院長インタビュー

地域がん診療を中心に、急性期から回復期までを幅広くカバーする沼田病院

地域がん診療を中心に、急性期から回復期までを幅広くカバーする沼田病院

この記事の最終更新は2017年11月07日です。

独立行政法人 国立病院機構 沼田病院はJR沼田駅からバスで20分ほどのところに位置します。同院は1941年に「沼田陸軍病院」として開設され、現在は165床、17診療科という規模で医療を提供しています。どのような特色を持つ病院なのか、院長である前村道生先生にお話を伺いました。

この地域における当院のポジションは、「がん診療を中心とした医療を提供する病院」ということになると思います。厚生労働省からも、群馬県に8つある「がん診療連携拠点病院」の1つに指定されています。これは当院が、地域のがん診療の中核となる医療機関であることを意味します。そのため当院では、地域で完結するがん診療を提供することが、最大の目標となっています。

患者さんの数が多いのは、胃がん大腸がん乳がんです。

当院では、胃がんに対する治療を年間40件ほど行っています。早期のがんであれば、開腹手術をせずに内視鏡を用いた治療だけで済む場合もあります。事実当院では胃がん症例の約半数に対して内視鏡治療を行っています。

内視鏡による治療はやや高度な技術を要しますが、胃がんに対しては大学病院と同等の内視鏡治療を行っています。迅速な治療が可能なため、望んで当院を受診される患者さんもいらっしゃいます。

 

大腸がんでは、通常の内視鏡を用いた治療に加え、「腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術」と呼ばれる手術も可能です。腹部に直径1cm程度の穴を開け、そこから入れた内視鏡を見ながら、別の穴から入れた特殊な器具で手術を行います。通常の開腹手術に比べ傷が小さいため、術後の痛みは軽く、入院期間も短縮できます。

現在、大腸がんに対しては、開腹手術よりも腹腔鏡下手術の方が多くなっています。

 

消化器系の疾患に対して内視鏡を用いて治療できるのは、この地域で唯一消化器内科の常勤医がいるためです。

内視鏡を用いると、消化管潰瘍からの出血も開腹せずに止められます。消化管の潰瘍から出血すると、突然の吐血や下血をきたします。このような急を要する患者さんが、近隣の医療機関からの紹介を含め、多く来院されます。

また総胆管結石という病気も、開腹せずに内視鏡を使った治療が可能です。これは、十二指腸につながる総胆管という管があるのですが、このなかに石が詰まる疾患です。症状のないこともありますが、多くは食後、右のお腹の上のあたりに痛みを感じ、吐き気を覚えます。内視鏡を十二指腸まで挿入し、そこから総胆管に細い管を挿入して石を除去します。

 

がん診療と並んで当院は、救急医療にも力を入れてきました。そのため、病棟はすべて急性期の患者さん向けでした。しかし地域社会の高齢化にともない、急性期を乗り切ってもそのまま退院できない患者さんが増えてきました。

そこで2016年、病棟のひとつを回復期の患者さん向けに切り替えました。それが現在の「地域包括ケア病棟」です。この病棟ができたおかげで、手術目的で入院された患者さんなどは、急性期治療が終わると回復期病棟に移り、リハビリテーションなど退院に向けた治療を同じ病院内で受けられるようになりました。

 

当院は常勤医師が16名という、小規模体制なので、すべての医師間でいわゆる「顔の見える関係」ができあがっています。そのため診療上の疑問点の照会や診断の依頼などもお互い気軽に行なえます。その結果、自然にチーム医療が実践されていました。

当院は看護師さんの数も80名強で、決して多くはありません。しかしその質は、非常に高いものです。

日本看護協会では「認定看護師」という、ある特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を有する看護師の認定を行っています。当院にはこの認定看護師が4名在籍しており、さらに2名が認定をめざして研修中です。

加えて、「診療看護師」も在籍しています。医師の指示を受けながら、これまでよりも踏み込んだ診療の補助を行える看護師です。この資格を取るには、2年間専門の大学院に通わなくてはなりません。当院には1名診療看護師が在籍しているうえ、さらに1名が現在研修中です。これら研修中の3名を含めると、当院は在籍看護師の約1割が専門性をもった特別な資格を有することになります。

当院の高い医療水準の背景には、このような勉強熱心な看護師さんの存在もあるのです。

 

当院は脳神経外科が不在なため、近隣の「沼田脳神経外科循環器科病院」と連携しています。心臓や血管、あるいは脳の病気の患者さんは必要に応じてご紹介し、逆に消化器系の患者さんは紹介いただいています。

地域かかりつけ医の先生たちとの交流会も、2つの病院が共同で実施しています。「2施設で1病院という連携」の実態を知っていただくためです。

病診連携も、地域連携室を窓口として推進しています。今後は今まで以上に、かかりつけ医の先生たちとの連携を進めていきたいと考えています。

 

巡回診療車を用いたへき地医療も当院の特色のひとつです。医師・看護師・事務兼運転手の3名が搭乗し、主として山間部を、4コースに分けて巡回します。それぞれのコースごとに4~6か所で停車し、患者さんをお待ちするのです。いずれのコースも、月に1 回は診療を受けられるようにスケジュールを組んでいます。

このへき地巡回医療は、1970年に始まりました。現在よりも当院へのアクセスは、圧倒的に悪かったのでしょう。巡回診療を受診される患者さんの数が減りつつある現在、どのような形で維持していくか、考えているところです。

前村道生先生

私たちを含め、この地域の医療従事者は可能な限り地域で治療が完結するような医療環境をつくり上げたいと考えています。そのため、今後もほかの医療機関と連携しながら、さらに高度な地域密着型医療を提供できる体制を整えてまいります。