世界でも類をみない超高齢社会となった日本 。高齢化の進展とともに、慢性期医療のニーズは高まり続けています。2018年6月21日(木)、東京都のシャトレ市ヶ谷にて、日本慢性期医療協会の総会および記者会見が行われました。本記事では、松田晋哉先生の総会記念講演のサマリーをレポートします。
総会、記者会見については、記事1『良質な慢性期医療が日本を強くする—日本慢性期医療協会 総会・記者会見レポート』でレポートしています。
産業医科大学の松田晋哉先生より「今後の地域医療のあり方を考える〜医療介護ニーズの複合化への対応〜」をテーマにした総会記念講演が行われました。
2018年度の診療報酬改定では、基本方針のひとつとして「地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進」が提示されました。今後は、急性期、回復期、慢性期にかかわらず、すべての病院が地域包括ケアへの対応を求められることになるでしょう。
日本のように成熟した社会において、人口構造の変化は地域によって大きな差が生まれます。九州では、福岡県への人口集中が起こっています。一方、県庁所在地を含めて、九州の他県では人口が減少しています。人口構造の変化に伴い、それぞれの地域における医療ニーズは変わっていくと考えられます。ポイントは、地域における自施設の果たすべき役割を理解することです。
本日は、福岡県内4地域のデータを用いてお話しします。
高齢化の進展とともに、今後、日本は「多死社会」になっていきます。すると、質の高い医療・介護の総合的な提供体制が、人生の最終段階におけるQOL(生活の質)に大きく影響します。よって、たくさんの人が亡くなっていくことを前提に、医療・介護・住まいを考えることが重要になるでしょう。
以下のグラフは、福岡県内4地域の人口ピラミッド(2010年・2030年)です。
ご覧のとおり、2030年には若年層の人口が減り、後期高齢者(75歳以上)が増えると推測されます。どの地域でも85歳以上の高齢者(特に女性)が増えるでしょう。多くは単身か、高齢の配偶者との同居だと考えられます。このことから、「医療・介護・住まいなどさまざまなケアが社会的に保障されるべき時代」の到来が予感されます。
人口構造の変化により、患者さんの退院時には、医療・介護のみならず、生活全般(住まい)の調整が必要になると考えられます。実際、福岡市の社会保障協議会では、退院後しばらく病院の近くに住みたいという高齢患者さんのために、賃貸物件の保証人になるサービスを創設しています。このことから、治療後は病院の近くに住み、状態が安定するまでは外来に通いたいという患者さんのニーズが大きいことを伺えます。
高齢化が進む日本では、今後、住まいや生活の保障が必須になっていくでしょう。つまり、地域包括ケアシステムでは、医療・介護・生活(住まい)すべてを考える必要があるのです。今、その課題を解決するべき時代を迎えています。
週あたりの労働時間(勤務時間)が週に60時間以上の病院医師(対象:病院勤務の常勤医師)は、全体の4割ほどです。
2017年に「働き方改革実行計画」が示されました。
<罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正(一部)>
医師も、時間外労働規制の対象となります。しかしながら、医師法19条の応召義務(診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。)との関係があり、現在は検討段階です。
以下のグラフは「福岡県内2つの地域における病院の医療職の性・年齢別分布」を示しています。2つの地域の違いは、「若い世代の医療者が働きたいと思える、あるいは働きやすい環境であるか」という点です。
上下のグラフには明確な差がみられます。まず、上のグラフをご覧ください。医師は男性が圧倒的に多いことがわかります。また、看護師の年代は40代がもっとも多く20〜30代が少ない、つまり若い世代のマンパワーが不足しています。
一方、下のグラフからは、医師の2〜3割は20〜30代の女性であることがわかります。また、看護師の年代をみると、20〜30代が多く、若い世代のマンパワーが潤沢です。
この調査からわかるように、若い医療従事者が働きやすい環境をつくらなければ、徐々に医師の確保は難しくなります。医療者が不足すれば、医療提供の維持そのものが困難になるでしょう。
今、医療従事者の働き方改革が求められています。たとえば、主治医制でなくチーム制で患者さんをみる、あるいは医師と看護師で効率的にワークシェアを行うなど、さまざまな方法で改革を具体的に実行していく必要があると考えます。
高齢化が進むと、慢性疾患を抱える患者さんが増加し、急性期の患者さんが減少します。また、医療技術の進歩によって、一部の手術が外来で受けられるようになる、あるいは入院期間が短縮されます。すると必然的に、急性期で必要な病床数は減少します。
これまでは、急性期を医療の中心と捉える「暗黙のヒエラルキー」が存在していました。しかし、医療技術の進歩、慢性疾患を抱える患者さんの増加、DPC制度*の導入などによって、そのヒエラルキーは崩壊しつつあります。このような時代に、私たちは慢性期医療の重要性を発信していく必要があると考えます。
DPC制度・・・急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度。「出来高払い方式」とは異なり、入院期間中に治療した病気の中で最も医療資源を投入した一疾患のみに厚生労働省が定めた1日当たりの定額の点数からなる包括評価部分(入院基本料、検査、投薬、注射、画像診断など)と、従来どおりの出来高評価部分(手術、胃カメラ、リハビリなど)を組み合わせて計算する方式です。
在宅医療の議論に関する留意点は、以下の3つです。
各地域(医療圏)で、人口構成や医療ニーズに応じて、居宅と施設のどちらで在宅医療を進めるのかに関する議論を行う必要があります。
急性期医療から回復期医療、あるいは慢性期医療から介護というように、患者さんが地域内でダイレクトに動くためには、地域医療を、現在の「階層モデル」から「ネットワークモデル」へと移行する必要があります。どのような病院でも「地域連携を担う」ことが大切になるでしょう。
高齢社会の医療で、リハビリテーション栄養の考え方は非常に大切です。リバビリテーション栄養とは、栄養状態を含めて国際生活機能分類(ICF)*で評価を行い、障害者や高齢者の機能、活動、参加を最大限発揮できるよう栄養管理を実施することを指します。
ICF・・・人間の生活機能と障害に関して、アルファベットと数字を組み合わせた方式で分類するもの。人間の生活機能と障害について「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの次元及び「環境因子」等の影響を及ぼす因子で構成され、約1,500項目に分類されている 。
適切な栄養管理とリハビリテーションは、高齢期におけるQOL(生活の質)の維持・向上に不可欠といえます。よって、地域内で栄養リハビリテーションをどのように継続するのかを考える必要があるのです。
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