連載皮膚が映すココロとカラダのメッセージ

春は顔がかゆくなる…その原因は

公開日

2019年03月11日

更新日

2019年03月11日

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2019年03月11日

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稲田堤ひふ科クリニック

関東 裕美 先生

寒い冬が終わり、春が巡ってくると気分も開放的になり、外に出て活動的に過ごしたくなります。寒さに縮こまっていた冬はお肌の大敵「乾燥」が気になりましたが、実は春は春で、さまざまな肌トラブルの原因がそこかしこに潜んでいるのです。毎日のスキンケアも、春という季節に合わせることが大切。そして、肌トラブルがあったら、適切な検査と治療を検討してください。

化粧かぶれを指摘され外出も憂鬱に

「化粧品かぶれでしょうか……眼の周りが赤くなってかゆくて、近くのクリニックで診てもらって薬を塗るとよくなりますが、やめたらすぐにかゆくなってしまいます。クリニックの先生から『化粧が悪い』と言われ、化粧をやめてみましたけれども治らないので、毎日の生活に困って外出するのも憂鬱になってしまいました」。そう訴えて40代後半の女性Aさんが来院しました。

​​洗顔刺激による接触皮膚炎=筆者提供
洗顔刺激による接触皮膚炎=筆者提供

洗顔方法に問題?

Aさんのように繰り返す顔の湿疹の原因として化粧品かぶれを疑われ、紹介されて受診する患者さんの半数以上は、眼や口周囲の赤みと乾燥が目立ちます。このような場合は、特に薬品などを処方せず、洗顔方法を指導するだけで翌週にもう1度受診してもらうと、それだけでほとんどの方は良くなっています。

このような方は、自身が乾燥肌かどうかを自覚することなく、年間を通じて同じ洗い方をしがちです。肌トラブルが起こると、化粧品が悪いのではないかと思って化粧品をやめるのに、肝心の洗顔方法を変えない方が多いようです。皮膚の変化に気付きながらも「年齢を重ねても奇麗になるには洗うことが大切」と考え、洗い過ぎてかえって皮膚を守る膜まで落としてしまうのです。

顔をこする頻度を減らす

最初の治療としての洗顔方法指導は、具体的には洗顔剤の中止です。

朝は心地よい温度の水だけで洗ったら、保湿剤を1品と、遮光剤(サンスクリーンでもBBクリームでもファンデーションでも)を1品だけ塗ります。夜は刺激のないメイク落とし(なければ滅菌オリーブ油)を使って顔に塗ったものと汚れを落とし、その後は自分の好む温度の水で洗い流すのみにしてみるように指導します。過敏になっている皮膚にスキンケア製品を何種類も使うことは顔をこする回数増につながり、むしろ皮膚症状を悪化させてしまうこともあります。トラブルがある時にはなるべく刺激を減らすことが大切だと思っています。

洗顔剤使用をやめてもなお、顔のかゆみが軽快しないこともあります。そのような方は、アトピー体質で温度・湿度に順応せず湿疹を繰り返す▽花粉の影響でかゆみが取れない▽化粧品や自身の汗でかゆみが取れない――など、さまざまな要因を検討するために血液や皮膚検査の計画を立てることになります。

釣りの後で顔がかゆくなるのは

もう1つ、男性の患者さんの肌トラブルを検討しましょう。

60代男性Bさんは、いつも楽しんでいた春先の釣りが顔のかゆみで楽しめなくなった、と来院しました。「血圧の薬(降圧剤)をこの冬から飲み始めて、血圧は安定して調子は良かったのに、このごろ顔が赤くなるしかゆいし……。釣りの後に顔がかゆくなって赤みも増した感じがします。もともと花粉症で花粉が飛ぶようになると鼻水やくしゃみもひどいので、毎年もらう花粉症の薬を飲んでみようかと思って来ました」とおっしゃいます。

