2025年までの実現に向け、各都道府県が尽力している「地域包括ケアシステム」。これは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを送るために「住まい・医療・介護・予防・生活支援」が一体的に提供されるシステムを作るという大きな取り組みです。
記事1『患者さんと医療従事者に安心と学びがあるように-星総合病院理事長の原点と想い』でお伺いしたように、星総合病院は以前から福島県郡山市地域を中心とした住民の方々から頼りにされ、愛される病院づくりをされています。星総合病院は「地域包括ケアシステム」の実現に向け、どのような役割を担っているのでしょうか。現段階における星総合病院の地域での役割と、構想している取り組みについて引き続き理事長の星北斗先生にお話を伺いました。
星総合病院では、退院後のケア、つまり在宅医療の第一段階を担っています。具体的には、退院直後の急性期の患者さんの診療や看護も星総合病院で行うということです。これにより患者さんの不安だけでなく、アフターケアに携わる近隣の医療機関職員の不安も緩和できます。
10年程前は今以上に病院と地域の診療所などとの連携を取ることが難しく、入院中と退院後の診療や看護には大きなギャップがありました。このギャップを埋めるため、私たちが自ら地域の診療所に赴き、勉強会を行うこともありました。
こうした試みを通じ、医療従事者にとっても、退院直後の患者さんを診るのはとても不安で怖いということがわかりました。そこで、患者さんの不安はもちろん、医療従事者の不安を払拭するためにも、在宅医療の第一段階は星総合病院が率先して行うようにしました。
在宅医療の第一歩を星総合病院で担うことに加えて、地域の医療環境の水準を上げることは常に必要だと考えています。大きな病院の医師や看護師が当たり前に知っていることを、地域の医療従事者が理解していない、ということは往々にして存在します。
たとえば以前にこんなことがありました。星総合病院には褥瘡(じょくそう・いわゆる『床ずれ』のこと)を熱心に治療している医師がおり、たくさんの患者さんを治療していました。しかしながら、完治した患者さんを地域の施設に移すと、褥瘡が再発、戻ってきてしまう事例が度々ありました。そこで、褥瘡を診ているいくつかの近隣の有床診療所と勉強会を行い、問題点を指摘していったところ、次第に状況は改善し、最終的にこれらの診療所での褥瘡再発がゼロになりました。
病気の再発や繰り返す入退院は、患者さん本人や周りの方々を必要以上に疲弊させてしまいます。周辺地域の医療機関への啓発も、地域の頼れる専門家としてのわれわれの大きな使命の一つであると考えています。
地域包括ケアシステムを機能させるには、地域で助け合える環境・コミュニティを事前に作っておく必要があると私は確信しています。ケアが必要になるほど住民が疲弊してからでは、急に助け合う環境を作るのは非常に難しいと言わざるをえません。このような地域の住民同士のコミュニティを作るには、病院が大きな役割を果たせるのではないかと考えています。
私は「医療」という範囲にとらわれず、「子ども」と「食」というキーワードから心強いコミュニティを作りたいと思っています。
「食」は人生で最も多く行う行為の一つです。星総合病院でも、今までに病院、あるいは関連する保育園などにおいて、年間何万食という単位で食事を提供してきました。「食」を囲むことで、大人も子どもも、患者さんも医師も分け隔てなく一つになることができます。
現在の小学校は単に子どもの学ぶ場所として各地に展開していますが、地域の高齢者なども集うことで、「食」と「学び」を通じたコミュニティを形成する場になるのではないか感じています。
今すぐに小学校と提携して何かするといったような大きな動きはできませんが、将来的には関連する学童保育や保育所などと協力し、「医療」「食」「教育・保育」を柱としたコミュニティを作りたいと思案しています。
現在でも「子ども」や「食」に関する試みとして、星総合病院内で「小学生キッズツアー体験」を企画・実施しています。
星総合病院は保育所も運営していますので、はじめは保護者の方も「安く子どもを預かってくれる場所」といったような認識で利用しているようです。しかし、一緒においしいものを食べたり、職員たちと交流したりする中で、保護者の方や地域の人たちがこちらからの呼びかけだけでなく自発的に参加してくれるようになっていきます。このような姿を見ていると、地域の力も捨てたものではないなと感じます。
地域包括ケアを行う際に考慮する範囲は郡山市内だけではないと感じています。郡山市内とその周辺地域、そして東京近郊、この3つの地域をどう組み合わせていくか、これを考えていくとうまく解決できる気がしています。
現在、郡山市には4つの総合病院がありますが、市内の医療状況としては満足とはいえずとも、なんとか機能している状態です。その一方、郡山市に隣接する周辺地域は過疎化が進んでおり、そこに暮らす人々は十分な医療を受けられない可能性があります。
また、視野を広げて東京近郊を見渡すと、こちらも急激な高齢化に伴い、介護等のケアが必要にもかかわらず人手が足りなくなる可能性が考えられます。
このような話をすると、そこまで広範囲に責任を持つ必要があるのかと周囲から問われることもあります。しかし、私は自分が基盤とする地域だけが機能していればそれでいいという考えでは、近い未来、この街そのものをだめにしてしまうと思っています。たとえ回り道に見えたとしても、郡山市を中心に広い視野で地域包括ケアに取り組むことがこの地域を守ることだと感じています。
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