高い専門性を担保し、
関節を温存した手術に注力する

横浜石心会病院 関節外科センター

できる限り長く“よい膝”を保つため、
多様な選択肢を備える

超高齢社会の日本では、加齢変化を基盤として発症する病気が増加傾向にあります。その代表的な病気の1つが“変形性膝関節症へんけいせいひざかんせつしょう”です。変形性膝関節症は進行性の病気ですので、できる限り長く“よい膝”を保つには将来の病状の変化も見据えた治療方針が求められます。治療方法には多様な選択肢があり、当然ながら適した治療は患者さんによって異なります。当科では3つの手術方法(関節鏡視下手術・膝周囲骨切り術・人工膝関節置換術)に対応可能な技術を有しており、これらの中から患者さんの病状に適した治療をご提案いたします。「術後も活動的に過ごしたい」「スポーツを継続したい」など、患者さんのご希望も可能な限りかなえられるよう努めておりますので、膝の痛みや変形性膝関節症の治療に悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

できる限り長く“よい膝”を保つため、多様な選択肢を備える

“合併症ゼロ”の治療提供を目指し、
徹底した予防対策を実施

感染症や肺塞栓症はいそくせんしょう*など術後に起こり得る合併症への予防対策を徹底している点も、当院の強みの1つです。手術環境による感染を引き起こさないため、医療者が着用するガウンから汗が垂れないよう工夫するほか、バイオクリーンルーム(無菌手術室)を備えるなど徹底的な衛生管理を行っています。また、手術が決定した患者さんに対しては、事前に循環器系の検査や血液検査などを行って基礎疾患の有無を必ず確認します。万が一、合併症のリスクを高める基礎疾患(糖尿病や肝硬変、深部静脈血栓症など)がみつかった場合には、まずはそれらの治療を優先し、万全の状態で変形性膝関節症の手術ができるよう努めています。そのほか、術後の成績に影響を与える骨粗鬆症の発見のために骨密度も術前に必ず測定し、骨粗鬆症の治療を含めてよりよい予後を追求しています。

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肺塞栓症:下肢静脈内などに発生した血栓(血の塊)が血流に乗って肺に達し、肺の血管が詰まることによって呼吸不全などを引き起こす病気。

“合併症ゼロ”の治療提供を目指し、徹底した予防対策を実施

術後1か月での社会復帰を目標に据え、
あらゆる工夫を凝らす

当院では膝周囲骨切り術を強みの1つとしていますが、この手術は自らの膝を残せるメリットがある反面、人工膝関節置換術と比べて社会復帰までに要する期間が長いという課題がありました。この課題を解決すべく、当院ではあらゆる工夫を実施しています。先述した合併症への対策もこれに含まれますし、そのほか自家骨(自分の骨)移植や機能回復を重視したリハビリテーションの提供などにも取り組んでいます。
一般的に、骨がくっついて活動制限がなくなるまでには3か月ほどかかるといわれていますが、これらの工夫により術後1か月ほどで社会復帰ができた例も徐々に増えてきました。今後もよりよい膝関節治療を目指して、責任をもって診療にあたらせていただきますので、「手術について不安がある」「治療選択に悩んでいる」などという方は、ぜひ一度我々にご相談ください。

術後1か月での社会復帰を目標に据え、あらゆる工夫を凝らす

関節外科とリハビリチーム

医師プロフィール

竹内良平先生が解説する変形性膝関節症

変形性膝関節症と診断され手術を希望されている方

変形性膝関節症と診断され手術を希望されている方

その他膝の痛みについてご相談されたい方

その他膝の痛みについてご相談されたい方

横浜石心会病院
関節外科センターにおける

変形性膝関節症の治療

変形性膝関節症について

膝の痛みや腫れ、曲げ伸ばしがしにくい場合は一度受診を

変形性膝関節症は、膝関節の半月板が切れたり、軟骨がすり減ったりすることにより炎症や変形が生じ、膝に痛みなどが現れる病気です。基本的に加齢とともに進行する病気で、一般的には40歳代からはじまるといわれています。男女比については、2:3の割合で、女性の患者さんのほうが多い傾向にあります。そのほか、O脚・X脚の方や、肥満の方なども膝に負担がかかるため、変形性膝関節症になりやすいとされます。O脚・X脚の方は関節への荷重が均等にかからず、荷重が偏ったほうの軟骨がすり減ることで発症につながります。特に日本人の場合はO脚の方が多く、このことなどから発症には遺伝的な要因も関係すると考えられています。

