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卵巣機能不全の治療をする際のポイントとは?

卵巣機能不全の治療をする際のポイントとは?
榊原 秀也 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 病院長

榊原 秀也 先生

目次
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卵巣機能不全は、女性ホルモン量が低下して無月経の状態になる病気です。主にホルモン剤を用いて、女性ホルモン量を調節することで治療します。ただし、10歳代の患者さんが治療の機会を逃すと、成人女性としての体づくりや妊孕性(にんようせい)妊娠する力)に影響する可能性があります。無月経に気付いたら、様子を見ることなく医師に相談してください。

今回は、卵巣機能不全の治療の選択肢や治療の目標について、横浜市立大学附属市民総合医療センター病院長 榊原 秀也(さかきばら ひでや)先生に伺いました。

卵巣機能不全の治療には次のような方法があり、患者さんの状態やご希望によって選択します。

ホルモン補充療法とは、ホルモン剤を用いて女性ホルモンを補う治療法です。更年期に現れる身体的、精神的な症状を改善することが期待できます。

排卵誘発とは、排卵誘発剤などを用いて卵巣を刺激し、排卵を促す治療法です。不妊症の治療法の1つであり、卵巣機能不全の患者さんが妊娠を希望される場合に行うことがあります。

軽度の無月経月経不順の患者さん、ホルモン剤の使用に抵抗を感じる患者さんなどには、漢方を処方することがあります。副作用の少ない治療法ですが、1日3回の服用が必要なことや、味が独特なことなどから、飲み続けることが難しいと感じる方もいらっしゃるようです。

ピルは一般的には経口避妊薬のことを指しますが、月経周期を整えるためにも活用されます。用量は1日1回1錠と使いやすいですが、血栓症などの重篤な副作用のリスクがある喫煙者は使用が制限されます。また、肥満体型の方も血栓症のリスクが高いとされます。喫煙者や肥満体型の方が月経不順の治療を行う場合、漢方を使用したり、禁煙やダイエットをおすすめしたりしています。

卵巣機能不全の治療の目標とは?

卵巣機能不全の治療の目標は、女性の生殖機能や健康に関わる女性ホルモンの量を、同年代の方と同じくらいの値に調整することです。

健康な方の女性ホルモン量は、成熟期に向けて上昇し、老年期に向けて下降するようなカーブを描いて推移します。一方、卵巣機能不全の患者さんの場合、女性ホルモン量が適切なカーブに沿わない形で推移します。基本的に、初経前の子どもの場合はカーブが上昇せず、元々月経がある大人の場合はカーブが早期に下降することが特徴です。

たとえば、卵巣機能不全により40歳で無月経になったら、50歳前後の方と同じくらいの女性ホルモン量しか分泌されていない状態だと推測できます。その場合、通常よりも10歳ほど早く閉経を迎えることになるため、患者さんのご希望に応じてホルモン補充療法などを行います。

患者さんの年齢だけでなく、希望されるライフスタイルによっても、治療のアプローチが変わります。未婚か既婚か、お子さんはいるのか、妊娠希望はあるかといったことを問診で伺い、それに合わせて治療計画を立てていきます。特に、月経周期を整えるだけでよいのか、妊娠の希望はあるのかがポイントになります。

たとえば、42~43歳の既婚の患者さんで、お子さんがいらっしゃる場合、今後の妊娠のことは想定せずに治療計画を立てることが多いでしょう。閉経を早く迎えることが予想されるため、治療で月経の周期を整え、一般的に閉経を迎える年齢になったら治療を終了します。その後は更年期障害の治療などに切り替えることもできます。

一方、30歳代半ばの患者さんの場合、社会的な状況や妊娠の希望などが一人ひとり異なります。“結婚も出産も考えていないので月経周期を整えるだけでよい”、“いつでも妊娠できる状態を目指したい”など、細かいご希望が診療の方針に関わります。ご自身のライフスタイルに合わせた治療ができるよう、医師とよく相談することが大切です。

卵巣機能不全の治療では、治療を終了して閉経を迎える時期も、患者さんのご希望に合わせて検討します。患者さんによっては、“治療を継続してできるだけ月経の周期をキープしたい”という方もいらっしゃれば、“早めに閉経しても構わない”という方もいらっしゃるかと思います。

ただし、女性ホルモン量の増加による副作用を考慮する必要があります。閉経後のホルモン補充療法は乳がん高血圧などの発症リスクを増加させるためです。

やがて女性ホルモンが低下して月経不順になり、閉経を迎えるのはごく一般的なことです。基本的には、平均的な閉経年齢である50歳頃に治療を終了すればよいでしょう。

元々月経のある方が、過度な体重制限などのストレスにより卵巣機能不全を発症した場合、女性ホルモンを投与して月経周期を整える治療が中心になります。また、生活習慣を改善することも大切です。

