概要
神経内分泌腫瘍(NEN:Neuroendocrine Neoplasm)は、ホルモンなどを分泌する神経内分泌細胞から発生する腫瘍です。全身のあらゆる場所に発生する可能性がありますが、主に、膵臓や直腸などの消化器、次いで肺や気管支に発生するまれな腫瘍です。
神経内分泌腫瘍(NEN)には、複数の分類方法がありますが、腫瘍細胞の分化度による分類では高分化型の神経内分泌腫瘍(NET:Neuroendocrine Tumor)と低分化型の神経内分泌がん(NEC:Neuroendocrine Carcinoma)に分けられます。分化度とは、腫瘍細胞が正常な細胞からどれだけ変化しているかを示す指標です。腫瘍細胞が正常細胞から大きく変化している低分化型の腫瘍細胞はがんの進行スピードが比較的早く、悪性度が高いという特徴があります。つまり、NETに比べてNECのほうが一般的に進行が早く、治療が難しいとされています。
なお、以前はNENを“カルチノイド”と呼んでいました。現在は一部の肺がん(NEN)にのみ用いられる呼び方です。
神経内分泌腫瘍の症状は、腫瘍ができる部位や腫瘍の大きさ、分泌するホルモンによって異なります。また、NETでは腫瘍細胞から異常分泌されるホルモンによる症状がみられるもの(機能性NET)と、ホルモンによる症状がみられないもの(非機能性NET)があります。NECではホルモン分泌の異常がみられることはまれです。
治療は、腫瘍の種類や転移の有無、転移の場所などによって異なります。転移がみられない場合や転移があっても数が少なく手術で取りきれる場合には、基本的に手術による切除が行われます。手術で取りきれない転移がある場合や手術後の再発には、薬物治療が行われることが一般的です。薬物治療としては、ホルモン製剤、分子標的薬、細胞障害性抗がん薬に加え、放射性核種標識ペプチド治療(PRRT)などが行われます。機能性NETではこれら切除や薬物治療などによる腫瘍制御のための治療だけでなく、ホルモンによる症状をコントロールするための治療も重要です。
原因
神経内分泌腫瘍の原因は現時点では明らかではありません(2025年4月時点)。しかし、神経内分泌腫瘍にはさまざまな種類があり、その1つである小細胞肺がんでは喫煙との関連が深いとされています。また、一部の神経内分泌腫瘍には、遺伝的な要因が関係していることが明らかになってきており、代表的なものとして多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)やフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)が挙げられます。
症状
非機能性NETの症状は、腫瘍ができる部位や腫瘍の大きさにより異なります。腫瘍が小さいときには症状がないことが多く、健診などの検査で見つかることがほとんどです。一方、腫瘍が大きくなると腫瘍ができた箇所の痛みや違和感のほか、腫瘍が周囲の組織を圧迫することなどによる症状がみられます。さらに進行して転移が生じた場合は、転移先の臓器に関連した症状がみられます。
一方、機能性NETの場合は、分泌されるホルモンによって以下のような症状が現れます。これらの症状は腫瘍の大きさとは関係なく現れ、腫瘍が小さくどこにあるのか診断が難しい場合があります。
インスリノーマ(インスリン産生腫瘍)
血糖値を下げる働きのあるインスリンが過剰に分泌されることで、意識の低下やめまい、手足のふるえなどの低血糖症状がみられます。食事や糖分を摂取することで回復することが特徴です。
ガストリノーマ(ガストリン産生腫瘍)
胃酸の分泌を促すガストリンの作用により、腹痛や胸やけの訴え、下痢、繰り返す胃潰瘍・十二指腸潰瘍、食道炎などの症状が現れます。症状が強い場合には消化管から出血したり、胃や十二指腸に穴が開き(穿孔)、腹膜炎になったりすることがあります。
グルカゴノーマ(グルカゴン産生腫瘍)
血糖値を上昇させるグルカゴンの作用により、高血糖となります。糖尿病と同じような症状(体重減少など)がみられ、貧血や腹痛といった症状も現れる場合があります。加えて、皮膚が赤くなるとともに発疹が出て、痛みやかゆみを伴う特徴的な皮膚症状(遊走性壊死性紅斑)を生じることも多いとされています。
VIPオーマ(VIP産生腫瘍)
血管作動性腸管ペプチド(VIP)と呼ばれるホルモンの作用により、重症の水様性の下痢が特徴的な症状として現れます。そのほか、手足のだるさやこわばり、こむら返り、脱水などによる疲労感、息切れ、筋力低下などの症状が現れます。
セロトニン産生腫瘍
セロトニンと呼ばれるホルモンの作用により、下痢、腹痛、心不全、急に皮膚が赤くなる(皮膚潮紅)など、カルチノイド症候群と呼ばれる症状が現れます。小腸や直腸のNETで見られることがあります。
