概要
酒さとは、鼻や頬、顎などが赤くなる病気を指します。20歳以上の女性から受診の機会が増加していきます。
特徴的な症状として、いわゆる“赤ら顔”と呼ばれる、皮膚の赤みと火照りが挙げられ、また“敏感肌”とも呼ばれる、外的な刺激に過敏に反応して赤くヒリヒリする肌質ともいえます。また、ぶつぶつとした皮膚の赤い盛り上がりがみられるようになると、ニキビと間違われることもありますが、両者は異なるものです。
原因
酒さの原因は、まだ完全に明らかになっているとはいえません。遺伝的な要因や環境因子が複雑に関与していると推定されています。
毛細血管が広がり、通常よりも多くの血液が流れることから酒さの症状は現れます。そのため、毛細血管が広がることを促進するようなことが、酒さの症状が悪化する因子であるといえます。具体的には、以下が挙げられます。
- 辛いものなど刺激物を多く摂取する
- アルコールやカフェインを多く飲む(このことから酒さという病名が付いたようですが、あまりお酒を飲まない方にも多いのが実情です)
- 寒暖がはっきりした環境で長時間過ごす(特に寒冷曝露が悪化因子)
- 太陽の光を長時間浴びる(紫外線が悪化因子)
- 感情が高ぶる状況
- 過度の運動
- ホルモンバランス異常(更年期のhot flush に伴うことも)
- 喫煙習慣
など
また、皮膚の症状が気になるあまり、ファンデーションで症状を隠し、それを落とすときのクレンジングで症状を悪化させる可能性もあるかもしれません。
症状
酒さによる症状は、顔のなかでも鼻や頬、顎、額などに見られます。症状のはじまりは周囲の皮膚と比べて頬や鼻などが淡く赤くなります。
初期段階では皮膚の盛り上がりはなく赤みが目立ちますが、症状が進行すると毛穴の部分が小さく盛り上がりを示すようになります。
さらに、鼻においても皮膚の盛り上がりが起こることがあります。鼻の盛り上がりは、女性よりは男性に起こりやすい症状です。鉄腕アトムに出てくるお茶の水博士の鼻が、鼻瘤と呼ばれる酒さの重症型ですが、日本人での頻度は少なめです。
皮膚の赤みや盛り上がり以外にも皮膚の火照り(burning)を感じたり、ぴりぴりとした軽い痛み(刺激感:stinging)を感じたりすることもあります。
酒さで見られる症状は、1日のなかで変動することも特徴です。原因に挙げたような増悪因子があると、症状が悪化することがあります。
さらに、酒さでは目の症状を自覚することもあります。具体的には目の乾燥感、しばしばした感覚、目の充血などです。
検査・診断
酒さの診断は、その特徴的な皮膚症状や増悪因子の有無などをもとにしてなされます。皮膚の症状を目立たなくするために化粧品を使用されている方もいますが、化粧をしていない状態で皮膚を観察するとより判断しやすくなるため、診断を受ける際には化粧などをせずに受診することが大切です。
初期の酒さは、ほんのり赤い肌質であり、脂漏性皮膚炎と呼ばれる眉間や鼻脇の皮膚炎とよく似ています。脂漏性皮膚炎としてステロイド外用薬による治療を継続して酒さのような症状が出る場合は酒さ様皮膚炎と呼ばれ、ステロイド外用薬の副作用とされますが、実ははじめから酒さであったかもしれないのです。
赤いぶつぶつや中心が白い膿疱を伴う場合、ニキビにとても似てきます。この場合は、demodex と呼ばれるニキビダニが原因の場合があります。ぶつぶつの先端をつまんで顕微鏡で検査すると極小さな芋虫のようなダニが2~3匹検出されます。
治療
体質的な要因が強く、さまざまな悪化要因があるため、短期間で症状をなくすことは難しいため、長期間の治療介入が必要となります。経過中によくなったり悪くなったりすることもありますが、根気よく治療を継続することが大切です。
酒さでは、原因に挙げたような要因をもとにして症状が悪化することもあります。そのため、治療の一環としてこれらの要因を避けることも必要です。
治療薬としては、ビタミン剤や抗生物質の内服を検討します。もっとも多く用いられるのがテトラサイクリン系の抗生剤(特にミノサイクリン)の内服で、ニキビ様のぶつぶつだけでなく、びまん性の赤ら顔にも効果的です。
赤く火照る状態に対して外用ステロイドを使用したくなりますが、個々では絶対に避けるべきであり、抗生物質入りのクリームあるいは非ステロイド系の外用薬がかつては用いられていましたが効果は乏しく、治療が長期化しました。
最近では、タクロリムス軟膏などのアトピー性皮膚炎に対する新しいステロイドでない外用薬が登場し、酒さの赤く火照る炎症を鎮静化してくれるようになりました。タクロリムス軟膏もステロイド外用薬と同様、酒さを悪化させるという報告もありますが、先に述べたニキビダニに注意していれば問題ないと考えられています。
ニキビダニ(demodex)による酒さ反応の悪化は、かなり高頻度と思われ、この場合、ミノサイクリン内服やタクロリムス軟膏の外用は無効となります。この状態で有効なのが、イオウ含有ローションです。外用治療によりかえって乾燥症状が悪化することもあるため、注意しながら併用することが大切です。
ニキビダニ対策では、ほかにもメトロニダゾールやイベルメクチンなどのほかの病気の薬が用いられることもあるようです。鼻の盛り上がりが強い場合(鼻瘤)には、皮膚を削る処置がとられることもあります。
赤みが目立つため、常時マスクを使用される方もいますが、マスクをすることで皮膚の刺激になることも考えられます。また、化粧についても過剰になりすぎて皮膚に負担をかけないよう考慮が必要です。そのためには刺激の少ないマスクや化粧品の選択も重要といえます。
予防
酒さは、赤ら顔や敏感肌など、北国のリンゴほっぺの子どものように体質的なもので皮膚疾患ではないと思われている場合も少なくないようです。軽い症状はそのままでもいいのですが、かゆみが出たり、かさつきが出たりして、安易にステロイド外用薬を塗るとかえって悪化していく場合があります。
普段からのスキンケアが予防になります。安易な顔面へのステロイドの外用も禁忌と考えましょう。
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