記事3『変形性膝関節症の治療——薬物療法、手術』では、変形性膝関節症の主な治療法をお話しいただきました。変形性膝関節症の治療には、薬物療法から手術まで、患者さんの症状や希望により多様な選択肢があることが特徴です。しかし、なかでも病気の根本的な原因を治療することを目指した手術が、膝周囲骨切り術(Around Knee Osteotomy:AKO)です。
横浜石心会病院(旧 さいわい鶴見病院)の竹内 良平先生は、「AKO(膝周囲骨切り術)は、手術後に患者さんの可能性を広げる治療法である」とおっしゃいます。今回は、竹内先生にAKO(膝周囲骨切り術)の効果や今後の展望についてお話しいただきます。
記事3『変形性膝関節症の治療——薬物療法、手術』でお話しさせていただきましたが、AKO(膝周囲骨切り術)にはいくつかの種類があります。そのなかでも一般的なものが、高位脛骨骨切り術(High Tibial Osteotomy:HTO)といわれています。高位脛骨骨切り術は、膝の下にある脛骨を切り、変形を矯正する手術法です。下肢のなかで、体重の通るラインは大腿骨頭の中心から足関節の中心までと考えられており、正常な膝の場合、この体重が通るラインは膝のほぼ中心になるはずです。
しかし、変形性膝関節症の方は、このラインが膝の内側に傾いていることが多く、歩くたびに膝の内側に負担がかかっている状態です。それを膝の中心よりもやや外側に矯正するために行う治療が、AKO(膝周囲骨切り術)です。矯正後は、専用のプレートで固定し、必要に応じて矯正するすき間に人工骨などを入れます。また、高位脛骨骨切り術は、骨切りの方法により、以下のようにOpen法とClose法に分かれます。
高位脛骨骨切り術の中でも、脛骨の内側から外側に向かい骨を切り、内側を開いて専用のプレートや人工骨を入れ固定することで、矯正する方法をOpen Wedge HTOと呼びます。
脛骨の外側から骨をくさび状に切り取り、短縮させ矯正する方法をClosed Wedge HTOと呼びます。矯正する角度が大きい場合にも適応され、変形が強い方や膝のお皿に障害がある方にも実施できる点が特徴です。
Hybrid Closed Wedge HTOは、私が考案し、開発した方法です。従来の方法に比べて骨の切除量が少なく、手術後、早い時期から歩けるようになります。オリンパス テルモ バイオマテリアル株式会社と共同で専用のプレートを作りました。手術方法も以前と比べて容易になり、今後、日本ばかりではなく世界でも広まっていく方法ではないでしょうか。
お話しした高位脛骨骨切り術は、脛骨を切ることで矯正する治療法になりますが、脛骨と下肢の太もも部分にあたる大腿骨にも変形の原因がある場合は、Double Level Osteotomy(DLO)が適応されます。ダブルという名称の通り、脛骨と大腿骨の両方で一度に骨切りを行い矯正をします。
AKO(膝周囲骨切り術)では、患者さんの状態に合わせ、これらの方法を組み合わせた手術を行います。お話ししたのはごく一部の例であり、ほかにも骨切りの方法は何パターンもある点が大きな特徴です。
繰り返しになりますが、AKO(膝周囲骨切り術)は、患者さんに合わせてさまざまな方法を組み合わせることができます。そのため、手術法は患者さんの年齢や症状、体型、希望する活動などを考慮し決定されます。たとえば、積極的にスポーツをしたいと希望する方には、それに適した手術を選択することができますし、最小限の治療を希望する方にはそのように実施することが可能です。
AKO(膝周囲骨切り術)においては、骨切りをする前に、関節鏡を用いて骨を削ったり、靱帯や半月板を綺麗にしたりする工程があります。内視鏡で手術するのに、一般的には30分ほどを要します。さらに、骨を切り皮膚を縫うために40分から1時間ほどかかります。患者さんの症状に合わせて必要な処置は変わるので時間は前後しますが、一般的には大体1時間半ほどの手術時間になります。
AKO(膝周囲骨切り術)では、人工骨を入れることがあるとお話ししましたが、この人工骨は時間が経つと薄くなり、いずれ自分の骨と融合します。3年で完全に人工骨がなくなる方もいますし、術後5年が経過してもわずかに残っている方もいます。患者さんの症状や体質により異なる点が特徴です。
AKO(膝周囲骨切り術)が適応される患者さんは、まず膝の動きが比較的よい方です。膝を伸ばしたり曲げたりできることが条件になります。膝の曲げ伸ばしが困難なほど膝が硬くなってしまった方は、AKO(膝周囲骨切り術)による治療が難しく、人工関節が適応されるでしょう。合わせて、骨の質がある程度よい患者さんのほうが、術後の回復は良好になるため適しているといえます。さらに、膝の内側か外側、どちらかの関節が残っている方に膝周囲骨切り術は適応されます。また、私は、患者さんにAKO(膝周囲骨切り術)への理解があることも重要であると考えています。
AKO(膝周囲骨切り術)のメリットは、なんといっても、自分の膝が残るということです。たとえば、歯が悪くなったとき、最初から入れ歯を希望する方はなかなかいません。まずは虫歯を削ったり、患部を治療したりして自分の歯を残す治療を希望するでしょう。膝の内部は歯と違い目には見えないために実感しづらいかもしれませんが、自分の身体機能を残せるのは大きな喜びだと私は思います。
また、自分の膝が残っていれば、医療技術が発達した将来、再生医療を受けることができるかもしれません。このような意味でも、AKO(膝周囲骨切り術)は、夢のある治療法であると思います。一方、人工関節は入れ歯のようなものです。自分の膝がすでに残っていないのです。人工関節しか治療法が残されていない場合は別ですが、そこまで進行していない方には、私はAKO(膝周囲骨切り術)をおすすめします。
