インタビュー

てんかんの子どもを育てるお母さんが知っておきたいこと―ありのままの姿を見つめて認めることが大事

てんかんの子どもを育てるお母さんが知っておきたいこと―ありのままの姿を見つめて認めることが大事
大澤 眞木子 先生

東京女子医科大学  小児科名誉教授

大澤 眞木子 先生

この記事の最終更新は2016年09月14日です。

自分の子どもがてんかんと診断されたとき、お母さんや周りの方々は「どうしよう」という思いから、子どもに過剰な口出しをしてしまうことがあるといいます。しかし、それではかえって状態が良くなりません。てんかんの子どもにとって最も大事なのは厳しい管理ではなく、お母さんが我が子のそのままの姿を前向きにみつめ、よい点を発見していくことです。お母さんがてんかんの子どもに対して何を意識し、周囲にどう働きかけていけばよいのかを、東京女子医科大学名誉教授/日本てんかん学会理事長の大澤眞木子先生にお話しいただきます。

全ての子どもには発達と発育がみられ、てんかんの子どももそうではない子どもと同様に発達・発育していきます。発作の状況によってはこれらが多少抑制される場合もありますが、大きく妨げられることはありません。

発達の過程では反抗期や自我の形成期が訪れます。そのなかでてんかんの子どもは、ほかの子どもが我慢しなくてもいいことを我慢しなければならない場合があります。親御さんは、この点を意識しながら子どもに向き合うことが求められます。

どちらかといえば、親御さんはご自身のなかに一定の目標を設け、その目標地点に子どもが合致するかどうかをみている傾向にありますが、親御さんにとっては当然に思える行為でも、子ども自身にとっては大事な進歩といえる場合があります。ですから、子どもが何か新しいことをやり遂げられたときやがまんできたときには子どもを思い切り褒めて、労ってください。その子どもが進歩できたかどうかという観点を忘れないことが大事です。

また、特に幼い子どもの場合、最も求めているのは「大好きなお父さんお母さんが自分を好いていてくれること」です。てんかんの子どもは敏感で、親御さんの態度によっては「自分が病気であるせいで親が自分を嫌っている」「病気のせいで親を心配させてしまう自分は悪い子どもだ」という感覚を持ってしまいます。ですから、子どもにはなるべく笑顔で接することが大切になります。

たとえば、外出して子どもが疲れてしまい、帰宅後すぐに寝たからといって、夜に飲むべき薬をスキップするのは好ましくありません。なるべく一旦子どもを起こして、しっかりと薬を飲ませてください。

ただし、子どもにとっては薬を飲むという行為そのものが大きな負担となります。他の家族は誰も飲んでいないのに、自分だけ毎日薬を飲まなければならず、また飲まなければまた発作が起こってしまいます。子どもにはこのような精神的負担がかかっているということを、親御さんも理解しておきましょう。

なお、てんかんの薬には様々な種類があり、1日1回服用のものから4回服用のものまで多岐にわたります。医師としては、患者さんのQOLを考えれば服薬回数の少ない薬を選択したいのですが、難治性のてんかんの場合、服薬回数が多いものを投与せざるを得ないこともあります。てんかんの薬は一定の間隔で飲むことが大事だからです。薬は体内に吸収されて成分の血中濃度が上がることで効果を現しますが、一定時間以上飲まなければその濃度が下がり、効いている時間に幅が生じてしまいます。

とはいえ、飲み忘れなく毎回薬を服用し続けるのは大変ですから、患者さんとご家族には、1日に飲む薬を個別に1週間分収納できるケースの利用をお勧めしています。

ウィークリーのピルケース

(一週間ごとに薬を収納できるピルケース)

その他、記事1『子どもにてんかん発作が起こったら―お母さんが知っておきたい小児てんかんのこと』で述べたような気候の変動や、便秘、食べ過ぎ、睡眠不足などの生活習慣の乱れによっててんかん発作が生じやすくなります。そのため、発作を予防するために規則正しい生活を送ることが大事です。お母さんは、子どもが間食や偏食、夜更かしをし過ぎないよう意識するとよいでしょう。

一つの例として、私が以前かかわった良性てんかんの患者さんのお話をしましょう。

良性のてんかんですから、将来の発育に大きな問題はなく健康な状態です。この方は小学校低学年のときにてんかんと診断され、紹介を受けて私の外来に来るまでは別の先生の診察を受けていました。最初にお会いした当時は高校生でしたが、不登校でした。

お二人の様子をみていると、初診の入室の時点で、お母さんがその子の一挙手一投足に対して毎回厳しく小言を述べておられることが気にかかりました。

この件についてお母さんに詳細を伺うと、子どもがてんかんと診断されてからは「よそから後ろ指を刺されないように育てないといけない」と思い、厳しくしつけてこられたとのことでした。

一方、ご本人の観点からは、てんかんという病気で病院を受診するたびに「脳波が悪いので服薬を続けましょう」と指示されており、治療の将来に希望がみえない状態だったのです。彼女の場合は良性てんかんですから、一定時期経てば自然治癒が予測できます。それにもかかわらず、これまで将来の希望を全く提示されていませんでした。お母さんが厳しくしつけをしようと思った理由はこの点にもあるでしょう。

こうした現状を知った私はお母さんとご本人別々に面談し、ご本人には「あなたは健康で能力も高く、将来に全く問題はありません。薬も減らしていきましょう」と話しました。お母さんには「娘さんの成長には何も心配いりません。普通に生活できる能力があるので、お子さんを信じて自由を与えてください」と助言しました(その当時は携帯電話の所持も外出も制限されていたようです)その翌日から彼女は学校に通えるようになり、無事大学も卒業されました。

医師は学校の先生に向けて、子どもの容態や必要な配慮を記した手紙を書くことができるので、困ったときは一度主治医に相談するとよいでしょう。特に修学旅行など宿泊を伴う行事の場合は、きちんと薬を飲んでいるか周囲が確認する必要があります。飲み忘れ防止のためにも、事前に学校の理解を得ておくことが理想的です。

また、授業中の配慮も必要な場合があります。

たとえばてんかん発作は光でも誘発されます。光過敏によって欠神発作(けっしんほっさ:意識が瞬間的に喪失し、ボーッとしているようにみえるタイプのてんかん発作)が起こる子どもや、ジーボンス症候群といって、木漏れ日のような光刺激で発作が起こる子どもの場合は、教室の席を廊下側に置いたりサングラスやつばのある帽子を装着するなどの配慮が必要です。

子どもにこのような特性がある場合には、隠さず正直に学校側に相談してください。

てんかんの子どもも他の子どもと同様、行事や修学旅行への参加を推奨します。状態が不安定なときは、発作が起こったときに備えて、診療情報提供書を医師に書いてもらい宿泊先に送っておくと安心です。

お母さんも、日常的に子どもの状態を専用ノートやスマートフォンのアプリに記入しておくことを推奨します。

ほとんどありませんが、ロッククライミングと潜水は避けたほうが無難です。

子どもがどうしてもやってみたいといった場合は「先生に相談してみよう」「薬を飲んでよくなったらきっとできるようになるよ」と返すと子どもがショックを受けにくいでしょう。

ただし、思春期の頃は脳内にあるGABAという興奮抑制物質の濃度が下がるため、この時期にてんかん発作が再発しやすくなります。ですから、思春期頃の子どもがロッククライミングをやりたいといった場合は、少し年齢が上がるまで待つ必要があります。

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