インタビュー

強迫性障害とは-QOL(生活の質)に影響する重大疾病

強迫性障害とは-QOL(生活の質)に影響する重大疾病
松永 寿人 先生

兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授

松永 寿人 先生

この記事の最終更新は2015年11月14日です。

強迫性障害という病気をご存知でしょうか。兵庫医科大学病院 精神科神経科 主任教授の松永寿人先生は強迫スペクトラムおよび不安障害の臨床・研究の国内第一人者でいらっしゃいます。全6記事にわたり強迫性障害についてお話しいただきます。今回は強迫性障害とは、その分類や患者数について伺いました。

強迫性障害」という病気は、反復的・持続的な思考や衝動(駆りたてられる感覚)、イメージにとらわれる強迫観念と、手洗い、確認などの繰り返しや儀式行為、呪文を唱える、数を数えるなど心の中の行為を含む強迫行為を中核症状(強迫症状)とします。両者は併存することが多く、強迫行為の多くは、観念やそれに伴う認知的プロセスにより増大した不安の緩和、あるいは中和化、苦痛の予防などを目的とし、不安増強と伴に、次第にそれに要する時間や回数を増しつつ、また嫌悪や恐怖する対象、あるいは状況を避けるという回避行動を拡大しつつ重症化します。

一般的に患者は、この様な観念・行為の無意味さや不合理性、過剰性を十分に認識し、何とか制御しようと抵抗を試みているものの、不安や苦痛に圧倒され思うようにならず、この点からも大きな葛藤やストレスが生じています。さらに、安全と考える空間や手順に執着し、これを次第に狭め厳密にして安心感を得ようとしたり、自らのルールによる儀式や行為の強要、あるいは「大丈夫か」という保証の要求に家族を巻き込んだりしながら習慣化し、支障が生活空間全体に拡大します。このため、生活や仕事に不自由や支障をきたす場合が多くあり、WHO(世界保健機関)は強迫性障害を「QOL(生活の質)に影響する重大疾病」のひとつに挙げています。

かつて、強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder; OCD)は不安障害の症状を中心とする病気であると考えられ、不安障害のカテゴリーに分類されていました。しかし症状や脳内機序など不安障害との様々な相違から、現在強迫性障害は不安障害のカテゴリーから分離して、「強迫症および関連症群」カテゴリーに分類されました。

強迫性障害は大きく以下の2つのタイプに分けられると考えられています。

「強迫観念」という頭から離れない考えや不安に掻き立てられ、止めたいと思いながらも止められずに繰り返し行為を行ってしまう典型的なタイプです。汚染恐怖から手洗いやシャワーが止められない、火事の心配などから確認を何度もしてしまう、などが該当します。

観念や不安の増大に関わる認知的プロセスは明らかではなく、「まさにぴったり感(just right feeling)」を求めて繰り返し行為を行うタイプです。これは、生活のいかなる状況でも起こりうるもので、厳密に適用しなければならないルールに従って、駆り立てられる様に行われます。たとえば、カチャという鍵が閉まる感覚が納得できるまで、この行為を繰り返すなどが挙げられます。これは、鍵が閉まっているかという不安に掻き立てられた行為ではなく、「まさにぴったり感」を求める中で繰り返してしまい、いつまでも納得できず動けなくなってしまいます。

強迫症および関連症群【DSM-5】

先述したようにDSM-5(精神疾患の分類)で新しく「強迫症および関連症群」というカテゴリーが作られ、強迫性障害はここに分類されました。強迫性障害の中には、チック症状(無意識に、あるいは気持ちの悪さから、まばたきや首の運動、咳払いなどを繰り返すなど)の経験を持つ場合の「チック関連」というサブタイプがあります。以下に例を挙げます。

身体醜形障害にきびや目の形など些細なことにこだわって、自分は醜いと誤って認識し、それにとらわれて、鏡を何度も見たり、化粧品を買い集めたり、皮膚科や美容整形の受診を繰り返すといった行動を繰り返す。

ためこみ障害:ものに執着する、あるいは捨てて後悔するのではという不安から物が捨てられず溜めこんでしまい、生活空間を占拠するような散らかりが生じてしまう。

抜毛障害 (抜毛癖):毛髪や体毛を抜かずにはいられなくなり、抜いてしまうという行動。

皮膚むしり障害:ざらざらとした皮膚の感覚やニキビが気持ち悪いという感覚から、むしらずにはいられなくなり、むしってしまう。

これらは強迫性障害と同様に「認知的タイプ」、「運動性タイプ」に分けられます。(記事3「強迫性障害の診断」

チックは、体の一部の速い動きや発声を、突発的かつ不規則に繰り返す状態です。運動チック・音声チックそれぞれに行動の複雑性により単純性と複雑性に分かれます。強迫性障害患者の中で、この既往や現病があれば、「チック関連」と特定します。後述しますが、チック関連であるかどうかで治療法が変わるため、判別することが非常に重要となります。

運動チック:顔をしかめる、まばたき、首や手を振る、飛び上がるなど

音声チック:鼻をならす、咳払い、うなる、発声など

おおむね欧米と同様に1~2%程度、すなわち50~100人に1人、日本の総人口に換算すれば100万人強の強迫性障害患者の存在が推定されます。
しかし注意しなければならないのは、病院に来ることができていない患者さんが少なくないと考えられることです。のちほど「強迫性障害の症状」でも説明しますが、強迫性障害の患者さんの中には、病院にくることができないような「重症」の方、あるいは病気と思わず、支障や苦労を感じながらも受診を拒否している方などがいます。

たとえば、「重症」の方では、家から一歩出るとすべてが汚染されているような観念をもったり、家の中のものをきちんと確認しないと外出できなかったり、鍵がしっかり閉まっているかの確認に何時間もかかってしまうなどのため、受診が困難となっています。これらのことを考えると、強迫性障害患者全体の中で、どれくらいの方が受診できているかを考えるのは難しいのです。病院に来られている方だけを考えると、1〜2%より少ないと考えられるでしょう。

強迫性障害に「なりやすい要因」とされているものは以下の通りです。

  • 強迫性パーソナリティー(完璧主義、几帳面、生真面目など)
  • 遺伝や家族性要因(一部の方)
  • 感染症や神経精神疾患(チック関連など)が関連する場合
  • セロトニンやドーパミンなど、神経化学システムの機能障害が関連する場合
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