一方、AKO(膝周囲骨切り術)のデメリットは、関節症の程度により異なりますが、人によっては痛みが完全になくなるわけではないということです。たとえば、AKO(膝周囲骨切り術)を受ければ、必ずしも100あった痛みが0になるというわけではありません。もちろん0になる方もたくさんいますが、10になる方も50になる方もいます。なぜかというと、悪いところが完全になくなったわけではないからです。そのため、頻繁にではありませんが、たとえば、歩行中に振り向いたときや歩き始めのときなどに、ときどき痛みが出る場合があります。また、記事3『変形性膝関節症の治療——薬物療法、手術』でもお話ししたように、変形性膝関節症は完治が難しい病気です。そのため、AKO(膝周囲骨切り術)を受けたとしても、定期的な検査や治療が続くことは覚えていてほしいと思います。
AKO(膝周囲骨切り術)は、手術後に骨のつきを待たなければなりません。特にお話ししたような、高位脛骨骨切り術の中でもClosed Wedge HTO(Close法)を実施した場合、骨のつきには時間がかかるといわれています。具体的には、完全に骨がつくまでに3〜4か月ほどかかることがほとんどです。その間は歩くと痛みを感じることがあるでしょう。手術の翌日には手を離して両足で立てる患者さんもいらっしゃいます。昔は、術後の入院中はずっとギプスであることも珍しくありませんでしたが、痛みはあるものの歩くことができるので、リハビリをしながら骨のつきを待つことが可能です。
昔と比べ、術後の骨のつきがよくなったとお話ししましたが、これには人工骨が関係していると考えています。私たちの病院が使用している人工骨には表面に小さな穴があいています。これにより患者さんの骨と人工骨が融合しやすくなりました。そのため、痛みはあっても、翌日から立ち上がり歩くことができる患者さんもいらっしゃいます。
AKO(膝周囲骨切り術)の手術費用は高額療養費制度が適用され、専用のプレートや人工骨などの材料費を含めて30数万円ほどになります。
AKO(膝周囲骨切り術)の入院期間は、早い方で約2週間です。これは、手術の傷が落ち着くのが大体2週間ほどになるからです。ですが、私たちの病院には遠方から手術を受けにいらっしゃる方もいるので、そういうケースでは4週間ほど入院される場合もあります。地元の方である場合は、2〜3週間で退院される患者さんがほとんどです。
AKO(膝周囲骨切り術)の手術後は、簡単なリハビリをします。術後すぐにリハビリに入る方がほとんどです。膝関節自体に対しては、内視鏡により最小限の手術しかしていないため、術後すぐに関節を曲げることが可能です。自宅に帰ってからも特別なリハビリをする必要はなく、日常生活自体にリハビリの効果があります。ただし、個人差はあるものの術後3か月は痛みがあると考えてください。これは、術後3か月は骨がついてないため、この間は体重をかけて歩くと痛みが出るためです。しかし、日常生活に支障が出るほどではありません。3か月後、骨が完全につくと、痛みがなくなる患者さんがほとんどです。
AKO(膝周囲骨切り術)により、体に入った人工骨を入れ替える必要はありません。人工骨は1度入れたら抜く必要はありませんが、プレートとボルトは大体1年ほどで抜きます。私たちの病院では、遅くても1年で抜くようにしています。ボルトを抜いても将来的には骨にあとが残ることはなく、患者さんに影響はありません。
AKO(膝周囲骨切り術)は、骨さえつけば何をしてもいいという制限のない手術です。骨がつき、内部に入れた金属を抜いたら、もう完全に自分の骨として使うことができます。たとえば、手術後に卓球やマラソンなどのスポーツも期待できます。
私たちの病院では、AKO(膝周囲骨切り術)の新しい技術や材料を使用しています。具体的には、特別に私たちのチーム(本部をスイスに置くAO財団の膝チーム)が開発したプレートを使用しており、万が一でも抜けてしまう心配がありません。純チタンというしなやかに動く素材を使用しているので、骨のつきもよくなります。それが骨の融合を促進しており、手術後の回復も早くなります。
できれば手術をしたくないという患者さんの気持ちも分かります。しかし、手術を避け適当な治療を続けてしまうと、症状が悪化し、最後は体に負担の大きな治療を受けることになる可能性があります。大切なことは、痛みが取れない治療をいつまでも受け続けないことです。自分で症状が悪化していると思えば、医師や病院を変えるべきです。それを漫然と1年や2年、10年と受け続けることは症状を悪化させてしまう場合があり、最後は自分が窮地に陥ってしまうことになりかねません。
そのような状況を避けるためには、少しでも疑問に思うことがあればセカンドオピニオンを受けるなど、自分が受けている治療法を見直す勇気が重要です。
人工関節の手術は、現在、年に10万件ほど行われているといわれています(2019年時点)。一方で、AKO(膝周囲骨切り術)は年間まだ7000件程度です(2017年当時)。私は、5年後にはAKO(膝周囲骨切り術)を年間3万件まで増やしたいと考えています。それは、変形性膝関節症の患者さんに対して、現状ではこの治療法が危険が少なく効果が高いと考えられるからです。この手術の実績が増えると、安心して治療を受けていただけるようになるのではないでしょうか。
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横浜石心会病院 関節外科センター センター長
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