院長インタビュー

急性期から緩和ケア、在宅支援まで、地域住民を支える市立貝塚病院

急性期から緩和ケア、在宅支援まで、地域住民を支える市立貝塚病院
片山 和宏 先生

市立貝塚病院 総長

片山 和宏 先生

目次
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大阪府貝塚市にある市立貝塚病院は、1939年9月に開院した歴史ある病院です。“地域住民を支える良質な医療の提供”を理念に掲げ、泉州二次医療圏の中核的な病院として多くの患者さんの診療にあたっています。2019年に創立80周年を迎えた同院の役割や今後ついて、総長の片山 和宏(かたやま かずひろ)先生に伺いました。

建屋全景
市立貝塚病院外観(提供:市立貝塚病院)

当院が開院したのは1939年9月で、2019年には創立80周年を迎えることができました。高度な医療の提供や包括的ながん医療、地域医療を三本柱に、医療の質の向上に取り組んでおり、2024年1月には手術支援ロボットの新機種“da Vincl(ダビンチ)Xi”を導入するなど、医療設備の充実も進めています。現在の一般病床は249床になります。

ダビンチ
da Vincl Xi(提供:市立貝塚病院)
手術風景
da Vincl Xiによる手術(提供:市立貝塚病院)

当院がある貝塚市は大阪湾の東岸に位置し、大阪市を中心とする大阪大都市圏の南部にあたります。臨海部と内陸の平坦部、丘陵部、山間部など多様な地形で構成され、そこに約83,000人が暮らしています(2024年1月時点)。国内では高齢化が問題になっていますが、貝塚市でも高齢化が進んでおり、2020年時点の高齢化率(65歳以上の高齢者の割合)は27.5%となっています。また、貝塚市は8市4町から構成される泉州二次医療圏に属します。同医療圏の総人口は約88万人で、高齢化率がもっとも高い岬町は41.0%に達しています。貝塚市の高齢化率は全国平均をやや下回っていますが、今後は上昇が見込まれており、そのような地域で当院が担う責務は大きいと考えています。

救急では、泉州二次医療圏において、当院を含めた地域の病院が協力して輪番制で2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)の診療に対応しています。外科救急は水曜日、小児救急は金曜日、消化器内科の消化管出血救急が第3木曜日を担当しています。また産婦人科救急では当院とりんくう総合医療センターの産婦人科を統合した泉州広域母子医療センターで、救急患者を受け入れています。これは、りんくう総合医療センターに当院の産婦人科医師を派遣し、時間外救急に対応しています。小児科や産婦人科などは医師の不足が指摘されており、24時間・365日絶え間なく医療サービスを提供できるよう体制を整えることは、2次救急指定病院としての重要な役割だと考えています。

乳腺外科では、高い専門性を生かし、乳がんの治療を積極的に行っています。2004年には“乳がん高度検診・治療センター”を設立し、大阪府南部の乳がん診療の拠点として、検診から診断、手術、薬物療法、放射線療法、緩和ケアに至るまで、質の高い医療が提供できる体制を整えました。日本乳癌学会認定施設でもあり、在籍している5名の乳腺専門医全員がマンモグラフィ読影医の認定*を受けています。

乳がんの手術は年間200件近く**行っており、大阪府下でもかなり多いほうではないかと思います。また、形成外科の医師と連携して乳房再建術も積極的に行っており、中でもインプラント再建術や広背筋再建術など、乳がん手術時に同時に乳房再建を行う“一次乳房再建”の手術件数は年々増加し、着実に実績を重ねています。乳房に異常を感じた場合や、検診などで精密検査を指示された場合などは、気軽にご相談ください。

