概要
クリプトスポリジウム症とは、寄生虫の一種であるクリプトスポリジウム原虫に寄生されることによってかかる病気で、動物からヒトへ、ヒトから動物へ伝播する人獣共通感染症です。ヒトからヒトに感染することもあります。
環境中に存在するクリプトスポリジウム原虫のオーシストと呼ばれる嚢胞体を口から摂取することで感染し、感染すると数日間の潜伏期間を経て、水様の下痢、腹痛、吐き気・嘔吐などの症状が出現します。
健常者の場合、このような症状は数日から2~3週間で軽快しますが、エイズなどの免疫不全状態にある場合には難治性の重症の下痢を起こし、死に至ることもあります。
クリプトスポリジウム症は世界中でみられ、感染率はおおまかに先進国で1~4%、発展途上国で10~30%とされ、日本においては年間10例前後が報告されています(集団感染を除く)。
原因
クリプトスポリジウム症の主な感染経路は経口感染です。クリプトスポリジウムの虫体を含む人間や動物の糞便で汚染された水や食品を摂取したり、汚染された土や物に触れたり感染した人や動物と接触したりして、虫体が口の中に入ることで感染します。また、男性間の性的接触も感染の原因となります。
時に集団感染を起こしますが、これは水系汚染によるものです。自然界においてクリプトスポリジウムはプールや湖、河川などによくみられ、飲み水やプールに使用する通常濃度の塩素に抵抗性があるほか、冷凍しても死滅することはありません。そのため、特に水道水やプールを汚染源とした集団感染につながります。
なお、自然界ではクリプトスポリジウムはオーシストと呼ばれる嚢胞体の形態で存在し、経口摂取によって腸管に入ると腸管上皮細胞の微絨毛で増殖します。そして、便と共にオーシストが排出され、新たな感染源となります。
症状
クリプトスポリジウムの虫体を経口摂取した後、典型的には5~7日以内に水様の下痢で発症します。下痢の程度はさまざまで、1日数回のこともあれば20回以上の激しい下痢がみられることもあります。
発熱、腹痛、吐き気・嘔吐、関節痛などの症状を伴うこともありますが、その一方で、まったく症状がない人もいるなど、症状の出方や程度は人によって異なります。
このような症状は、特別な治療を行わなくても通常2~3週間で軽快し、自然に治癒します。しかし、エイズなどの免疫不全状態にある人では下痢が遷延しやすくなります。また、重症例では大量の水様便と失禁を伴い、脱水によって死に至ることもあります。
検査・診断
クリプトスポリジウムが寄生すると糞便中に虫体が排出されるため、便検査によって存在を確認します。消化管内視鏡粘膜生検によって発見される場合もあります。
治療
免疫が正常な人では、特別な治療を行わなくても経口補水液を用いて脱水にならないよう注意していれば自然に治ります。
そのため、病院で行う治療としても対症療法が中心で、経口補水液の投与に加え、必要に応じて消化管の動きを抑える鎮痙剤や、激しい下痢がある人に対して止瀉薬が用いられます。
エイズなど免疫不全者で下痢が長期間続いている場合には、抗原虫薬のパロモマイシン硫酸塩による3週間の経口投与を行います。国内では未承認ですが抗原虫薬のニタゾキサニドが用いられることもあります。
予防
クリプトスポリジウム症は、感染者の糞便中に含まれる虫体が口に入ることで感染します。そのため、不衛生な食品を避ける、家畜などに触ったらよく手を洗う、プールの水は飲み込まないなど、虫体の口への侵入を防ぐ取り組みが大切です。
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