神奈川産業保健総合支援センターは、産業保健に関する研修や相談対応などを幅広く行っています。同センターの主な活動のひとつに「治療と仕事の両立支援」があります。
治療と仕事の両立支援に関する同センターの取り組みの特徴は、患者さんや、患者さんが属する企業などに対して、中立的な立場で支援を行うことです。患者さんと企業、双方の希望を調整し、お互いに納得できる形の両立支援を行うよう努めています。
今回は、神奈川産業保健総合支援センター 所長である渡辺 哲先生と、産業保健専門職で保健師でもある西尾 泉さんに、同センターの両立支援の取り組みについてお話しいただきました。
神奈川産業保健総合支援センターは、独立行政法人労働者健康安全機構に属し、産業保健に関する研修や相談対応などを行っています。具体的には、以下のように産業保健に関する幅広い活動に取り組んでいます。
【神奈川産業保健総合支援センター の主な活動内容】
当センターには、産業保健に関する問い合わせや相談に対応する40名の産業保健相談員が所属しています(2019年2月時点)。産業保健相談員には、医師、保健師、社会保険労務士などが含まれ、さまざまな専門分野を持つ相談員があらゆる相談に対応しています。
相談の基本は電話とメールですが、資料などを持参していただいた上で直接面談をすることも可能です。面談の際には、事前に電話でアポイントメントをとっていただいた上で、センターに来ていただいています。
相談員の予定はホームページ上に公開しています。そのため、あらかじめ「この相談員に相談したい」と面談の予約を入れられるケースもありますし、相談内容を伺った後に適切な相談員に担当を振り分けるケースもあります。
地域産業保健センター: 従業員が50名未満の産業医の選任義務のない小規模事業場の事業主や従業員を対象として、労働安全衛生法で定められた保健指導などの産業保健サービスを提供する役割をもつ地域窓口
2016年2月に厚生労働省より発表された「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」に基づき、当センターでは、患者さん、企業双方からの相談に対応しています。必要があれば、企業に赴いて支援をさせていただいています。
当センターの取り組みの特徴は、患者さんや、患者さんが属する企業などに対して、中立的な立場で支援を行うことです。患者さんと企業、双方の希望を調整し、お互いに納得できる形の両立支援を行うようにしています。
当センターは、難病の患者さんとそのご家族の生活上のさまざまな相談に応じる「かながわ難病相談・支援センター」と連携をはかっています。同センターが受ける相談の中に患者さんの仕事に関わるような内容が含まれ、私たちセンターで対応できそうな場合には連絡が入ります。
現状で国が定める指定難病は300以上あります(2019年2月時点)。そのなかでも、当センターに相談にいらっしゃる方は、神経難病の患者さんが多いです。神経難病の患者さんの中には、進行すると体が動きづらくなるケースもあります。そのため、いま現在は問題なく働くことができていたとしても、将来的に同じ仕事に従事することが難しくなる場合もあります。実際に、ドライバーや現場作業をされていたような方が、調整の結果、デスクワークに仕事を変更されるようなケースもあります。
また、難病の場合、がんなどと異なり、病名が知られていなかったり治療法が確立していなかったりするケースも少なくありません。そのため、職場の方々が過度の不安感をもってしまうことがあります。
しかし、現れる症状については主治医の話からある程度予測することができるため、主治医の意見を参考にしながら、企業の方に勤務体制や仕事内容の調整についてアドバイスをさせていただいています。
「神奈川両立支援モデル」とは、治療と仕事の両立支援に関する相談や両立支援プラン等に関する情報を共有して両立支援のワンストップ化を図ることを目的としたものです。
当センターでは、2016年2月に厚生労働省より発表された「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」に基づき、2018年より神奈川県内の4か所の大学病院(北里大学病院、聖マリアンナ医科大学病院、東海大学医学部付属病院、横浜市立大学附属病院)の患者さんや、患者さんが働く職場の上司からの相談、個別訪問支援、個別調整支援を行うことで、患者さんが治療を続けながら安心して働くことができる職場環境づくりを支援するため“ワンストップ”でつないでいます。
神奈川両立支援モデルの中の取り組みのひとつが「両立支援カード」の作成と配布です。この「両立支援カード」は、愛知県の「がん診断時に担当医等から患者に渡すカード」の取り組みを参考にしながら、当センターで独自に作成したものになります。
「治療と仕事の両立においてもっとも困っている人は誰だろう」と考えたときに、「まずは、患者さんへ相談する場所があることをお伝えしたい」という思いで、このようなカードを作成しました。
お話しした4大学病院で配布を行っており、実際に診療室や相談室、入り口などに配布場所を設置してもらっています。
他にも、かながわ難病相談・支援センターや区役所(横浜市18区)にも設置しています。区役所に設置している理由は、指定難病に診断された方の中には、医療費助成制度の申請のために区役所に手続きに行かれる方がいるからです。実際に、区役所で医療費助成制度の申請を行った方が、担当者にこのカードを渡されたことをきっかけに、私たちのセンターに相談に来られたこともあります。
今後は、薬局やがん拠点病院等にカードの配布場所を設置し、より多くの患者さんの手に届くよう計画しています。
患者さんの中には、病気の診断を受けた時点で仕事を辞めてしまう方も少なくありません。実際に、診断がついた段階で約3割の方が仕事を辞めるといわれています。また、たとえば、外来で化学療法を受けている乳がんの患者さんが、副作用で体調が悪くなり、仕事を続けることが難しくなり退職の道を選ばれるようなケースもあります。その結果、仕事を辞めてしまったために、経済的な理由から治療を継続できなくなることもあります。
しかし、当センターのような相談機関に両立について相談し、企業と仕事内容や勤務時間について調整を行った結果、仕事を継続できるケースもあります。早まって仕事を辞めることなく、仕事を続けられる方法はないか考えていただきたいです。当センターでは両立に関する相談に応じる体制を築いていますので、一度ご連絡いただきたいと思います。
患者さんが病気の診断を受けた当初は、「正常な思考ができなくなっている」とおっしゃる方もいます。実際に、病気と診断されたとき、自分では正しいと思っていても、後から振りかえったときに「あのときは混乱していた」とおっしゃる方もいます。
私は、診断を受けたばかりのときには、ひとまず重要な決定は避け、周りの方から話を聞いたり、誰かに話を聞いてもらうなどして気持ちが落ち着くまで待つことも大切だと思います。自分の言葉で語ることで頭の中が整理されるからです。ある程度物事を冷静に考えられるようになってから復職か退職かを考えてみてはどうでしょうか。
また、「職場の方に迷惑がかかる」と周囲の方に気兼ねをして仕事を辞められるケースがあります。しかし、お互いに少しの配慮で仕事を続けることは十分に可能な場合もあります。
いつ誰が病気になるかわからない中で「迷惑をかけるから仕事を辞めなければならない」などと考えるのではなく「仕事を続けるために支援してください」と、きちんと周囲の方にお伝えすることも大切です。
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