インタビュー

NASH 非アルコール性脂肪肝炎とは

NASH 非アルコール性脂肪肝炎とは
岡上 武 先生

大阪府済生会吹田病院 名誉院長

岡上 武 先生

この記事の最終更新は2016年02月06日です。

NASHは飲酒や肝炎ウイルスの感染がないにもかかわらず、肝臓に脂肪肝を主として炎症、線維化を伴う異変が起こる病気で、放置するとやがて肝硬変肝がんに進むリスクが高く、日本においても患者が急増しています。ここでは大阪府済生会吹田病院総長の岡上武先生にNASHが急増している背景についてお伺いしました。

米国・メイヨークリニックの病理学者、ルードヴィッヒ氏が肝不全で亡くなった患者さんを解剖したところ、お酒をまったく飲んでいないにもかかわらずアルコール性肝炎と同じような病態を呈していたことを発見しました(1980年)。そこで非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という名前がつけられ、この病気が知られるところとなりました。NASHの患者さんをさらにくわしく調べてみると、高頻度に糖尿病・肥満・高脂血症のような今でいう生活習慣病を背景に持っていたことがわかりました。

1986年にシャフナー氏が、アルコールを飲んでいないのにアルコール性肝障害類似の肝障害をきたしている患者さんたちはすべてNASHなのではなく、単に肝臓に脂肪がたまった状態である例も多く、もっと幅の広い非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)という疾患概念を報告しました。  

NAFLDのうち多くは単純な脂肪肝(NAFL)で比較的良性の疾患ですが、NAFLDの20%前後は炎症や線維化を伴い進行すると、肝硬変肝がんに移行する可能性の高い非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です。

日本人では男性の25%前後、女性の15%以上がNAFLDで、そのうちの20%(約300万人)がNASHといわれています。しかもこの10年間でNASHから進行した肝がん患者が倍増しています。

NAFLD患者の多くは、肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧などの生活習慣病を背景にしており、NAFLDは生活習慣病の肝臓における表現型といわれています。日本においても生活様式の欧米化とともに糖尿病・肥満・高脂血症患者が増えるのと歩調を合わせるようにNAFLDが増え、男性はもちろんのこと、更年期以降の女性や子どものNAFLD増加も問題になっています。

生活習慣病患者は血中インスリンレベルが高いものの、それが充分に働いていない「インスリン抵抗性」を持っているといわれています。インスリンはすい臓で作られて血液をめぐり、運動などに必要なブドウ糖を燃やしてエネルギーに変えるホルモンです。

これまで糖尿病はインスリンがうまく分泌されていないことが原因と考えられていましたが、最近はインスリンが十分あるのに利用されずに血糖値が高くなる糖尿病が増えています。この状態をインスリン抵抗性と呼び、それによって肝臓に脂肪がためこまれ、脂肪肝になってしまうのです。これに脂質過酸化・サイトカイン・腸管からのエンドトキシン・鉄などの酸化ストレスが加わって炎症が生じ、組織の線維増加などにより重症化し、NASHを引き起こすと考えられています。

NASH発症には、皮下脂肪型の肥満よりも内臓脂肪型の肥満が要注意で、糖尿病・高脂血症・高血圧・急激な体重減少や急性飢餓状態・薬剤(タモキシフェン・糖質コルチコイド・アミダオン・合成エストロゲン・ニフェジピンなど)による原因も挙げられます。米国の歌手、カーペンターズのカレン・カーペンターの死因は急激なやせが原因のNASHといわれています。

 

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