釣りをする男性

光による反応は夏よりも春に

顔のほてりや赤みは誰でも気になる症状ですから、何とかならないかと受診される方は多くみられます。

こうした症状の原因の1つとして考えられるのが、紫外線の影響で赤みが強くなる、いわゆる「光線過敏反応」です。夏の強烈な日差しが原因と思われがちですが、実はこの反応が起こるのは、夏場よりも春先が多いので注意が必要です。このうち、原因が自分にある「内因性光線過敏」は、糖尿病や血圧、高脂血症などの代謝異常によって起こることがありますし、エリテマトーデスや皮膚筋炎といった膠原病(こうげんびょう)の皮膚症状として光線過敏症状が出ることもあります。なかでも皮膚筋炎は内臓がんの皮膚反応としても知られ、中高年に多くみられます。

一方、体の外に原因がある「外因性光線過敏」としては、ヘアトニックの香料や湿布薬によるもの、糖尿病や高血圧の治療薬によって引き起こされることもあります。

顔が赤くなる病気としては、ほかに「酒(しゅ)さ」があります。この病気は皮膚の末梢血管の異常で起こり、寒いところから温かな部屋に入ると急激に顔が真っ赤になり飲酒をしているかのように赤ら顔になってしまいます。紫外線を浴びると症状の悪化がみられます。

がん、花粉症…さまざまな原因が

さて、Bさんの場合はどこに注意をしてみていけばいいでしょう。

まず、60代という年齢的にがんのリスクがありますから、必要に応じた内臓精査をします。また、花粉症があるようですから、花粉が付着することで皮膚症状が出る「花粉皮膚炎」の可能性について血液検査で確認をします。それに加えて、内因性の自己免疫反応についても検討します。降圧剤を飲み始めてから最初の春ですから、薬剤と紫外線が反応して起こった可能性も考えて検査する必要があります。薬によってこうした反応が起こっていることを確認できれば、早期にその薬を変更することで光線過敏は元に戻ります。逆に、原因不明のまま薬を変えずに治療が進むと、回復不能な光線過敏をきたすようになってしまうこともあります。

スキンケアには縁がない中高年男性の春先の顔のかゆみと赤みは、とても気になる症状です。いろいろな原因で起こることがあるのをぜひ知っていただきたいと思います。

春のお肌の大敵は花粉と紫外線

スギ花粉症の季節が今年もやってきました。花粉が皮膚について顔のかゆみが生じ、こすって湿疹化してしまうと「スギ花粉皮膚炎」になってしまう場合もあります。春先の紫外線が人間に及ぼす内因性・外因性免疫反応との関連に注意して、春の日差しを楽しんでください。

高齢化社会となったわが国で、男性も女性も見栄えを気にすることは免疫機能維持にも大切なことであると考えます。年を重ねていく自分の顔を認識し、おしゃれをすることは脳の機能を活性化してくれます。でも、やりすぎは困ります。日本人は清潔好き。国民性なのでしょうが、温泉に出かけても朝に夜にお湯に浸かるだけでなく、頭から足先までごしごしと丁寧に洗っているのをよく見かけます。

身についた習慣を直していくのは難しいことでしょうが、年齢と季節に応じて臨機応変に習慣を変えていくことはとても大切です。特に、乾燥にも紫外線にも花粉にもさらされている顔に関しては、無防備にならないような配慮が必要。化粧をする女性はまだよいとしても、防御習慣のない男性たちにも、年齢と共に弱くなってくる顔のスキンケアに取り組んでほしいと願っています。

年齢に負けないよい皮膚を維持できるか、あるいは年齢と共により弱い皮膚にしてしまうのか……しっかり自分で把握できなくてはいけません。

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稲田堤ひふ科クリニック

関東 裕美 先生

稲田堤ひふ科クリニック勤務。専門は皮膚アレルギー、特殊外来でアトピー性皮膚炎と接触性皮膚炎診療を担当する。「化粧品は皮膚を守るもの」をモットーに、肌荒れをしていても化粧をやめない、乾燥を予防するスキンケアを推奨しており、子どもから大人まで幅広い年代の女性患者が受診している。