ランドウ・クレフナー症候群は、就学前後の子どもに発症する神経疾患で脳に機能的な障害が起こる病気です。いつの間にか言語聴覚症状や高度な脳波異常が現れ、多くの方は思春期までに症状が回復します。しかし、成人後も症状が続いて聞き取りや会話に困難が生じることがあるため、言語機能の治療にしっかりと取り組むことが大切です。
今回は、ランドウ・クレフナー症候群の治療と経過について、東京都立東部療育センター 院長 加我牧子先生にお伺いしました。
ランドウ・クレフナー症候群を直接治療する方法はありません。しかし、てんかん発作に対しては抗てんかん薬が有効で、数年以内に発作はなくなり脳波異常も改善します。
言語機能の改善をめざしててんかん波が広がるのを防ぐため、外国では外科治療として軟膜下皮質多切術(MST)*という手術が行われることもあります。大部分が自然によくなっていく傾向があることもあり、国内ではあまり実施されていません。
軟膜下皮質多切術(MST)…脳波異常を改善するため脳の表面に切れ目を入れて、てんかん発射の拡散を防ぐ手術。
てんかんの治療には薬物療法があります。てんかん発作がみられる場合、抗てんかん薬の使用によって発作をコントロールすることができます。抗てんかん薬はきちんと飲み続けることが重要であるため、定期的な通院が必要です。なお、多くの場合、思春期前にはてんかん発作はなくなり脳波も改善します。
言葉や聴覚の症状が重い方は、発病初期にステロイド治療*を行うことがあります。たとえば、経口ステロイド療法(薬を毎日続けて飲む方法)や、ステロイドパルス療法(ステロイド剤を3日間続けて点滴する方法)を選択することがあります。これらの治療により、言葉や聴覚の症状が改善する方もいます。
ステロイド治療…免疫抑制作用、抗炎症作用のあるステロイド剤を用いた治療。
ランドウ・クレフナー症候群では、多くの患者さんは症状がしだいに和らいでいきます。思春期頃までにてんかん発作はほとんど起こらなくなり、脳波異常も改善します。言語聴覚症状も、思春期までにはよくなる方が多いですが、後遺症が残る場合もあります。
症状が治まれば定期的な通院の必要はなくなりますが、言葉の症状や脳波の状態をみるために、時々は受診していただくとよいでしょう。
適切な教育を受けることで、その後の経過によい影響が出てくると考えられます。そこで、保育園や幼稚園、学校に通うことはとても大切です。
症状によっては、普通学級ではなく支援級に就学するなどの配慮をすることで、言語機能を伸ばしてゆく必要もあります。聴覚障害児のための学校に通うことも、言葉を増やしたり言葉の使い方を学んだりすることができる点で適していることがよくあります。
また、症状は変化するため、それに合わせてフレキシブルに対応できるような体制を整えてあげるとよいでしょう。
病気が始まってから数年の間は、症状が治まったと思っても、また再発する方もいます。また、よくなったり悪くなったりするエピソード(病相)を何回か繰り返す方もいます。なお、再発を繰り返したからといって最終的な症状(予後)が悪化するというわけではなく、思春期頃までには症状が治まることが大部分です。
患者さんのなかには、成人後も後遺症が残り、言葉の聞きとりの問題(聴覚失認)が残る方がいます。聴覚失認が残っていても知能は正常ですので、日常生活は問題なく暮らせます。しかし、聞こえがわるいことで社会生活上の不便を感じることがあります。
たとえば、耳に異常があるわけではなく聞こえているのに意味が分からないという障害の内容は、一般の方が理解するのは難しいので、このためのストレスがかかります。
1対1で話す時はかなり理解できても、会議の場で複数人が同時に話している内容を理解することが難しかったり、相手の表情や口の形が見えない電話ではやりとりをすることが難しかったりします。電車内のアナウンスなどは、聞き取ることが難しい方が多いようです。
また、通常の難聴と同じように大きな声で話しかければ理解できると勘違いされて、大声を出されると、うるさくて辛いという問題も起こります。
症状がすっかり改善した多くの方については、問題なく一般に就労して社会で活躍しておられます。
後遺症のある方については、職業の選択もさることながら、それ以上に、仕事の指示を短い言葉で簡潔にメモにして伝えるとか、お互いに顔を見ながら短い言葉でわかりやすく伝える工夫をするなど周囲の協力が必要です。ご本人が手話を学んだ方でしたら、手話通訳の助けを借りることが役立つ場合もあります。
周囲の人たちがこのような協力をしていただけば、職業を通じて自立し、世の中に貢献していただける方々です。
ランドウ・クレフナー症候群は、言葉の聞き取りに困難があるため、言葉の理解が難しくなる病気です。理解しやすいように周囲の騒音が少ないところで話す、話す時は向き合って唇の動きを見せるようにする、メモを書いて相手に見せる、筆談をする、ジェスチャーを利用するといった工夫により、患者さんは話を理解しやすくなります。
ランドウ・クレフナー症候群の患者さんと会話がうまくいかないときは、患者さんが聞き直しやすい環境を作ることが大切です。患者さんのほうから聞き直してもらうことにより、どんなことがわからないのかを把握することができるのではないでしょうか。
世の中には、ランドウ・クレフナー症候群のように珍しい病気があり、困っている患者さんがいらっしゃいます。患者さんは知能に障害があるわけではないため、何について困っているのか直接聞いていただき、できることは手助けしてあげるとよいでしょう。
たとえば、仕事の内容や指示などは紙に書いてもらえれば助かるという方がいます。そういう場合は短い言葉で明瞭に書いて渡すなど、状況に応じて工夫する気持ちが大切です。
ランドウ・クレフナー症候群のお子さんは、言葉の回復途上の時期から意識して、実物や絵、写真などを使ってできるだけ語彙(ボキャブラリー)を増やしていくことが大切です。
話し言葉が十分に回復していない時期から、絵本を読んであげる、絵本を読ませるなどして、言葉を使うこと、ジェスチャーも使ってコミュニケーションの楽しさをいっしょに味わいましょう。
お互いの意思の疎通ができなくて困ることもあると思いますが、良くなったり悪くなったりすることがあっても、少なくともだんだんによくなっていきます。お子さんの良さを認めて、大らかに教えてあげることが大切です。
てんかんの治療をしている間は、お薬を飲み忘れないように注意することと、定期的に通院することを忘れないようにしましょう。医療機関や教育機関で定期的に言語機能の評価や言語指導を受けられるように考えることも大切です。
症状がよくなってきて、家の中ではよくおしゃべりするようになってからも、自分で発音やイントネーションが完全でないことを理解していることが多いせいか、外に出ると恥ずかしがって話すことをためらったり、小さな声でしか話さなかったりするお子さんもいます。自信を持って話していけるような環境を整えてあげることと、安心して喋れるように励ましてあげることも大切です。
東京都立東部療育センター 院長
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