院長インタビュー

いざというときに安心を提供できる病院に――兵庫県災害医療センターの役割

いざというときに安心を提供できる病院に――兵庫県災害医療センターの役割
中山 伸一 先生

兵庫県災害医療センター 名誉院長兼顧問、日本災害医学会 理事

中山 伸一 先生

目次
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兵庫県災害医療センターは、兵庫県神戸市の南側にある、救命救急医療と災害医療に特化した病院です。そのため、一般外来患者さんの受け入れをしておらず、周辺にお住まいの方々からは馴染みのない病院かもしれません。しかし、高度救命救急センターと基幹災害拠点病院に指定されている、重要な役割を担う病院です。

今回は、同センターが提供する救命救急医療や災害医療などについて、センター長の中山伸一先生にお話を伺いました。

兵庫県災害医療センター 外観
兵庫県災害医療センター 外観

当センターは、2003年に設立されました。設立の背景には、1995年に発生した兵庫県南部地震、いわゆる阪神・淡路大震災があります。兵庫県南部地震の発生によって、「災害時に司令塔としての役割を果たす医療機関がない」という問題点が浮き彫りとなりました。そこで、この問題を解消するために、兵庫県は当センターを設立しました。当センターは、大規模の事故や災害発生時などに、災害医療の司令塔としての役割を担う、兵庫県の基幹災害拠点病院という重責を担っています。また、当センターは、厚生労働省より高度救命救急センターとして指定されており、神戸市やその周辺地域から救急車で搬入される、重症や重篤な患者さんを中心に診療を行う、いわゆる3次救急医療に尽力しています。

高度救命救急センターに指定されている当センターは、特に重症および重篤な患者さんを中心に受け入れています。当センターは、そういった緊急性の高い患者さんの診療に特化しているため、各診療科の外来を設けておらず、ご自身で来院される患者さんは原則としていらっしゃいません。ほとんどが、救急車やドクターカー、消防防災ヘリコプターなどによって搬入される患者さんです。

患者さんの命を救うために、スタッフで協力し合った“チーム医療”を展開し、1分1秒でも早い診療を目指しています。

ハイブリットER
ハイブリットER

そこで、当センターは、ハイブリッドERと呼ばれる緊急初療室を設けています。ハイブリッドERの特徴は、IVR-CTが手術台に備わっていることです。IVR-CTとは、X線によって体の中の様子を映像化し確認できるCT装置と、全身の血管を抽出して、出血場所など血液の流れの異常を診断かつ止血術を行う装置が組み合わされているものです。

ハイブリッドERに患者さんを直接搬入すると、手術台とも兼用できるIVR-CTで全身の状態を確認し、診断あるいは容体を安定させることを目的とした、止血術などの治療に当たります。

ハイブリッドER導入以前は、初期診療後に、処置室からCT室やカテーテル室まで、患者さんの移動が必要でした。しかし、ハイブリッドER導入以降は、移動せずにCTの撮影やカテーテル治療をすることが可能となりました。そのため従来よりも早く、適確な診断や治療につなげられています。

ドクターカー外観とドクターカー内装
ドクターカー外観とドクターカー内装

当センターは救急車のみならず、ドクターカーや消防防災ヘリコプターを導入した救急医療と災害医療を行っています。ドクターカーや消防防災ヘリコプターは、医師と看護師が乗り込んで現場へ向かい、現場で応急処置や治療を行うことによって、救命率を向上させることを目的とした乗り物です。

消防防災ヘリコプターは距離がある現場への到着が早いこと、ドクターカーは夜間をはじめとして消防防災ヘリコプターが着陸できない場所にも向かうことが可能であることが、それぞれの特徴のひとつです。

当センターではこのように、病院内で提供する医療のみではなく、現場に赴いて消防隊や救急隊のスタッフと協力して医療を行う、プレホスピタルケアも提供しているのです。

当センターは兵庫県の基幹災害拠点病院に指定されているため、大規模の事故や災害発生時に適切な対応ができるよう、平常時から災害医療の訓練を繰り返し行っています。そうした訓練の結果、新潟県中越地震や東北地方太平洋沖地震、JR福知山線列車事故に加えて、2018年に発生した大阪府北部地震や平成30年7月豪雨の際も、現地に赴いて医療の提供を行い、その役割を果たしてまいりました。

当センターは、日本DMAT研修施設です。DMAT(Disaster Medical Assistance Team)とは、災害が発生したときに真っ先に活動ができる機動性をもつ、医療チームです。DMAT隊員を育てるDMAT研修施設として、当センターは日々研修に当たり、年間500人、2007年~2019年度にかけて日本DMAT隊員の約半数の6,196人のDMAT隊員を養成しました*

