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治療困難な脳動脈瘤に対する挑戦――埼玉県立循環器・呼吸器病センターにおける脳動脈瘤治療の取り組み

治療困難な脳動脈瘤に対する挑戦――埼玉県立循環器・呼吸器病センターにおける脳動脈瘤治療の取り組み
吉川 雄一郎 先生

埼玉県立循環器・呼吸器病センター 脳神経センター長/脳神経外科科長/脳卒中センター長

吉川 雄一郎 先生

目次
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治療が難しい脳動脈瘤は、治療実績が豊富で、手術支援のための設備が整っている病院で治療を行うことが重要です。今回は、治療困難な脳動脈瘤に対する埼玉県立循環器・呼吸器病センターでの具体的な取り組みについて、同院脳神経センター長・脳神経外科科長 兼 診療部長 吉川 雄一郎(きっかわ ゆういちろう)先生にお話を伺いました。

脳動脈瘤の状態によっては、治療が難しいものもあります。通常の開頭クリッピング術やコイル塞栓術といった従来の治療では対応できないこともあり、脳血管バイパス術*(浅側頭動脈―中大脳動脈バイパスやハイフローバイパス)を組み合わせて治療を行ったり、血管内治療と開頭手術とを同時に行うハイブリッド手術を行ったりすることもあります。治療が難しい脳動脈瘤には、以下のようなものが挙げられます。当院ではこうした特殊な脳動脈瘤に対する治療も積極的に行っています。

*脳血管バイパス術:脳の血管にほかの血管をつないで脳血流を増加させる手術。

大型・巨大脳動脈瘤

大きさが10mm以上のものは大型脳動脈瘤と呼ばれています。特に25mm以上のものは巨大脳動脈瘤と呼ばれ、破裂する危険が高いばかりでなく、脳を圧迫して神経症状が現れることがあります。巨大脳動脈瘤の年間破裂率は、33%程度といわれています。コイル塞栓術や開頭クリッピング術が難しい場合は、脳血管バイパス術を組み合わせて治療を行うこともしばしばあります。

血栓化脳動脈瘤

脳動脈瘤の中に血栓(血の塊)ができて成長して大型化する脳動脈瘤もあります。予後も悪く、治療のリスクも高いため、治療困難な脳動脈瘤と言えます。

解離性脳動脈瘤

血管壁の内腔側に裂け目が生じ、裂け目から血流が侵入して血管壁が膨らんだものです。血管壁の構造上、脳動脈瘤への血流を血管ごとふさぐ治療が必要になる場合が多く、脳血管バイパス術が必要になる場合もあります。

再発脳動脈瘤

過去にすでに脳動脈瘤に対して開頭クリッピング術やコイル塞栓術が行われたものの、時間経過とともに再度動脈瘤に血流が入ってきて大きくなった脳動脈瘤です。コイル塞栓術を再度行っても再発を食い止められない場合も多く、また、開頭手術も難しくなる場合が多く、治療困難な脳動脈瘤の1つです。

その他の治療が難しいタイプの脳動脈瘤

アプローチが難しい場所にできた脳動脈瘤、脳動脈瘤の膨らみそのものから大事な血管が出ているような脳動脈瘤、小型であっても壁が脆弱(ぜいじゃく)で血豆状脳動脈瘤と呼ばれる脳動脈瘤など、ほかにもさまざまな治療困難な脳動脈瘤があります。血管内治療のよいところと、開頭手術のよいところを組み合わせたり、脳血管バイパス術の技術を用いたりとさまざまな方法で、治療を行います。

78歳女性。意識消失発作で近隣の脳神経外科クリニックを受診しました。MRIを受けると前交通動脈に最大径17mmを超える大型の未破裂脳動脈瘤が見つかりました(図A, B, C)。脳動脈瘤が非常に大きかったため、専門的な治療が可能な大学病院へ紹介されました。破裂のリスクが高いことから、開頭クリッピング術やコイル塞栓術などの治療方針を提案されましたが、いずれも困難で厳しい治療になることが告げられたとのことでした。その後、セカンドオピニオンも兼ねて当院への紹介を希望されました。

