インタビュー

ひきこもりという概念の歴史(3) どうしてこの概念を広める必要があったか

ひきこもりという概念の歴史(3) どうしてこの概念を広める必要があったか
斎藤 環 先生

筑波大学 医学医療系社会精神保健学教授

斎藤 環 先生

この記事の最終更新は2015年09月23日です。

ひきこもり」という言葉・概念は今や多くの人に知られています。筑波大学社会精神保健学分野教授・斎藤環先生はこれを広める必要性を強く感じられ、多くの方に読まれた『社会的ひきこもり――終わらない思春期』を出版されました。どうして「ひきこもり」という言葉・概念を広める必要性があったのでしょうか。引き続き斎藤先生にお話をお聞きしました。

ひきこもり」の概念を広めて警鐘を鳴らしてきた背景について、もうひとつ追加でお話をしておきます。日本の行政の問題についての話です。ちょっと考えてみてください。ひきこもりの問題を取り扱うのはどこの省庁がふさわしいでしょうか。文部科学省でしょうか、厚生労働省でしょうか、あるいは内閣府でしょうか。

これを「不登校の問題」として考えるのであれば文部科学省でしょう。就労支援として考えるのであれば厚生労働省でしょう。しかし、ひきこもりは学童期の不登校問題からはじまって就労支援という形へ移行することが多いため、複数の省庁が扱わざるを得なくなります。そのため、縦割り行政の仕組みではこの問題を扱うことがなかなか難しくなります。そこで、ひきこもり問題は慣例として内閣府が取り扱ってきました。この状況は、この10年ほど変わっていません。

もちろん大学にも、ひきこもり問題を扱う講座はありませんでした。一部の先見の明のある教員が、大学生のひきこもり問題についてすぐれた研究活動を行っていますが、残念ながらあまり広がらない。ひきこもりという、言わば社会学や医学、教育学など複数分野にまたがっていたり、監督官庁がうまく定まらなかったりするテーマについては、学問の分野でもどうも放っておかれがちになるようです。そのようななかで、私は筑波大学において「社会精神保健学分野」いう枠組みの中でひきこもり問題に対応することを考えています。

ここから少し話は変わりますが、日本だけでなく諸外国においてもひきこもりは問題になりつつあります。韓国には、人口比にして日本とあまり変わらない約30万人のひきこもりがいるとされています。私の本も翻訳されて出版され、韓国でもよく読まれていると聞きます。

その他、イタリア・スペイン・スウェーデンにおいても、ひきこもり事例の報告が出始めています。国際的には「Social Withdrawal(ソーシャル・ウィズドローアル)」と呼ばれず、「Hikikomori」として知られるようになり、2010年にはオックスフォード英語辞典にも掲載されました。もともとは英語の Social Withdrawalという言葉を、海外ではHikikomoriとして逆輸入する形になったわけです。これでひきこもりは日本特有の現象というイメージが確定してしまいましたが、これも事実ではありません。

ここまで、ひきこもりをとりまく状況の変化についてお話してきました。次の記事からは、ひきこもりの原因やひきこもりをどうやって脱出していくかについてお話をしていきます。

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