検査・診断
診察により症状を確認するとともに、腫瘍が発生している場所の特定や、大きさ、転移の有無などを確認するために、血液検査や画像検査(CT検査、MRI検査など)が行われます。診断を確定するためには、生検といって腫瘍の一部を採取します。生検は内視鏡やエコーガイドで行うことが多いのですが、腫瘍の場所によっては難しい場合があります。NETではソマトスタチン受容体シンチグラフィー、NECではFDG-PETといった核医学検査が診断の補助として有用な場合があります。
機能性NETでは原因となるホルモンを確認するために採血検査を行います。また必要により症状やホルモン分泌異常を確認するための負荷試験を行います。画像検査で腫瘍を確認できないときには、血管に少量の刺激薬を注入してホルモンの分泌反応を確認する検査(選択的動脈内刺激薬注入法、SASI/SACIテスト)を行う場合があります。
最近さまざまな腫瘍で遺伝性が話題になっていますが、神経内分泌腫瘍でも遺伝性の可能性を考えて診断することが重要です。また遺伝性と診断した場合は併存する他の腫瘍についても検査を行うことが重要です。
治療
神経内分泌腫瘍の治療は、腫瘍のできた臓器、機能性か非機能性か、腫瘍の大きさ、転移の有無や転移の場所などによって異なります。外科や内視鏡による手術で腫瘍を完全に切除できる(すべて採り切れる)場合には手術を行います。しかし手術で完全に切除できない場合には抗腫瘍薬を用いた薬物療法や動脈塞栓術、放射線治療などを組み合わせた集学的治療を行います。また、機能性NETの場合はホルモンによる症状をコントロールするための治療が必要です。非機能性NETでは腫瘍が小さい場合に慎重な経過観察を行うことがあります。しかし腫瘍のできた臓器や大きさ、予測される増大速度などを総合的に判断する必要があり、限られた条件の場合のみ可能であることに注意が必要です。
NETの治療
手術
転移がみられない場合や、転移がある場合でも数が限定的な場合には、手術が行われます。また、腫瘍が完全に切除できない場合でも、腫瘍の数や量を減らすことで良好な結果が期待できる場合には、手術が行われる場合もあります。手術の方法は腫瘍の場所や大きさにより、外科的に切除をする場合と、直腸や胃のNETのように大腸カメラや胃カメラによる切除を行う場合があります。
薬物治療
転移がみられるなど診断時にすでに進行した状態である場合や、手術後に再発した場合には、薬物治療が行われることが一般的です。
- ホルモン製剤
ソマトスタチンという脳や消化管から産生されるホルモンに似せた薬剤(ソマトスタチンアナログ製剤)を使用することで、さまざまなホルモンのはたらきを抑えることができると考えられています。腫瘍の増殖を抑えるはたらきも明らかとなり、腫瘍の進行抑制作用も期待されています。
- 分子標的薬
腫瘍細胞の表面に現れるさまざまなタンパク質や遺伝子に結合することで、効果を発揮する薬剤です。エベロリムス、スニチニブが承認されており、内服薬です。
- 細胞障害性抗がん薬
細胞に取り込まれた後にDNAの合成を阻害することで、腫瘍の増殖を抑えるはたらきがある薬剤です。注射薬であるストレプトゾシンが保険承認されており、特にフルオロウラシルというほかの抗がん薬と組み合わせて使われる場合が多くあります。
- 放射性核種標識ペプチド治療(PRRT)
放射線を放出する物質とソマトスタチンアナログ製剤を結合させた薬剤を用いる放射線治療です。NETの細胞に高い頻度で現れているソマトスタチン受容体に結合することで、腫瘍細胞の中で放射線が放出され、腫瘍の増殖が抑えられます。ソマトスタチン受容体の発現が確認された神経内分泌腫瘍を適用として、ルテチウムオキソドトレオチド(177Lu)が2021年に承認されています。
肝臓への転移に対する治療
肝転移に対しては上記の薬物療法以外に以下のような治療が検討されます。
- ラジオ波焼灼術
電極のついた針を腫瘍に刺し、針から電流を流して肝臓の腫瘍を凝固する方法です。
- 肝動脈塞栓術
足の付け根の血管にカテーテルを挿入し、肝臓の腫瘍に栄養を運んでいる血管を詰めることで、がんを死滅させる方法です。
NECの治療
腫瘍が局所に限局している場合は手術による腫瘍の切除が検討されますが、NECは進行が早く、診断時にすでに転移がみられることが多くあります。手術が適応とならないNECに対しては、シスプラチンやカルボプラチン、エトポシド、CPT-11などの細胞障害性抗がん薬を組み合わせた薬物治療や放射線治療などが行われます。
「神経内分泌腫瘍」を登録すると、新着の情報をお知らせします