当院受診後に再度精査を行ったところ、脳動脈瘤本体から複数の重要な血管がタコ足のように出ているためやはり非常に治療難度の高い症例であることが分かりました(図B, C 矢頭)。開頭クリッピング術とコイル塞栓術、どちらの治療方法が適切か、それぞれの治療医の立場からカンファレンスで議論を交わし、入念に検討を行いました。高齢患者さんの場合、低侵襲治療であるコイル塞栓術を選択されることがほとんどですが、当院では、この患者さんに対して、重要な血管を残しながら脳動脈瘤を残さないという“根治”を目指すために開頭クリッピング術を行うべきであるという結論を出しました。

実際の手術では、複数のクリップ(図D, E 黄色)を駆使して重要な血管を全て温存しながら脳動脈瘤を消失させました。この患者さんは後遺症なく、術後10日目に無事自宅へ退院されました。

開頭クリッピング術もコイル塞栓術も健康保険が適用される手術ですので、自己負担は入院医療費の1~3割となります。さらに、高額療養費制度の利用を申請していただくことで、最終的な自己負担額は10万円以下となることが多いようです。

先方提供
未破裂大型脳動脈瘤の治療例
先方提供
脳神経外科の手術室設備と手術支援機器

脳動脈瘤の治療には、手術用顕微鏡、術中神経モニタリング装置などの手術支援機器が必要になります。特に治療困難な脳動脈瘤の治療ではそのような手術支援機器や設備がとても重要です。当院では、手術用顕微鏡、術中神経モニタリング装置、術中ナビゲーションシステム、神経内視鏡(脳の中の直接見ることができない構造物を、脳の隙間から様子をモニターに映し出して見る内視鏡)といったさまざまな手術支援機器や、開頭手術と血管内治療を同時に行うことができるハイブリッド手術室も有しています。術中神経モニタリング装置は、神経細胞の活動やそれによる手足の動きによって発生する電気信号を検知し、術中操作による脳神経への障害がないかどうかをリアルタイムに執刀医に知らせてくれる装置です。

術中ナビゲーションシステムは、術中に、現在どこを操作しているのか、どの方向に進めば病変に到達できるのか、といった情報や、神経や血管などの構造物の位置、病変の場所などをリアルタイムに正確に表示してくれるシステムです。カーナビをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。

また、治療困難な脳動脈瘤の治療ではしばしば、開頭手術と血管内治療を組み合わせたハイブリッド手術を行うことがあります。開頭手術を行うと同時に血管内治療も行い、その治療効果を術中血管撮影で脳動脈瘤の中へ流れ込む血流の状態をリアルタイムに確認することができます。こうした治療を行うことができるハイブリッド手術室も備えています。

先方提供
脳動脈瘤の治療の様子

当院では、開頭手術と血管内治療、それぞれの利点を最大限活かすために、それぞれを専門とする医師同士で一つひとつの症例を十分にディスカッションして治療方針を立てています。これは夜間や休日の急患症例(くも膜下出血)でも同様です。たとえば、私は開頭手術(クリッピング手術や脳血管バイパスなど)を専門としていますが、私宛てに紹介していただいた患者さんに関しても、血管内治療による治療効果や安全性がどの程度あるのかについては、症例ごとに血管内治療を専門とするスタッフとよく話し合い、より安全性や根治性の高い治療を選択するとともに、どちらも高いレベルの治療が提供できるよう努めています。

当センターは、開頭手術も血管内治療も、24時間365日対応できるよう受け入れ体制を整えているのが特徴です。脳神経外科医は24時間常駐しており、近隣の病院や救急隊からホットラインを通じて患者さんを受け入れています(2023年5月現在)。

脳動脈瘤の治療は、病気や治療に対する患者さんの不安を取り除くことから始まっていると私たちは考えています。病気の状態はもちろん、抱える不安や悩みも一人ひとり異なるため、患者さんと向き合って一緒に考え、乗り越えていくことを大切にしています。より安心して治療を受けていただけるように努めていますので、気になることがあれば遠慮なくご相談いただければと思います。

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  • 埼玉県立循環器・呼吸器病センター 脳神経センター長/脳神経外科科長/脳卒中センター長

    吉川 雄一郎 先生

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