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肩関節脱臼の手術ー関節鏡視下バンカート&ブリストウ法とは
肩を脱臼してしまった場合、患者さんが抱える症状やライフスタイルによっては「手術」が必要になります。肩の手術手法は実にたくさんの種類がありますが、現在ではより負担の少ない、効果の高い手術法に集約さ...
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肩関節脱臼の手術ー関節鏡視下バンカート&ブリストウ法とは

公開日 2017 年 01 月 16 日 | 更新日 2017 年 10 月 19 日

肩関節脱臼の手術ー関節鏡視下バンカート&ブリストウ法とは
鈴木 一秀 先生

麻生総合病院スポーツ整形外科

鈴木 一秀 先生

目次

肩を脱臼してしまった場合、患者さんが抱える症状やライフスタイルによっては「手術」が必要になります。肩の手術手法は実にたくさんの種類がありますが、現在ではより負担の少ない、効果の高い手術法に集約されてきました。日本でも世界でもスタンダードな手術法となった「関節鏡視下バンカート法」、そして、より高い肩強度が実現できることで注目されている「関節鏡視下バンカート&ブリストウ法」の第一人者である麻生総合病院 スポーツ整形外科部長 鈴木一秀先生にお話を伺いました。

 

肩の痛み、肩の脱臼についてはこちらの記事をご覧ください。

記事1『肩の痛みは自然に治るの?症状の種類と対処法・治療方法・重症度を紹介』

記事2『激しい痛みを伴う「肩関節の脱臼」をレントゲン写真でみる』

関節鏡視下バンカート法とは?

関節鏡視下バンカート法による治療

記事2「なぜ肩の脱臼は癖になってしまうのか?」でご紹介したように、肩の脱臼をおこしたとき、関節受け皿の周りにある軟骨(関節唇)がはがれてしまう「バンカート損傷」を起こし、肩関節の安定性が低下しています。この損傷を治していく方法が「バンカート法」です。上記のイラストのように、はがれてしまった関節唇を縫って修復していきます。この手術を行うことで、肩の強度を元の状態まで戻すことができ、繰り返す脱臼を治すことに繋がります。

この手術は、15年ほど前まで、メスを入れて、肩を開いて行われていました。しかし近年、肩周辺にいくつかの小さな傷だけで手術ができる「関節鏡視下バンカート法」が広まってきました。この方法は関節鏡とよばれる小さなカメラと、細かい手術器具を使って手術を行う方法です。この手術は1cm程度の小さな傷2-3ヵ所だけで行える低侵襲が最大のメリットです。近年では日本でも世界においても、この方法が標準的な手術療法として扱われるようになってきました。

鏡視下バンカート法術後縫合創

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関節鏡視下バンカート&ブリストウ法とは?

バンカート法で関節唇を修復すると数か月後には正常肩と同等の強度に回復するため、肩脱臼の治療としては非常に一般的です。しかし、バンカート法の場合、術後にまた初回脱臼と同じような強い外力が加われば、再び脱臼をおこしてしまいます。

例えば、コンタクトスポーツ選手など、術後も強い外力が加わる環境にいる方には、バンカート法では十分とは言えません。そこで、肩の関節外で前方の筋肉を補強することで関節が外れないようにしよう、というコンセプトのもと生まれた手術方法が「ブリストウ法」です。

そして、バンカート法とブリストウ法を関節鏡視下に同時に行う手術を「関節鏡視下バンカート&ブリストウ法」といいます。

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イラストで見る 関節鏡視下バンカート&ブリストウ法の手術

手順は大きく次の4つに分かれます。

関節鏡視下バンカート&ブリストウ法の手術方法

手順1:肩甲骨にある「鳥口突起(うこうとっき)」(赤矢印部分)。上腕二頭筋短頭を付けたまま烏口突起を切ります。

手順2:切り取った骨を前側にある筋肉(肩甲下筋)の間から関節の受け皿の前方に持ってきます。

手順3:関節の受け皿の前方部分に持ってきた骨を、ボルトで留めていきます。

手順4:バンカート法により関節唇を縫合します。

このように、ブリストウ法は肩の関節外で前方の筋肉を補強することと、骨を移動することで関節が前側に外れてしまうことを防ぐことができます。また、最後にバンカート法で関節唇を縫います。つまり、このような2つの手術法を同時に施行することにより通常よりも強力な肩の強度を作ることができるのです。この手術を、患者さんの負担が少ない内視鏡を用いておこなうのが「関節鏡視下バンカート&ブリストウ法」です。

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「手術前よりも脱臼しにくくなる手術」はなぜ必要なのか

このように骨を移動させ前方の筋肉を補強することで、元の状態よりもさらに強度を増した肩にする手術は、なぜ必要なのでしょうか。

どのような患者さんにバンカート&ブリストウ法を適応するのか

バンカート&ブリストウ法を希望する患者さんには、下記のような方がいらっしゃいます。

・脱臼するリスクの高いスポーツをこれからも続けていく方

・職業の特徴上、再脱臼のリスクをできるだけ低くしたい方

(スポーツ選手、警察官、自衛官、消防隊員など)

・一度バンカート法を受けたことがあるが、再脱臼してしまった方

・関節の受け皿(関節窩)の骨欠損が大きい方

 

ラグビー

10代でスポーツをやっている選手が一回完全脱臼を起こすと、反復性に移行する可能性はかなり高くなります。競技によっては再発率が90%以上とも言われています。ラグビーや柔道など、脱臼する可能性が高い方は、バンカート法で元通りの肩の強度に戻っても、再び強い衝撃を受ける環境が続くため、再脱臼する可能性が高いと言えます。

