育に携わることにも大きなやりがいを感じています。若手医師と話していると、積極的に相談をしてくれたり、思ってもみなかったことを質問されたりして、とても刺激を受けますね。あまり細かいことを言わないのが自分の教育スタイルですが、後進の医師たちが懸命に頑張っている姿を間近で見ると、非常に嬉しいものです。
医学・医療の進歩により高度医療や延命治療などの選択肢が生まれている今、私たちは、“自然に亡くなる”ことが困難な時代に直面しつつあります。一方、医師は慢性的に不足し、患者さんは、病院を受診しても言いたいことの半分も言えずに診療時間が終わってしまうことも多いでしょう。
そのような時代にあって、私は、医師が患者さんに信頼してもらうことの大切さを改めて感じています。まずは、患者さんやご家族とよく話すことを心がけています。治療に直接関わりがないことでも、会話の中から患者さんの人柄を理解し、少しずつ患者さんからの信頼を得ることが大切です。医師と患者さんの信頼関係があれば、医師は患者さんのバックグラウンドを考慮した治療を見極めて提供することができ、患者さんは、医師を信頼して身を預けることができると思います。
私はこれまでの人生において、自分で何かを強く希望するというよりも、求められればそれに応え、必要とされる場所で自分のできることを丁寧に、精一杯やってきました。あえて大きな目標を立てることもなく、逆に、ここまでにしておこうと自ら枠を設けることもなかったように思います。そのおかげで、想定外の出来事や人々に出会い、今の自分がここにいます。
そのように淡々と目の前の仕事に打ち込むうちに、最近は、自分がお世話になった方や同級生から、ご家族の治療をお願いされる機会が増えてきたように思います。それは、一医師として非常に嬉しいことですね。
これからも、日々の診療を大切に、そして後進の教育にも力を注ぎつつ、患者さんのための医療を提供し続けていきたいと思います。
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