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てんかん治療と向き合う心構え
てんかん外来を受診するとき、医師は発作の様子を実際に見ているわけではありません。そのため、これまでは正しい診断には長時間のビデオ録画と脳波の同時記録が必要であると考えられていました。ところが、ス...
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てんかん治療と向き合う心構え

公開日 2015 年 12 月 29 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

てんかん治療と向き合う心構え
兼本 浩祐 先生

愛知医科大学精神科学講座 教授

兼本 浩祐 先生

てんかん外来を受診するとき、医師は発作の様子を実際に見ているわけではありません。そのため、これまでは正しい診断には長時間のビデオ録画と脳波の同時記録が必要であると考えられていました。ところが、スマートフォンの普及によって患者さん自身やご家族が動画を撮影することが容易になり、診断の助けになることがわかってきました。情報テクノロジーの活用、そして主治医との良好なコミュニケーションのあり方について、てんかん診療の第一人者である愛知医科大学精神神経科講座教授の兼本浩祐先生にお話をうかがいました。

てんかん発作時の動画記録

最近では、スマートフォンが普及したことにより、発作が起きたときに患者さん自身やご家族がけいれんの様子を動画で撮影することが可能になってきました。発作の様子を動画で見せていただくことは、診断が難しい場合に非常に役立ちます。

発作がひんぱんに起こる患者さんの場合は、入院した上で発作脳波同時記録を取ることも可能ですが、発作が少ない場合にはそれができません。また、発作が多い方の場合であっても、一定期間入院して記録を取るには病院の人員や費用もかかりますし、何よりも患者さんご本人の負担が大きくなります。

もちろん、正確な診断のためには発作脳波同時記録がもっとも優れた方法ではありますが、たとえ脳波に関する情報はなくても、実際の発作の様子を記録した動画を専門医が見ることができれば、診断のための非常に大きな助けになります。たとえば、心因性非てんかん性発作なのか、それともてんかんなのか診断が難しいケースでも、実際の発作の様子を見せていただければ即座に診断がつくということもあります。

てんかんに魔法の薬はない

これまでの記事でお示ししてきたように、てんかんの4大ファミリーのうち、主要なグループに属するてんかんであれば、適切な薬物治療を行なうことで比較的容易に発作を抑えられ、ほとんどの患者さんは特別な制限なしに日常生活を送れるようになります。

とはいえ、てんかんの治療においては、どんな発作も100%ピタリと止めてしかも副作用もない「魔法の薬」はありませんし、外科でいうところの「神の手」を持つ医師も存在しません。てんかん性脳症では薬が効く方が5人中1人の割合であるという、いわゆる「相場」があるように、一部にはどんなに手をつくしても治すことが難しい患者さんもいることは確かです。

あるひとつの病院に通院していて、どうしても良くならない場合には、患者さんと医師の関係がぎくしゃくして難しくなってくることがあるかもしれません。そのような場合には、他の病院を2、3当たってみるということを考えてもいいでしょう。

しかし、患者さんの側で頑張って病気のことを調べて理解を深め、なおかつ複数の病院を回っても同じような説明を受けるようであれば、それが「相場」というものであるということはご理解いただきたいと思います。

「理想の医師」を求めて病院巡りをしていると、いつまでたっても治療を始められないという弊害も生じますし、主治医がいないという状況になってしまいます。これは患者さんにとって決して幸せなことではありません。

主治医をつくることの重要性

てんかん治療において、主治医を決めることは非常に大切です。てんかんのように長く治療を続ける病気では、そのつど違う病院に行って薬だけをもらってくるというのが一番良くありません。患者さんにもさまざまな事情がありますから、通院先がかわることはやむを得ませんが、その場合も主治医と相談をして次の病院に引き継いでもらえるような関係を築くことが望ましいでしょう。

また、複数の疾患を抱えている患者さんの場合には、主治医との関係を基本としながら、その病院だけでは対応できないような部分があれば別の病院を紹介してもらい、また主治医のところへ戻ってくることもひとつの方法でしょう。

そうすれば、主治医のもとにデータを集積することができ、その患者さんのことを誰よりもよく理解することができます。それは患者さんにとって大きな財産となります。

特別な病気ではない―Common Diseaseとしてのてんかん

てんかんは漢字で「癲癇」と書きます。「癲(てん)」とはやまいだれに顛倒(てんとう・転ぶ)の顛、すなわち「倒れ病(たおれやまい)」を意味し、癇(かん)はけいれんするという意味を持ちます。この漢字表記からもわかるように、本来は精神的な病気という意味合いはありませんでしたが、時を経るうちに別の意味が加わってしまったという経緯があります。

英語でもてんかんのことをFalling Sickness(倒れる病気)といいますが、これは癲の字がもともと意味するところと一致しています。ですから、言葉の本来の意味を知れば、偏見が少しでも取り払われることにつながるのかもしれません。

記事冒頭で述べたスマートフォンによるてんかん発作の動画記録についても、現在ではYouTubeなどの動画共有サイトでご本人が動画を公開することが珍しくなくなりました。これもてんかんという病気がオープンになり、Common Disease(ありふれた病気)に近づきつつあることのひとつのあらわれといえるでしょう。

てんかんはCommon Diseaseのひとつであり、実際に多くの患者さんが結婚して子どもを産み、仕事をすることができています。病気ではあっても、それによって人生を大きく変える必要もなければ、生活を脅かされることもありません。これはてんかんという病気について考えるとき、非常に大切なことなのです。

日本の臨床てんかん学の第一人者。今までに7000人以上の患者の治療に携わっており、国際的にも活躍している。気さくな人柄で医局員にも慕われており、後進の育成にも熱意をもって手がけている。

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