脱臼すると復帰までに長い時間を要し、スポーツ選手にとっては、練習期間が奪われる、旬の時期・レギュラーを逃すといったデメリットがあります。バンカート&ブリストウ法では、より肩の強度が高い状態にでき、早期復帰が可能で再脱臼率が大幅に低くなるので、スポーツを続ける方には大きなメリットがあります。

 

自衛官

また、スポーツを職業にしている人、そしてスポーツ以外にも警察官、自衛官、消防隊員といった職業などの人も、脱臼をすることで職務に大きな支障をきたします。脱臼することで、スポーツ選手では戦力外になってしまう、警察官・自衛官・消防官では命に関わる機会に遭遇しかねません。このような脱臼することが許されない環境にいる方々には、バンカート&ブリストウ法のようなより強度の高い肩にする手術が必要とされることがあります。

 

肩をおさえる患者さん

一度手術を受けたのにまた脱臼してしまった方のなかにも、バンカート&ブリストウ法を希望される方がいらっしゃいます。これは患者さんの心理的に、また同じ手術を受けるのに抵抗を感じ、より再発率が低い手術を受けたいと思うためです。また、まだ手術を受けたことがないけれど、再脱臼するリスクを低くしたい理由で、バンカート&ブリストウ法を希望される方もいらっしゃいます。

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バンカート・ブリストウ法はすべての脱臼患者さんに行うべきか?

初回脱臼の患者さんにバンカート&ブリストウ法を選択することは過剰な治療になってしまうのではないか、という議論もあります。

しかし、初回脱臼の場合でも、バンカート&ブリストウ法を行う意義があると私は考えています。

特に競技レベルでスポーツをする方にとって「再び脱臼するかしないか」は非常に重要です。例えば高校2年生の場合、大事な時期にまた脱臼してしまったら、レギュラー争いから遅れをとり大切な試合に出場できなくなり高校でのスポーツが終わってしまいます。私は、再脱臼してしまった時のリスク、再脱臼しない手術方法、手術を行うことで生じる負担について患者さんに説明したうえで、患者さんと一緒に治療方針を話し合うようにしています。

復帰まで長い期間を要する「脱臼」だからこそ、アスリートの将来や人生に大きな影響を及ぼします。バンカート&ブリストウ法は、再脱臼リスクを未然に抑えることができる、大きなメリットがある手術法だと思います。

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関節鏡視下バンカート&ブリストウ法のメリット・デメリット

関節鏡視下バンカート&ブリストウ法のメリット・デメリットは次の通りです。

 

メリット

デメリット

 

復帰が早い

再脱臼しない

手術跡が小さくきれい

 

合併症(神経麻痺・骨癒合不全)の可能性がある

侵襲性がバンカート法より高い

 

メリットはやはりバンカート法とブリストウ法を同時に行うことで、早期スポーツ復帰が期待できる点と再脱臼しにくくなるという点です。また、内視鏡で手術を行うことで、大きな傷で肩を開く直視下手術に比べて、手術跡が小さくなります。これは女性にとって特に大きなメリットといえるでしょう。

デメリットとしては、まず合併症が挙げられます。ブリストウ法では上腕二頭筋を支配している神経に一時的に障害が出てきてしまうリスクと移行した骨が癒合しない可能性があります。

内視鏡手術は患者さんにとってメリットがありますが、手術を行う際には、起こり得る合併症や肩の構造を熟知し、直視下手術を行った経験がある専門医が行うことが望ましいと思います。

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関節鏡視下バンカート&ブリストウ法の費用

関節鏡視下バンカート法、関節鏡視下バンカート&ブリストウ法それぞれ保険診療の対象となる治療法です。手術費用は3割負担(2泊3日入院)でおおよそ下記のような金額だと予想されます。

 

 

医療費

関節鏡視下バンカート法

25万円前後

関節鏡視下バンカート&ブリストウ法

30万円前後

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より患者さんのためになる方法を-手術法開発の経緯

この「関節鏡視下バンカート&ブリストウ法」は私が日本で初めて開発し、学会で発表してきました。

私はこれまで数多くの肩治療をこなし、同時に早稲田大学ラグビー蹴球部のチームドクターも務めてきました。つまり、私は肩の専門医であると同時に、現場で選手を診察するスポーツ医でもあります。

以前、私がバンカート法を行ったラグビー選手が、再び脱臼をおこし、大切な試合を続けられなくなりました。自分が手術をした選手が、目の前でまた脱臼する。その状況は選手にとっては勿論の事、私にとっても非常に残念で悲しいものでした。

この経験が、もっと再脱臼しない手術方法がないのか、と考える大きなきっかけになりました。目の前でスポーツに真剣に向き合う選手を多く見てきたことが、新たな手術法を模索する大きな原動力になっていると思います。

この「関節鏡視下バンカート&ブリストウ法のメリット・デメリット]でご紹介したように、手術では合併症などのリスクも考えられます。そのため私は、この手術の合併症の種類や頻度を研究し、学会で発表しています。また、関節鏡視下バンカート&ブリストウ法を行っていく中で、さらに効率的なやり方についても、学会で発表していく予定です。

このような取り組みによって、私だけではなく、より多くの医師が関節鏡視下バンカート&ブリストウ法を行えるようになってほしいと思います。そうして多くの医師がよりよい治療の選択肢を持つことで、脱臼に苦しむ患者さんをもっと救っていけたらいいと思います。

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肩関節(鈴木 一秀先生)の連載記事

スポーツ整形外科、肩肘関節外科、関節鏡視下手術を専門とする。これまでに5000例以上の患者を治療し、2000件を超える肩関節の手術をこなしてきた肩治療のスペシャリスト。日々診療に携わる傍ら、早稲田大学ラグビー蹴球部のチームドクターとしても活躍している。

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