膝の痛みや腫れ、曲げ伸ばしがしにくい場合は一度受診を

痛みについては、歩き出したときや立ち上がるときなど、動きはじめに生じることが多いです。階段の上り下りの際、特に下りるときに痛みが生じやすい傾向にあります。また、患者さんによっては、関節水腫(膝に水がたまる症状)が現れることもあります。
そのほか、「急に正座ができなくなった」という場合には注意が必要です。これは半月板が断裂(あるいは損傷)したために起こる症状であり、放っておくと変形性膝関節症へ進行する可能性があります。半月板は、膝関節の骨と骨の間に存在しクッションのような役割をしていて、スムーズに膝の曲げ伸ばしなどを行うために欠かせない組織です。半月板は一度損傷すると元に戻ることはありませんので、痛みや膝の動きの悪さなどを感じたら早めに整形外科を受診していただきたいと思います。

X線検査(片脚立位荷重撮影)やMRI検査で正確な診断に努める

当院では受診いただいたら、まず診察を行って膝の腫れや痛みの場所などを確認していきます。症状から変形性膝関節症が疑われる場合には、立って片足に体重をかけていただいた状態でX線(レントゲン)画像を撮影します。膝に体重が加わった状態で撮影を行うことで、膝関節の状態をより正確に確認することが可能です。

X線検査(片脚立位荷重撮影)やMRI検査で正確な診断に努めるX線検査(片脚立位荷重撮影)やMRI検査で正確な診断に努める

なお、膝関節の隙間が狭まっている場合には変形性膝関節症と診断ができますが、X線検査では関節内の詳細までは確認できません。X線検査で膝関節の隙間が十分に空いている場合でも、実は軟骨がすり減っていて、そこに水がたまって隙間が空いている状態、つまり変形性膝関節症ということもあるのです。当院ではこのような見逃しが起こらないよう、MRI検査も実施しています。MRI検査では、半月板や軟骨、靱帯の状態が精密に分かりますので、より正確な診断につながります。

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変形性膝関節症の治療選択

変形性膝関節症の治療選択肢――保存療法と手術

変形性膝関節症の治療選択肢としては、大きく分けると保存療法と手術があります。保存療法は手術以外の治療法のことで、具体的には薬物療法や運動療法、物理療法、装具療法などがあります。手術については主に3つの方法があり、膝に与える影響が小さいものから順番に並べると、関節鏡視下手術、膝周囲骨切り術、人工膝関節置換術となります。

変形性膝関節症の治療選択肢――保存療法と手術変形性膝関節症の治療選択肢――保存療法と手術

1つめの関節鏡視下手術とは、関節鏡(細い筒状の医療器具)を使って、膝の内部をきれいにする手術です。変形性膝関節症の患者さんは膝の内部に軟骨や半月板のかけらなど炎症を引き起こす物質がたまるため、これをきれいにし、傷んだ半月板の一部を切除したり修復したりすることで痛みや進行の緩和を図ります。
2つめの膝周囲骨切り術とは、膝に近い場所の骨を切って脚を矯正し、膝関節にかかる荷重が均等になるよう調整する手術です。偏りを均等にすることで傷んだ関節にかかる荷重が減り、結果として痛みの軽減にもつながります。
3つめの人工膝関節置換術は、その名のとおり関節をインプラント(人工物)に置き換える手術です。膝関節全体を取り替える全置換術と、膝の傷んだ一部だけを取り替える単顆置換術があります。患者さんの希望にもよりますが、基本的に人工関節の手術を受ける患者さんは、ご高齢の方や病気がかなり進行している方です。膝周囲骨切り術では治療が難しい場合に実施されます。

