肺がん

70歳代女性の肺がん

最終更新日
2022年07月08日

こちらの患者さんはもともと慢性胃炎や不眠の症状で近隣の内科を受診していたそうです。ある時から呼吸困難や血痰の症状がみられるようになり、X線やCTを撮影したところ肺がんが疑われ、当院にいらっしゃいました。受診された当初から呼吸の状態が悪く、調べてみると右の気管支がかなり狭窄(きょうさく)していました。右の肺は左の肺と比較すると心臓がない分大きく、右の肺の機能が落ちることは命に関わる可能性もあります。そこで当院ではすぐに呼吸器インターベンション治療を行い、右の気管支を広げて狭窄を防ぐためのステントを留置しました。

呼吸器インターベンションにより薬物治療・放射線治療が可能になった

その後の診断で、こちらの患者さんは肺の扁平上皮がんであることが分かりました。呼吸器インターベンション治療を行うことによって呼吸の状態が改善されたため、ステントを入れた状態のまま抗がん剤による薬物治療や放射線治療を開始し、その後免疫治療を開始しました。免疫治療によってがんがかなり小さくなってきているため、今後様子を見てステントを抜去することを予定しています。こちらの患者さんのように治療初期から呼吸器インターベンション治療を行う方は比較的珍しいのですが、呼吸器インターベンションによって全身状態がよくなると、治療の選択肢が広がるケースもあります。

北海道大学病院

〒060-8648 北海道札幌市北区北十四条西5丁目 GoogleMapで見る

前の症例

こちらの患者さんはもともと糖尿病や高血圧症でほかの病院に通院していました。BMI27.2とやや肥満体型ではあったものの健康状態に問題はなく肝機能も正常な方でしたが、念のため受けたエコー検査で肝臓に3cmの腫瘍(しゅよう)が見つかり、当院に紹介されてきました。糖尿病などの基礎疾患はありましたが体の状態はお元気だったため、当院では肝臓の全区域切除を行い、肝臓のおよそ1/4を切除しました。ステージ2で術後の化学療法などは行っていませんが、今のところ術後半年以上経過しても再発はなく、定期的な通院を続けながらお仕事に復帰されて、元気に生活していらっしゃいます。 糖尿病・肥満・高血圧症のある方は定期的なエコー検査が大切 近年はウイルス性肝炎によらない肝細胞がん“非ウイルス性肝細胞がん”の患者さんが増えてきています。肝炎にかかっている方はもともと肝細胞がんのリスクが高いことが分かっているためエコー検査など定期的な肝臓の画像検査を行う方が多いのですが、非ウイルス性肝細胞がんの多くは糖尿病・肥満・高血圧症などよりありふれた病気を持つ方が多く、定期的な検査をしている方は少ないといえます。また肝細胞がんは症状が現れにくいことからも、症状を理由に病院を受診することはごくまれで、早期発見が難しい傾向にあります。 こちらの患者さんの場合には、糖尿病や高血圧症で受診していた病院の医師がたまたまエコー検査を行ったことにより、幸い早期で発見することができました。糖尿病や肥満、高血圧症などの患者さんは、できる限り定期的にエコー検査を受けるなど、肝細胞がんの検査を受けてほしいと思います。

次の症例

こちらの患者さんは頭痛や吐き気、性格の変化などをきっかけに近隣の脳外科を受診したところ、頭に大きな腫瘍(しゅよう)が見つかり、当院に紹介されてきました。最初は当院の脳神経外科を受診され手術を受けたのですが、その後詳しく検査を進めたところ肺がんであることが判明し、最初に見つかった頭の腫瘍は肺がんの脳転移であることが分かりました。手術後も取り切れなかった頭の腫瘍は大きくなり、放射線治療や2度目の脳外科の手術を受けるなど不安定な状態が続きました。しかし採取した腫瘍を調べていくとがんの表面にPD-L1と呼ばれるタンパク質が存在していることが分かり、肺がんの免疫治療薬が効く可能性があると考えられたため、当科で免疫治療を行うことになりました。 免疫治療によって肺がん、脳転移が小さくなった こちらの患者さんの場合は免疫治療が大変よく効き、頭の腫瘍も小さくなったほか、今のところ肺のがんも大きく進行せずに経過しています。もともと肉体労働をしている方で、頭の手術を行った後は寝たきりに近い状態まで体の状態が悪化した時期もありましたが、現在では免疫治療を継続しながら、もとの肉体労働をこなせるほどお元気になられています。免疫治療が行われるようになってから、こちらの患者さんのようにがんの根治は難しくても、治療を継続しながらがんと共に生活できる方が増えてきています。


関連の症例

  • 70歳代の男性

    手術の進歩は日進月歩です。がんが広がっていたり合併症があったり、あるいはご年齢や体力的な面からこれまでは手術ができなかったりした方も、いつかは肺がんの手術の適応になる日が来るかもしれません。 これから紹介するのは、今までは難しかった手術に成功した例です。 肺の血管に食い込むステージIIIのがんに対する手術 この患者さんは、心臓から左の肺へ向かう動脈の付け根に広範囲に食い込む形でがんができてしまっていました。 通常このケースでは左の肺を大量に摘出する必要がありますが、肺を多く摘出してしまうと肺・呼吸機能に影響があります。また、この患者さんの場合は体力面から次に予定している治療に耐えられなくなってしまう可能性があったため、なるべく小さな範囲で切除することを方針としました。 そこでがんができた血管を切除した後にご自身の心膜を使って血管をつなぎ直す血管形成術を行い、結果として肺の左下葉(左の肺の下半分に相当する部分)を温存することができました。その後は抗がん剤治療、免疫チェックポイント阻害剤による治療も行い、手術から3年半経過した現在も、この方は再発もなく元気に生活を送られています。 当院では今後も新たな手術方法の開発に熱心に取り組み、手術の適応を広げていきたいと考えています。

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  • 初期の段階で発見された90歳代の高齢患者さん

    がん研有明病院で呼吸器外科部長を務める文敏景(むんみんぎょん)先生に、肺がんの症例について伺いました。 初期の段階で発見された90歳代の高齢患者さん こちらの患者さんは、ほかのがんの治療後に胸部CTを撮影したところ、肺に初期のがんが発見された方です。発見時すでに90代でご高齢の方でしたが、体力もあり、肺の機能も正常だったため手術を行うことが検討されました。 低侵襲手術によって速やかに回復 こちらの患者さんの場合、完全胸腔鏡下手術で右の上葉を取り除く肺葉手術が行われました。完全胸腔鏡下手術は低侵襲(ていしんしゅう)手術の1つで、開胸手術と比較すると患者さんのかかる負担が小さいといわれています。 切除する肺の大きさは完全胸腔鏡下手術でも開胸手術でも変わりませんが、傷が小さい分術後の回復も早く、肋間筋(ろっかんきん)を温存できるので呼吸機能も保たれます。そのため、こちらの患者さんも術後は翌日から歩くことができ、手術から5日目には退院することができました。 現在、手術から5年以上が経過しましたが再発もなく、趣味のゲートボールを続けられているということです。 肺がんの治療方針を定める際は年齢だけでなく、その方の体力や呼吸機能を見て手術ができるかどうか判断することが大切です。90歳を過ぎて手術ができる方は限られますが、当院ではこの方のように体が元気な場合には、手術で治すことも検討しています。

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