インタビュー

強迫性障害の克服に重要なこと

強迫性障害の克服に重要なこと
松永 寿人 先生

兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授

松永 寿人 先生

この記事の最終更新は2015年11月18日です。

強迫性障害の治療には、主に薬物療法と認知行動療法があると述べました。治療は強迫性障害のタイプに合わせて行うことが重要ですが、他にも過度なストレスがかかっていないか、モチベーション(治す意欲)があるかという点も非常に重要になります。今回は強迫性障害の治療とストレス・モチベーションの関係について兵庫医科大学病院 精神科神経科 主任教授の松永寿人先生にお話しいただきました。

強迫性障害はストレスや疲れ、睡眠状態などによって行動のコントロールのしやすさが変わってきます。一般的にストレスがかかり患者さんの状態が悪くなると、強迫性障害の「入り口」と「出口」が悪くなります。入り口とは不安や不全感を感じやすくなるということで、出口とは不安や不全を解消しようとする行動に、いつまでも安心感が持てず、意地になって止められなくなるというものです。状態がいいときには無視できていたものに不安を感じ、安心するために行動しますが、いつまで経っても不安や不全感が残り、きりがなくなるということがストレス下では起こりやすいのです。

記事4「強迫性障害の治療」で述べた、手を洗わずにはいられない方に手を洗うのを我慢しなさいという曝露反応妨害法は、今まで怖さから避けてきたことに直面し、安心のため繰り返してきた行為を止めようとするわけですから、患者さんのストレスにならないかと気になる方もいるかもしれません。実際にはストレスを感じている方もいるでしょう。そこで、ストレスを少しでも減らすために最初に薬を使用して行動療法に備えるのです。

たとえば、大雨で増水した川に流され、疲れ切ってしまっていると想像しましょう。その様な状態では流されるがままとなり、勢いのある川の流れに逆らい、自力で脱出しようとしてもなかなか難しいでしょう。しかし川の流れを抑えることができ、さらに自分自身の状態を回復させることができるとしたらどうでしょうか。川の流れに抵抗し、川から脱出できるかもしれません。その川の流れを抑え、抵抗力を回復させてくれるものが薬なのです。つまり、薬で強迫行為の度合いを抑え、患者さん自身の抵抗力を回復させたのちに行動療法を行うのです。

行動療法は、状態が悪い患者さんに行ってもよい結果は得られないでしょう。行動療法のポイントは「成功体験を積み重ねる『勝ち癖』」です。状態が十分に回復しておらず、疲労した段階で行動療法を行うと「負け癖」がついてしまうので、薬の効果をみて行動療法に移行するようにします。

治療効果には個人差があり、モチベーションや環境が影響します。強迫性障害を治すことに不安を感じ、モチベーションをもてない方もいます。特に周りに言うことを聞いてくれる家族がいて、生活全般を支えてもらえるとすれば、今の状態や環境でよしとする場合もあるかもしれません。しかし、もっとも治療に効果的で必要なことは、治す「目的」があるということです。たとえば「強迫性障害を治して仕事に復帰したい」「別居中の家族と一緒に住める」など、治す目的があれば治りやすいといえます。

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