将来の経過も考慮し、“目の前の患者さん”に適した治療を見出す

保存療法で痛みが改善する場合はそれに越したことはありませんが、根本的な原因を取り除く治療ではなく、あくまで一時的な対症療法にすぎません。一般的には保存療法で一定期間様子をみてから改善しなければ手術を検討するケースが多いです。当院では膝の症状があり、原因が明らかなものに対して、将来的に変形性膝関節症の発症が予測される場合は早めに手術をすることをおすすめしています。たとえば、50歳代の方で半月板が変性断裂している場合、半月板を縫ったとしても加齢に伴って再断裂が予測されます。そうなると変形性膝関節症を発症する可能性が高くなります。すでに変形性膝関節症を発症している方も同様で、「待っていても悪化してしまう」と判断した場合には、手術をおすすめしています。

将来の経過も考慮し、“目の前の患者さん”に適した治療を見出す将来の経過も考慮し、“目の前の患者さん”に適した治療を見出す

手術には入院や相応のリハビリ期間が必要です。もちろん無理におすすめすることはありませんが、早い時点で手術ができれば膝への影響が少ない方法で治療ができるうえ、早めにダメージを食い止めることで“よい膝”を長く保てる可能性も高くなります。
当院を受診したからといって手術を受けなければならないわけではありませんので、「保存療法を行っているが、なかなか症状が改善しない……」「手術を迷っている……」という方は、ぜひお気軽に当院へご来院ください。これまで重ねてきた診療経験を生かし、将来の経過も予測したうえで適切な治療をご提案いたします。

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膝周囲骨切り術について

術後の患者さんの可能性を広げる“膝周囲骨切り術”とは

膝周囲骨切り術は、先述のとおり膝の近くの骨を切って矯正し、膝関節にかかる荷重が均等になるよう調整する手術です。“骨切り”という言葉から連想されるような怖い手術ではなく、あくまで“矯正”をする手術であり、ご自身の膝を残せるという大きなメリットがあります。自身の膝が残っていれば、たとえば医療技術が発達した将来、再生医療を受けられる可能性も残ります。

術後の患者さんの可能性を広げる“膝周囲骨切り術”とは

膝周囲骨切り術にはいくつかの方法があり、その中でもっとも一般的に行われているのが高位脛骨骨切り術です。高位脛骨骨切り術は、脛骨(すねの骨)を切り、変形を矯正する手術方法です。膝周囲骨切り術は、患者さんの症状に合わせた手術が可能であり、高位脛骨骨切り術以外にも何通りもの方法があります。

一人ひとりの患者さんに合った骨切り方法でよりよい予後を追求する

当院における膝周囲骨切り術の強みを一言で言うならば、数多くの種類の膝周囲骨切り術を駆使してさまざまな変形に対応可能なことです*。変形性膝関節症と一口に言っても、その状態は患者さんによってさまざまであり、適した手術方法も異なります。大腿骨だいたいこつ(太ももの骨)を切ってX脚を矯正する必要がある患者さんもいらっしゃいますし、大腿骨と脛骨の両方を切って矯正する必要がある患者さんもいらっしゃいます。これらはごく一部の例で、ほかにも何パターンもの術式があり、さらにそれらを組み合わせて治療を行うこともあります。

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2024年11月時点

一人ひとりの患者さんに合った骨切り方法でよりよい予後を追求する

当然ながらどの程度の病状の患者さんを膝周囲骨切り術で対応できるかは、医師の技量によって幅があります。当院では、先述した検査体制と、これまでに培った技術を活かし、可能な限り膝周囲骨切り術で対応できるよう検討しています。もちろんかなり進行している場合には人工膝関節置換術をご提案しますが、中には過去に「人工膝関節置換術しか方法がない」と判断された方であっても、膝周囲骨切り術で対応が可能であった例もありました。変形性膝関節症の治療選択について悩まれている方はぜひ一度ご相談にいらしてください。症状や体型、生活様式なども考慮し、患者さん一人ひとりに適したよりよい治療をご提案いたします。

