嗅神経芽細胞腫とは鼻腔内の嗅神経から発生するといわれているまれな疾患です。診断が難しく、病院によって診断が変わってしまうケースも少なくありません。本記事では、嗅神経芽細胞腫の診断が難しい理由やその症状について、国際福祉医療大学三田病院頭頸部腫瘍センター長の三浦弘規(みうら こうき)先生にお話をうかがいました。
神経内分泌細胞に由来する腫瘍は神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET )と総称されています。特に膵臓や胃などの消化器や肺に生じることがほとんどですが、鼻腔や副甲状腺、副腎などにも発生します。
鼻腔に神経内分泌腫瘍ができた場合、次のように主に5つに分類されます。
ⅰ:嗅神経芽細胞腫(Olfactory neuroblastoma)
ⅱ:鼻腔神経芽細胞腫(Esthesioneuroblastoma)
ⅰ:副鼻腔未分化がん(Sinonasal undifferentiated carcinoma)
ⅱ:小細胞がん(Small cell carcinoma)
ⅲ:副鼻腔神経内分泌がん(Sinonasal neuroendocrine carcinoma)
この分類は、全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織である「NCCN Clinical Practice Guideline in Oncology Version 1, 2015」によって定められました。鼻腔にできる神経内分泌腫瘍は①がもっとも多く②-ⅰ、ⅱが続きます。それ以外は非常にまれな腫瘍が多種にわたるため、②-ⅲにまとめてしまうという分類方法が用いられています。
鼻腔・副鼻腔の悪性腫瘍はおよそ10万人に0.5~1.0人程度発症します。さらに細かく亜部位別(細かな部位)でみると上顎洞60%、鼻腔20%、篩骨洞15%、蝶形洞3%、前頭洞2%ほどの発生頻度であり、嗅神経芽細胞腫のほとんどは鼻腔・篩骨洞に発症します。鼻腔・篩骨洞の悪性腫瘍だけでみるとその20%を占めるとされ、比重は大きく思えますが、鼻腔・副鼻腔あるいは頭頸部癌全体から見ると珍しい腫瘍といえます。若年から高齢者まで幅広い年代で発症しますが、20代、60代に比較的発症のピークがあります。性別での発生頻度には差はありません。
腫瘍から組織を採取し、病理学的に診断を行います。ファイバースコープおよびCT(MRI)などの画像検査により、病気の範囲を把握します。嗅神経芽細胞腫を含めた鼻腔の神経内分泌腫瘍は、前項にも述べたように多種多様であり、病理診断が難しいことが特徴です。実際に、他の病院では嗅神経芽細胞腫と診断されていた患者さんに再度検査を行うと、下垂体腺腫などの良性の病気であったということも時に経験されその逆もまた然りです。
このように診断が難しい理由は、病気自体の頻度が非常に少ないため医療側の経験が少ないこと、病理(細胞組織)が大きく採取できないこと、細胞組織が挫滅(ざめつ=外部からの強い力により、内部の組織が破壊されること)してしまい正確な診断が難しいことが挙げられます。また、病理診断の技術の進歩が速く、診断の方法あるいは病気の分類自体が日々変化していることが、逆に診断を難しくしているという現状もあります。診断経験が豊富な医師にかかることが重要です。
嗅神経芽細胞腫のほとんどが鼻腔・篩骨洞(しこつどう)で発生します。初期では無症状ですが、主な症状には鼻閉(鼻づまり)が挙げられます。しかし鼻閉のみの症状では患者さんが病院を受診されるきっかけとなりにくく、鼻閉の症状が現れて数ヶ月経ってから、頻回かつ止まりにくい鼻出血に不安を感じてはじめて受診をされる場合が多く見受けられます。
さまざまながんに広く用いられるTNM分類のほか、嗅神経芽細胞腫のみに使われる分類にKadish(カディッシュ)分類があります。また近年では、内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)に則した新しい分類もがつくられています。
Kadish分類
A鼻腔内限局の病変
B副鼻腔に進展した病変
C眼窩や頭蓋内に進展した病変
病院受診時にはCまで進行している場合が多いといえます。Kadish分類のAあるいはBであればほとんどの場合治癒させることが可能ですので、鼻閉や鼻出血など、違和感を感じる場合は早期に病院を受診されることをお勧めします。
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