インタビュー

けいれん発作をおさえる治療とは? 難治頻回部分発作重積型急性脳炎の診断と治療

けいれん発作をおさえる治療とは? 難治頻回部分発作重積型急性脳炎の診断と治療
水口 雅 先生

東京大学医学部大学院医学系研究科 国際保健学専攻 発達医科学分野

水口 雅 先生

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この記事の最終更新は2018年06月19日です。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎(なんちひんかいぶぶんほっさじゅうせきがたきゅうせいのうえん)は、何らかの発熱をきっかけに、けいれん発作が繰り返し起こる病気です。この病気は、幼児から小学生までの子どもに多く発症し、抗てんかん薬による治療など、治療を継続することが大切であるといわれています。

今回は、けいれんや意識障害を起こす病気の研究に携わられている東京大学大学院医学系研究科発達医科学の水口 雅(みずぐち まさし)先生に難治頻回部分発作重積型急性脳炎の診断と治療についてお話しいただきました。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の原因や症状に関しては、記事1『子どもに多いけいれん発作を繰り返す病気-難治頻回部分発作重積型急性脳炎とは?』をご覧ください。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎は、主に発熱とけいれんの症状から診断を行います。記事1でお話ししたように、発熱の数日後から顔面や上半身を中心としたけいれん発作が起こり、そのけいれんが1日に数10回〜数100回と頻回に起こることが特徴です。

さらに、けいれんを止めるために通常の量の抗てんかん薬を注射しても効果がなければ、この病気の可能性が疑われるでしょう。

さらに、脳波をはかったりMRI(磁気を使い、体の断面を写す検査)による画像診断を行ったりすることで、診断の参考にします。

この他にも発熱とけいれんを起こす病気はあるため、診断ではこれらの病気と見分ける必要もあります。たとえば、症状のよく似たものとして、自己免疫性脳炎(本来は細菌やウイルスに対してはたらく自分の免疫機能が誤って自分を攻撃することで脳に炎症が起こる病気)の一種である抗NMDA受容体脳炎という病気があります。

これらは検査を通して鑑別することが可能です。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎では、通常使用する量の抗てんかん薬を使用してもけいれん発作を止めることができません。そのため、急性期(病気が始まり、病状が不安定かつ緊急性を要する期間)には、大量の強力な抗てんかん薬を静脈に注射する治療が行われることが多いです。

その治療によって、麻酔がかかったような状態になり、完全に昏睡状態で呼吸もできない状態が続きます。そのため、集中治療室で全身管理を行います。また、薬の副作用や合併症を防ぐため、けいれん発作が落ち着いた後は、徐々に抗てんかん薬の量を減らしていきます。

お話しした、静脈注射の薬の量を減らしていくと、けいれん発作が再び頻回に起こってしまうことがあります。このようにけいれん発作が再燃してしまったときには、抗てんかん薬の飲み薬に切り替えることが多いです。

飲み薬を服用する場合にも、通常飲む量の10倍など、この病気では大量に服用することになります。そのため、呼吸は戻っても意識は朦朧とした状態となることが多いでしょう。

これら大量の薬を使用してけいれんを止める時期を過ぎると、通常の抗てんかん薬の量でけいれんを止められるか工夫しながら治療を行います。具体的には、この病気に効果がありそうだとわかっている複数の薬のなかから、それぞれの患者さんに使う薬を選びます。使用する薬の種類や量を調整し、効果のある治療を探しながら治療を続けていきます。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の治療では、症状が落ち着き退院した後も、医師とともにいろいろな種類の抗てんかん薬を試行錯誤しながら使用することになります。

患者さんによって、どの薬が効くのか、どのような副作用が現れるかは異なります。そのため、特に慢性期の治療では、効果や副作用をよく確認しながら薬の種類や量を細かく調整していく必要があります。

どのような副作用が現れるかをご家族で確認し医師に伝えることも、その後の治療を検討するうえで重要です。また、薬が複数にわたることが多いため、重い副作用を起こさないためにも、それぞれの薬の使い方や注意点をよく理解していただくことが大切です。

また、特に慢性期には、薬の服用は長期におよびます。一日に何回も薬を飲むことが続くため、飲み忘れてしまうことがあるかもしれません。しかし、それによって症状が悪化してしまうこともあります。症状の重症化を防ぐためにも、決められた回数を守って薬を飲むことが大切です。

お話ししたように、特に発症したばかりの急性期には、大量の薬によってけいれんを止めることになります。しかし大量の抗てんかん薬は患者さんの知能に悪影響を及ぼす可能性があるため、使用する期間をできるだけ短くした方がよいと考えられています。

そのために導入される治療法が、ケトン食療法です。ケトン食療法とは、食事のなかで糖質や、お米、パン、パスタなどの炭水化物を減らし、脂肪でエネルギーを補給する治療法です。このケトン食療法は、けいれん発作を抑える効果があることがわかっています。

しかし、ケトン食療法を行っているあいだに、食事療法で制限されているはずの食事をとってしまうと治療の効果がなくなってしまいます。

たとえば、「少しなら大丈夫だろう」と思い、糖分が含まれているおやつを食べてしまうことで、治療の効果がなくなってしまうケースがあるのです。栄養士の指導を受け、決まりを守りながら治療を継続することが大切になるでしょう。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎は、薬の副作用や脳の障害のために亡くなるケースも少数あります。しかし、基本的には直ちに生命に直結するような病気ではありません。

知的障害をもつ方が多いこともあり、福祉や教育のサポートを受けながら治療を続けるケースが多いと考えられます。

水口先生

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の決定的な治療法が確立されていないこともあり、さまざまな方法を試しながら治療を進めていくことになります。福祉や教育のサポートを受けながら治療を続ける患者さんも少なくありません。

長期にわたり付き合っていかなくてはいけない病気ではありますが、医師と相談しながら粘り強く治療に取り組むことが大切になると思います。

  • 東京大学医学部大学院医学系研究科 国際保健学専攻 発達医科学分野

    日本小児神経学会 小児神経専門医・指導責任医日本神経病理学会 会員日本小児科学会 会員日本先天異常学会 会員日本神経感染症学会 会員

    水口 雅 先生

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