インタビュー

ひきこもりとは何か。ひきこもりの定義とその特殊性

ひきこもりとは何か。ひきこもりの定義とその特殊性
筑波大学医学医療系社会精神保健学教授 斎藤 環 先生

筑波大学医学医療系社会精神保健学教授

斎藤 環 先生

ひきこもり」という言葉は誰しもが聞いたことがあると思います。しかし、ひきこもりがどう定義されているのか、ひきこもりの特殊性についてはあまり詳しく知られてはいないのではないでしょうか。
ひきこもり問題の世界的な第一人者である筑波大学社会精神保健学分野教授、斎藤環先生は、日本で初めて「ひきこもり問題」を提唱され、多数の著書をお持ちです。現在、先生の著書は世界中で翻訳され、ひきこもりという言葉も「Hikikomori」として海外でも使われています。今回は、ひきこもりについて、斎藤先生にお話をお聞きしました。

ひきこもりの定義

まず、私が著書『社会的ひきこもり』(PHP新書)で提唱した「社会的ひきこもり」の定義は以下の通りです。

  1. 20代後半までに問題化すること
  2. 6カ月以上、自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続すること
  3. ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいこと

これを踏まえて、それぞれについての解説と、今日では何がどう変わったかを述べていきます。

1について

年齢についてですが、「20代後半」という項目は削除しました。かつては不登校からひきこもる人が多かったのですが、現在では退職後、30代からでもひきこもる人が少なくありません。この種の問題に年齢制限はもはやほとんど意味はないと考えてのことです。

2について

「社会参加」についての定義ですが、「社会参加をしない」とは、「家族以外の人間関係がない」「社会に参加する経路がない」ことを指します。ですから、「外出していないからひきこもり」なのではありません。ひとりで外出しているひきこもりの人もいます。あくまでも対人関係の有無がポイントであって、家庭以外に居場所がなく、家族以外の親密な人間関係がないことを指して「社会参加をしない」とみなしています。

ちなみに、「ニート」はもともと経済学用語で、教育や雇用など公式的な意味での社会参加をしていない若者を指しますが、定義上年齢の上限が34歳までで、「友人と遊びに行く」など非公式な意味では社会参加をしている人が結構いるので、この点でひきこもりとは区別されます。

3について

これは、ひきこもりの原因が「精神障害」にはない場合ということです。厚労省の研究班によれば「ひきこもりの95%は精神障害と診断できる」と報告されていますが、その症状が一次的なものか二次的なものかの区別は重要です。

ひきこもりは本人にとっても非常にストレスフルな状況であり、そこからさまざまな精神障害が二次的に生ずる場合があります。つまりこの場合は、原因が「ひきこもり」で結果が「精神障害」です。しかし、ひきこもりの原因として「精神障害」があるパターンはそれに当てはまりません。

具体的に述べるならば、たとえば「強迫性障害」がもともとあってそこからひきこもりになったパターンは、本来の意味でのひきこもりとは言えません。こちらの場合は、事例にもよりますが、ひきこもりよりも強迫性障害の治療を優先する必要があります。二次的な問題としての精神障害と、もともと当人が持っていた精神障害を混同しないように注意しなければなりません。

「ひきこもり」問題の特殊性と危険性

どうしてひきこもりの問題は特殊なのでしょうか。
ひきこもりは、大きな精神疾患や精神障害をもともと持っていない場合でも起こります。「家庭に問題があったのではないか」と思われる方も多いかもしれませんが、そうした問題とも必ずしも関係がありません。むしろ、表立った問題のないような、ごく一般的な家庭でしばしば起きてしまうのが特徴であり、どんな家庭でも起こりうるからこそ大きな問題なのです。

ひきこもりになってしまうと、社会的な適応度が著しく低下します。さらに、長期化するとともに、後述するような精神症状や二次的な問題行動を引き起こしてしまう可能性もあり、大げさではなく一生を棒に振りかねない状況におちいる場合すら珍しくありません。

何か精神科的な病気がある場合、たとえば「統合失調症」などはっきりした病名がついている場合には、それに対して治療や介入をすることができます。しかし、ひきこもりは精神科的な病気がないにも関わらず起こり、社会参加できない状態が10年以上もの長期に及ぶ事例が珍しくありません。もちろんあらゆるひきこもりを危険視するわけではありませんが、素朴な楽観主義(ほっておけばなんとかなる)やひきこもり礼賛は単に無責任な放言です。正確な情報に基づいて注意喚起を行い、抜け出したいと望む人には適切な支援がなされるように窓口を整備し情報提供を行いたいのです。そのためにも、この状態を示す名前として「ひきこもり」という言葉が必要だと考えました。
※ひきこもりの歴史や背景については、次記事をご参照ください。
ひきこもりという概念の歴史(1) 稲村博先生と斎藤環先生

ひきこもりの症状とは。二次的な問題

ひきこもり状態が長期化すると、周囲からの批判や自責の念によって、ひきこもっている本人に非常に大きなストレスがかかります。そうしたストレスや孤立状況(それ自体が病態形成的に作用します)に対する反応として、さまざまな精神症状が生じます。ここからは、ひきこもりからどのような二次的な問題が起こるのかを述べていきます。

まず、ほぼすべてのケースにおいて起こるといって良いのが“対人恐怖”です。通常の“社交不安”とは異なり、「他者によくない印象を与えるのではないか」という葛藤が強い不安をもたらします。その延長線上で、自己臭(自分の身体から臭いが出ていて人から避けられる)、醜形恐怖(自分の顔や身体が醜いので人から避けられる)、さらに被害妄想(他者に悪く思われているに違いないという確信)もよく出現します。強迫症状、特に強迫行為もよく起こる症状の一つです。強迫行為とは「ドアの鍵を締めたか気になって何度も確認してしまう」とか、「少しでも汚いものに触れたと感ずると、何度も手洗いを繰り返さないと気がすまない」といった症状です。そのほかにも、抑うつ症状や不眠、自殺念慮、摂食障害、心身症状、心気症状などが起きることがあります。

また、日本ではひきこもっている方による家庭内暴力も多く見られます。家庭内の問題に対しては警察による法的な介入にも制限があると考えられており、適切に対処できない場合があります。しかし家庭内暴力への対処法はシンプルで確実な方法がすでにわかっています。それは「避難もしくは通報」です。暴力に対して必要なのは毅然とした拒否の姿勢であり、それで止まない場合は予告した上での避難や通報が有効です。ともかく、なんらかの形で他者を介在させることです。詳しくは拙著『社会的ひきこもり』などを参照していただきたいのですが、暴力は時に親殺しや子殺しに発展する場合もあるので、優先的に解決されるべき問題です。