卵巣機能不全とはどんな病気? 無月経が起こる原因やしくみ』でも述べたように、10歳代のアスリートは卵巣機能不全を発症するリスクが高く、特に体操、新体操、フィギュアスケートなどの競技を行う方は注意が必要です。産婦人科の医師と相談しながら月経周期を整え、大会などに合わせて月経の時期をずらすことも検討するとよいでしょう。

小児がんなどの治療により卵巣機能不全を発症した患者さんは、早期に診断がついていれば、無治療では初経が来ないことをあらかじめ予想できます。そこで、病気の状態が安定していることを確認し、女性ホルモンの投与を開始します。月経を起こすだけでなく、骨の健康を守るとともに、将来の妊娠に備えた生殖器系のメンテナンスも行います。

生まれつきの卵巣機能不全の患者さんは、完全に閉経していて妊娠できない状態であっても、女性ホルモンを投与する治療を行うことが大切です。これは、思春期に骨量を獲得し、成人女性としての体をつくるための治療です。

ただし、完全に閉経している場合、月経を起こせても自力では妊娠することができない状態です。妊娠を希望される方は、生殖医療を専門とする医療機関でご相談ください。卵子を保存しておくことで妊孕性(妊娠する力)の温存を目指すことができますが、卵子が残っていない場合には、卵子提供による妊娠を目指します。今後発育が可能な卵子数は、卵巣内から分泌される抗ミュラー管ホルモンというホルモンを測定することで、ある程度は推測できます。

女性ホルモンは骨量の獲得に深く関わっているため、女性ホルモンが低下している卵巣機能不全の患者さんは、骨粗しょう症の対策も必要になることがほとんどです。当院では、無月経と骨粗しょう症の対策を中心に、女性のヘルスケアに関するさまざまな取り組みを行っています。

児童精神科

当院の児童精神科には、摂食障害を持つ10歳代のお子さんが入院してこられます。治療が落ち着いたところで当科が診療に加わり、月経の回復と骨粗しょう症のケアを行います。

乳腺・甲状腺外科

乳腺・甲状腺外科は、乳がんの患者さんが高い骨量を維持できるよう、ボーンヘルスケア(骨を健康にすること)に力を入れています。乳がんは女性ホルモンによって進行することが知られており、女性ホルモン量を抑える薬物療法を行うことがあるため、骨粗しょう症、関節痛、ばね指*などを生じやすくなります。そこで、当科が診療に加わり、漢方や骨粗しょう症治療薬などを用いて患者さんをサポートしています。

*ばね指:指の付け根に炎症が起こり、ばねのような状態になること。

日本思春期学会理事長として、今特に強調して情報発信したいと考えているのが、10歳代の卵巣機能不全と骨量の関係です。10歳代の患者さんが治療の機を逸すると、骨量の獲得が難しくなり、生涯にわたる骨粗しょう症につながってしまうからです。卵巣機能不全の治療では、年齢相応の女性ホルモン量に近づけることを目指しますが、骨粗しょう症のケアもポイントの1つです。

卵巣機能不全の原因はさまざまですが、10歳代の患者さんはいずれも、骨量をしっかりと獲得できるようなケアを行っていくことが大切です。たとえば、性分化疾患*の1つであるターナー症候群は、卵子が枯渇したことによる無月経や、低身長などの症状がみられる病気です。低身長を改善するためには成長ホルモンを投与しますが、骨量や子宮への影響を抑えるために少量の女性ホルモンを併用しながら治療することが重要です。

できるだけ早く治療を始めるためにも、月経が3か月来ないことに気付いたら、病気の可能性を考えてすぐに医療機関を受診することをおすすめします。

*性分化疾患:性染色体、性腺、内性器、外性器が生まれつき非典型的である状態。

思春期の無月経が続くと、その後のライフステージに大きな影響を及ぼします。卵巣機能不全の患者さんに限らず、たとえばピルを使用して、月経周期を整えておくことをおすすめします。副作用なども考慮する必要はありますが、ピルには複数のメリットがあります。月経痛の緩和、月経不順の改善、月経の時期のコントロール、婦人科疾患の予防などが期待できるのです。

また、ピルユーザーは定期的に婦人科にかかって検診を受けることになりますし、かかりつけ医と話し合うことは将来のライフプランを考えるきっかけにもなります。出産を希望されている方は特に、妊娠出産のタイミング、授乳を終えた後でピルを再開するタイミング、仕事に復帰する時期など、幅広い相談をすることができます。

産婦人科医は、患者さんの“ライフプランナー”のような存在でもあります。お困りのことがあれば、遠慮なくご相談いただければと思います。

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