*兵庫県災害医療センター調べ

広域災害救急医療情報システム
広域災害救急医療情報システム

当センターの2階には、兵庫県災害救急医療情報指令センター(以下、情報指令センター)があります。情報指令センターは、広域災害救急医療情報システム(EMIS)を駆使して防災関係機関や各医療機関と連携をし、医療情報の集約や提供を行う場所であり、24時間365日稼働しています。

それに加え、各病院の被災状況などの情報共有や、ドクターカー、DMATなど医療班の派遣や調整なども行います。JR福知山線列車事故の発生時も、防災関係機関から情報を得て、医療チームの調整や受け入れ病院の手配などの調整をしました。

つまり、災害発生時には実質上、兵庫県の災害医療対策本部の役割を担います。

ところで、皆さんには、ぜひご自身の「よりよい最期を迎えること」について考えていただくことをおすすめしたいと考えます。昨今、医学の進歩によって、生きている時間をある程度は引き延ばすことが可能になりました。しかし場合によっては、医学的介入を行わないほうが、ご本人あるいはご家族にとってよりよい最期を過ごせるケースもあるでしょう。

私たち医療従事者や救急隊員は、患者さんを目の前にしたら、迷うことなく心肺蘇生や治療を始めなくてはいけません。ゆっくり考えていると、助かる命が助からなくなるからです。その結果、元気に社会復帰される方もおられます。その一方で、「あのまま家で最期を迎えたかった」とおっしゃる方もいらっしゃいます。ただし、たとえご家族などに対して、「私は自分の身に何か起きても延命治療は受けない」とおっしゃっていたとしても、我々はそれが事実かどうか判断ができません。ですから、元気なときに意思表示をしていただくことが重要です。

そこで、DNARという言葉があります。DNARとは、心肺停止時に心肺蘇生を試みないという意味です。DNARを希望される方は、まずはかかりつけの病院の主治医にDNARを希望する旨を伝えてください。その後は、ご家族も含めて主治医との話し合いが行われ、DNARを希望する意思表示が可能となります。また、DNARでは、しっかりと文面で残すことも大切です。

DNARについてご家族や主治医を交えて話し合うことで、ご家族も心の準備をする時間ができます。そして、最期が訪れたとき、穏やかに見送ることができるかもしれません。

ぜひ元気なときに、ご家族や主治医と一緒にDNARについて考えていただければと思います。

中山先生

ご自身のステップアップのために、当センターで救命救急医療や災害医療を、ぜひ経験していただきたいと思っています。当センターでは、初期研修を終えた医師であれば、働くことが可能です。ご自身の年齢によって、何を経験したいかという点で変化があると思いますので、20歳代で勤務して転職し、また30歳代で戻ってくる、というのも大歓迎です。

せっかく6年間、医学部で幅広い分野の勉強をしてきたのに、卒業したらひとつの専門分野しか勉強しない、診ない、というのはもったいないと感じています。見学も大歓迎です。ぜひ当センターで救急医療や災害医療を経験し、幅広く診る力を培っていただければと思います。

昨今、本来は救急車を呼ぶ必要のない、軽症の方が救急車を安易に呼んでしまう事例が多発しています。そのような方のもとに救急車が出動しているときに、本当に救急車を必要とする方からの要請があったら、救急車の到着が遅れ、救えるはずの命が救えなくなってしまうかもしれません。ですから、救急車は本当に必要なときに呼んでほしいと思います。

一方、この問題を真摯に受け止めてくださった方のなかには、救急車が必要な状態でも「救急車を呼んでいいのだろうか」と、悩まれてしまう方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、必要なときはあまり迷わず救急車を呼んでください。判断に迷われたときは、救急相談センター(兵庫県神戸市の場合は#7119)に電話をして相談する方法も普及してきています。

救急相談センターとは、救急車を呼んだほうがいいのか、自分で病院に行ったほうがいいのかなど、迷った際に判断してくれる相談窓口です。いろいろな地域で実施されていますが、#7119以外の番号で実施している地域や未実施の地域もありますので、お住まいの地域が実施されているか、事前にインターネットなどでご確認いただければと思います。

救急車の適正な利用方法や、先ほどお話したDNARについて、あなた自身のためにも日ごろから考えていただけたら幸いです。

当センターは外来診療を行う病院ではないので、周辺地域の方々からすると馴染みのない病院だと思います。ですが、命の危機や災害時などのいざというときには、頼りになる病院だと思っていただけると嬉しいです。今後も当センターは命を救うため、そして災害時の司令塔の役割を担うため、職員一同で精進してまいりますので、温かく見守っていただければ幸いです。

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  • 兵庫県災害医療センター 名誉院長兼顧問、日本災害医学会 理事

    中山 伸一 先生

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