自家骨移植を行い、早期社会復帰を目指した膝周囲骨切り術を実施

膝周囲骨切り術は骨がつくまで時間がかかったり、その間は多少の痛みが続いたりするなど、社会復帰までにかかる期間が長いことが課題とされていました。当院では骨癒合を少しでも促進するため、了承いただいた患者さんに対して自家骨移植を実施し、早期社会復帰がかなえられるよう努めています。自家骨移植では腸骨(骨盤を構成する骨の一部)から小さな円柱状の骨を数か所抜いて膝関節に移植し、骨を採取した部分には人工骨を詰めます。採取に伴って腰の部分に1.5cmほどの傷は残るものの、傷の痛みについては術後1週間~10日ほどで基本的に治まります。

自家骨移植を行い、早期社会復帰を目指した膝周囲骨切り術を実施自家骨移植を行い、早期社会復帰を目指した膝周囲骨切り術を実施

変形性膝関節症の手術の1つである内側開大型脛骨近位骨切り術の際は矯正する隙間に人工骨を入れますが、自家骨も移植することで骨癒合の促進が期待でき、ひいては早期社会復帰につながります。実際、当院では術後1か月ほどでお仕事に復帰された患者さんもいらっしゃいます。もちろん復帰までにかかる期間は患者さんによって異なりますが、自家骨移植は骨癒合不全による再手術の回避にも役立ちます。現在、膝周囲骨切り術を提案されていて手術を受けるか迷っている方や、社会復帰に関して心配事がある方は、ぜひ一度ご相談ください。

解説医師プロフィール

術後の生活やリハビリ

早期社会復帰の実現に向けて、変形性膝関節症に特化したリハビリを提供

膝周囲骨切り術の場合、術後のリハビリ期間はおおむね3か月ほどと患者さんにお伝えしています。骨切りをした箇所はプレートで固定をしていますが、これを取ってもびくともしないくらいに骨がくっつき、何も痛みがなくなったときにはじめて自由な行動が可能になります。前の項で説明したとおり、自家骨移植によって早期社会復帰される方も増えてきましたが、一般的には3か月ほどをみておいていただくとよいでしょう。骨さえしっかりとくっつけば、以降の行動制限はありません。

早期社会復帰の実現に向けて、変形性膝関節症に特化したリハビリを提供

早期回復をかなえるため、変形性膝関節症に特化したリハビリを行っている点も当院の強みです。早期社会復帰を実現するには、手術手技のみならず効果的なリハビリも欠かせません。当院では、膝周囲骨切り術後のリハビリについて学会などで積極的にセミナーや研究活動を行う理学療法士が中心となって、よりよいプログラムを提供しています。術後2週間ほどリハビリを行い、さらに継続が必要だと判断した場合は、連携している医療機関(リハビリを専門とする病院)へご紹介をしています。術後は感染に気を配る必要がありますが、万が一感染を疑う症状があった場合でも連携病院からすぐに連絡が来る体制を構築していますので、ご安心ください。

最低10年間のフォローアップでよりよい予後を目指す

当院では患者さんに「最低10年以上は来てください」とお伝えしています。先述のとおり、変形性膝関節症は進行性の病気であり、また遺伝的要素も関係するとされる病気です。たとえ我々がどんなに力を尽くして手術をしたとしても、数年後に進行する方もいますし、また術前検査で骨粗鬆症が分かった方については術後も骨密度の回復を目指して治療が必要です。そのほか、加齢に伴って膝だけでなく腰や肩などに痛みが生じることもあるでしょう。いずれの場合でも、当院へ通院いただいていれば早い段階で対処が可能ですし、一度治療を行ったからには、10年以上責任を持って診させていただきます。

緩和ケア病棟・通院外来

繰り返しになりますが、変形性膝関節症は早い段階で治療を行うことで、その先“よい膝”をより長く保てる可能性があります。お困りのことがある方は、どうぞ遠慮せず当院へご相談ください。

解説医師プロフィール
長嶋 遼 先生
リハビリテーション科主任・理学療法士
長嶋 遼さん
  • 公開日:2025年2月1日
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