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転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療とは? マスクシステムの特徴とともに解説

転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療とは? マスクシステムの特徴とともに解説
中村 文 先生

熱海所記念病院 脳神経外科

中村 文 先生

目次
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体にできたがんが脳に転移して起こる転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)では、ガンマナイフと呼ばれる放射線照射装置を用いた治療(ガンマナイフ治療)を行う場合があります。ガンマナイフ治療は、腫瘍にピンポイントに放射線を照射することで高い効果が期待できる治療法です。近年は、マスクシステムを導入した装置が登場したことで局所麻酔が不要となり、患者さんの体の負担をさらに軽減できるようになりました。

今回は、熱海所記念病院 脳神経外科 中村 文(なかむら あや)先生に、ガンマナイフ治療の特徴から今後の展望までお話を伺いました。

ガンマナイフ治療は、ガンマナイフを用いて腫瘍にピンポイントに放射線を照射する定位放射線治療の1つです。定位放射線治療の装置にはさまざまなものがありますが、ガンマナイフは頭部の治療専用の装置である点が特徴です。

200本近いビーム(放射線)を腫瘍に集中的に照射するため、高い治療効果が期待できます。1本1本の線状のビームは線量がとても小さいので、途中ビームは脳を貫きますが、脳組織への影響は少ないのです。

MN撮影
熱海所記念病院のガンマナイフ

患者さんやご家族からは、ガンマナイフ治療が可能な回数や、対象となる腫瘍の個数について質問されることが多いです。基本的には、照射する場所が違う場合は、何回でも治療が可能というお話をさせていただいています。一方で、同じ病変(再発など)に対しては、ガンマナイフによる照射は2〜3回が限度と考えています。

また、基本的に小さな腫瘍が多発している場合はガンマナイフ治療のよい適応になります。腫瘍が小さければ、10個以上であっても治療を行うことが可能です。腫瘍が多数ある場合は、腫瘍の個数よりも腫瘍の体積の合計が判断軸と考えます。小型の腫瘍であれば10〜15個でも治療は問題なく進められますが、2〜3cmという比較的大きな腫瘍が5〜6個あるような場合には、合計した腫瘍体積が大きくなるので治療しづらくなるのです。

当院では、腫瘍が20個を超えている場合は複数回に分けて治療することもありますが、基本的に20〜30個以上の多発している場合には、全脳照射についてもお話しさせてもらっています。また、がん細胞が脳脊髄液(のうせきずいえき)の中にばら撒かれる髄膜播種(ずいまくはしゅ)という状態を生じている場合も、ピンポイントに照射することが難しくなるため全脳照射の選択となるケースが多いです。ただし、全脳照射は原則として生涯に一度しか行うことができない治療法なので、タイミングについては十分な検討が必要になります。

なお、ガンマナイフ治療の対象となるのは、一般的に直径3cmまでの腫瘍といわれていましたが、マスクシステム導入後は多分割照射での治療がガンマナイフでも可能となったため、それ以上の大きさの腫瘍に対しても治療を行っています。ただし、大きな腫瘍では、脳の表面など手術が可能な場合には、ガンマナイフ治療よりも手術のほうが適していると判断するケースもあります。

放射線障害として腫瘍の一過性膨大や放射線壊死(えし)(正常な脳組織が死滅してしまう状態)が起こることもあるため、ガンマナイフ治療を行うかどうかについては慎重な判断が必要だと考えています。

ガンマナイフ治療では、腫瘍にピンポイントに放射線を照射するために頭部を固定する必要があります。そのため従来のガンマナイフでは、頭部を固定するために患者さんにフレームを装着していただき治療を行っていました。

MN
フレーム固定のイメージ

フレームを装着する際は頭皮に4箇所局所麻酔をかけたうえで、専用のピンで頭部にフレームを装着します。当院では現在、可能な限り照射のずれをなくしたい場合や、何らかの理由で患者さんがじっとしていることが難しい場合などにフレーム固定によるガンマナイフ治療を行っています。

このような従来のフレーム固定に加えて、“マスクシステム”を導入したガンマナイフ治療も登場しています。マスクシステムとは、患者さんごとに専用のマスクを作成し、そのマスクで顔面を覆って頭部を固定する方法です。従来のフレーム固定と異なり、局所麻酔の使用や頭部へのピン固定が不要となったため患者さんの負担が軽減されたといえます。

専用マスク(先方提供)
専用マスク

患者さんの中には、過去に腫瘍摘出の手術を受けて頭部にプレートを入れている方や一部頭蓋骨が欠損している方もいらっしゃいます。このような場合は、フレーム装着のために頭部にピンを打つことが難しいこともあるため、マスクシステムが非常に役に立ちます。また、マスクシステムでは、分割照射(放射線を数回に分けて照射すること)が可能となります。サイズの大きな腫瘍に対してもマスクシステムによる分割照射で治療を行えるようになったため、治療の選択の幅がとても広がりました。

転移性脳腫瘍の治療では、近年、薬が大きく進歩しました。このように治療に変化があったことで、転移性脳腫瘍の患者さんの予後は改善していると感じます。昔と比べて患者さんが長生きされるようになったのです。このため、ガンマナイフ治療も含めて、より長期的な治療プランを立てることが望ましいと思っています。今後は、より将来的な予後を見通して、薬物療法とガンマナイフ治療を組み合わせた治療や、手術とガンマナイフ治療を組み合わせた治療を行う例もさらに増えるでしょう。

また、海外ではパーキンソン病強迫性障害への治療にもガンマナイフが用いられています。日本では、現状ではいずれの病気も保険適用によるガンマナイフ治療は行われていませんが、今後さらにこれらの病気をはじめとするさまざまな病気に適応が広がることを期待しています。

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