*乳腺専門医……日本乳癌学会認より専門医の認定を受けた医師を指す。

 マンモグラフィ読影医……特定非営利活動法人 日本乳がん検診精度管理中央機構より認定を受けた医師を指す。

**乳がん手術件数実績……2017年:196件、2018年:199件、2019年203件、2020年:196件、2021年:198件

膵臓(すいぞう)がんは早期発見が難しいことから、日本のがん死亡の原因の第4位をとなっています(2022年統計)。一方、膵臓がんは1cm以下ほどの小さいうちに見つけることができれば、5年生存率はおよそ80%といわれているので、本当に早期に見つけることが大事です。そこで当院では、2021年4月から膵臓ドック(膵臓精密超音波検査+腫瘍(しゅよう)マーカー)を始め、膵臓がんの早期発見・早期治療に取り組んでいます。

膵臓精密超音波検査はリクライニングの椅子で検査を行い、このとき、患者さんには温かいミルクティーを飲んでいただきます。ミルクティーで胃を充満させると、膵嚢胞(膵臓の中にできる、水成分などを含んだ袋状のもの)がきれいに見え、精度の高い検査が実施できます。血糖が高めの方や、膵嚢胞、膵管拡張がある方は、膵臓がんになりやすいと言われていますので、気になる方は早めの受診をおすすめします。ちなみに、ミルクティーを用いた検査はメディアでも紹介されています。くわしくお知りになりたい方は、「ミルクティー 膵臓」で検索してみてください。

2020年10月に地域包括ケア病棟を開設しました。地域包括ケア病棟は、急性期の入院診療はひと段落したものの、すぐに自宅に帰ったり施設に入ったりするのに不安を感じている患者さんに、退院に向けた準備をするために入院していただいています。高齢化が進むと、病気になって心身が弱ってしまう患者さんが増えてきますので、リハビリテーションを含め、病気治療が終わった後のサポートにも力を注いでいます。

また、緩和ケア病棟は、2015年5月に病床数19床で開設しました。大阪府内貝塚市以南では初めての緩和ケア病棟になると思います。高齢の患者さんはなるべく自宅の近くで看てほしいといった要望が強いことから、患者さんの思いを受け止め、その人らしく穏やかな毎日を過ごしていただけるように、心のこもったケアを提供しています。このように、お住まいの地域で完結できる医療サービスを提供する意義は大きいのではないでしょうか。

がんの診療が始まると、症状や治療方法、薬剤、健診、セカンドオピニオンなどで、さまざまな疑問や不安を抱くことがあります。また、医療費の支払いや就労に関する問題など、多くの悩みを抱えてしまうこともあるでしょう。そのような患者さんやご家族に寄り添うため“がん相談支援室”を設置して広く相談に乗っています。健康に関する情報も積極的に発信していますので、お気軽にご利用ください。

また、がんの患者さんとご家族の方が参加する懇話会“患者サロン”を開催しています。年に5回ほど開催しており、毎回テーマを決めて、患者さんとご家族が語り合う場と時間を提供しています。

患者サロン
患者サロン年間予定表(2024年度)
(提供:市立貝塚病院)

がんと診断されると、それまでとは異なった悩みを抱えることになります。そのようなとき、当事者だから分かる治療の悩みや疑問を語り合うことで、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。患者サロンを通じてがんとうまく付き合い、よりよく過ごすきっかけを見つけていただければと思いますので、多くの方のご参加をお待ちしております。

地域全体を活性化させて、地域の皆さんの健康寿命を延ばしていくのが当院の目指すところです。そのためにも、地域の皆さんには予防の意識を高めていただけるとうれしいですね。当院は検診も積極的に取り組んでいますので、そのお手伝いができるかと思います。

また、地域の病院や診療所との連携を、今後はさらに深めていきたいと考えています。特に当院は、紹介受診重点医療機関となり、受診するには地域の病院や診療所の紹介状が欠かせなくなりました。そのため、ふだんはかかりつけ医の先生方が診て、症状に合わせて当院が診るという具合に密に連携を取りながら、患者さんの健康をかかりつけ医の先生方と二人三脚で守っていきたいと思います。

登録医ボード
登録医ボード(提供:市立貝塚病院)

市民病院として、貝塚市と周辺地域の皆さんが必要とする医療を、今後も安定的に提供していきますので、引き続きご支援賜りますようお願い申し上げます。

*病床数、医師数および提供する医療等に関する情報は全て、2024年3月時点のものです。