インタビュー

ハンセン病の原因-原因の細菌に感染したら必ず発症する?

ハンセン病の原因-原因の細菌に感染したら必ず発症する?
石井 則久 先生

国立療養所多磨全生園 園長

石井 則久 先生

この記事の最終更新は2018年03月06日です。

ハンセン病とは、らい菌と呼ばれる細菌に感染することで起こる感染症です。ハンセン病を発症すると、皮膚の発疹や手足の麻痺、痛みや熱さを感じにくくなる知覚障害などの症状が現れます。

しかし、らい菌に感染したら必ずハンセン病を発症するわけではありません。

今回は、国立療養所多磨全生園 園長(前 国立感染症研究所ハンセン病研究センター長)である石井 則久先生に、ハンセン病の原因と、どんなときにハンセン病を発症するのかお話しいただきました。

ハンセン病とは、抗酸菌(こうさんきん)と呼ばれる細菌の一種である、らい菌に感染することで発症する感染症です。

ハンセン病を発症すると、主に皮膚に発疹ができ、手足の麻痺、痛みや熱さを感じにくくなる知覚障害などが現れます。

らい菌は感染力が弱く、さらに、病気を発症させる力も弱い細菌です。また、他の細菌と比べ、増殖が遅いという特徴があります。

らい菌は、低温部である人の皮膚や末梢神経(運動神経、感覚神経、自律神経などから成り立ち、脳や脊髄からでて全身に分布している神経)を好み、住みつくといわれています。全身にある末梢神経のなかでも、手や足、顔の神経が菌におかされることが多いでしょう。

お話ししたように、らい菌は感染力が弱い菌です。このため、接近した状態でなければ、感染は起こらないと考えられています。

らい菌の感染は、主に未治療の感染者からの呼吸器感染です。くしゃみなどをしたときに飛沫(ひまつ:しぶき)として体の外にだされ、他の人の体に入り感染が起こります。特に、鼻の粘膜に菌が入り、そこから全身に広がることが多いと考えられています。

しかし、全身に菌が広がる過程で、ウイルスや細菌などから体を守るために備わっている免疫力によって、多くの人は菌を排除することができるといわれています。

らい菌は、免疫機能が発達していない乳幼児期に菌にさらされることで感染しやすくなるといわれています。たとえば、すでにらい菌に感染している家族から感染するケースが多いと考えられています。

らい菌に感染したからといって、すべての人がハンセン病を発症するわけではありません。らい菌に感染したとしても、実際に発症する人は少ないといわれています。

お話ししたように、らい菌は病気を発症させる力の弱い細菌です。このため、多くのケースでは、ウイルスや細菌などから体を守るために備わっている免疫力によって、菌を排除することが可能です。

らい菌が体内で生き続けたとしても菌が活動することは少なく、症状が現れることもまれといってよいでしょう。

ハンセン病の発症には、周囲の衛生環境や栄養状態などが影響します。現代の日本のように衛生的で十分な栄養がとれる社会では、感染したとしてもハンセン病を発症することはまれです。たとえ菌が体に入ってきたとしても、排除できるだけの免疫力を備えている場合が多いからです。

しかし、感染後に加齢や、何らかの病気の発症をきっかけに免疫力が低下すると、体内のらい菌が活動をはじめ、発症につながることがあります。

らい菌は、感染し発症するまでの潜伏期間が長い点が特徴です。数年から10数年というケースもありますし、近年の日本では数10年の潜伏期間を経て発症するケースもみられます[注1]

治療を受けているハンセン病の患者さんから、らい菌が感染することは、まれと考えられています。それは、治療によって、体のなかのらい菌がすでに感染力を失っている場合が多いからです。

また、ハンセン病は遺伝する病気ではありません。しかし、らい菌の感染には、発症しやすい体質かどうかが多少関係すると考えられています。同じような生活環境であっても発症する人としない人に分かれるのは、体質が多少関係している可能性があると考えられているのです。

国立感染症研究所によると、日本では1993年から2017年までの間に、毎年数名のハンセン病の新規患者さんが確認されています[注1]。この数名には、日本人だけではなく、在日外国人も含まれています。

近年、日本人でハンセン病を発症する方の特徴は、高齢であるということです。お話ししたように、日本のように衛生環境が整備され栄養が十分にとれる人が多い国では、体に備わっている免疫力が機能するため発症することはまれです。

しかし、高齢とともに免疫力が低下すると発症につながってしまうのです。このため、近年の日本人の発症者は高齢者が多いと考えられています。

注1:国立感染症研究所「ハンセン病 医療関係者向け

日本だけでなく世界中で、ハンセン病の患者さんに対する偏見や差別の歴史があります。

昔はハンセン病の治療法が確立されていなかったために、重症化する患者さんが少なくありませんでした。たとえば、皮膚症状に加え、手足や顔に変形が起こる患者さんもいたのです。

手足や顔など人目につきやすい部位に病変が起こり、さらに重症化したことが「治らない恐ろしい病気」という印象を与え、偏見や差別につながったと考えられています。

また、国は「らい予防法」という法律をつくり、ハンセン病の患者さんを強制的に療養所に入所させました。しかし、これもまた「ハンセン病は隔離しなければならないほど恐ろしい病気である」というような誤った意識につながってしまったといわれています。

その後、ハンセン病療養所は、1996年のらい予防法の廃止によって入所の必要がなくなりました。さらに、ハンセン病の治療は保険適用となり、病院に通院し治療を行うことができるようになったのです。

石井先生

お話ししたように、ハンセン病は、現代の日本では感染・発症ともに非常にまれな病気です。さらに、記事2『ハンセン病の症状と治療』で詳しくお話ししますが、2018年現在、ハンセン病は「治療によって治る病気」でもあります。それは、有効な治療法がすでに確立されているからです。

私は、病気に対する偏見や差別が繰り返されることがないよう、ハンセン病の正しい知識が伝わるよう啓発の活動にも力を入れています。多くの方に、ハンセン病は「治療によって治る病気」であるということを理解していただきたいと思います。

記事2『ハンセン病の症状と治療』では、ハンセン病の症状と治療についてお話しします。

  • 国立療養所多磨全生園 園長

    日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医

    石井 則久 先生
    • 皮膚科
    • ハンセン病
    • 疥癬
    • 皮膚抗酸菌感染症
    • 皮膚結核

    日本では年々減少しつつあるハンセン病の診断や治療、医学教育のほかにも、ハンセン病に対する偏見を持つ人がひとりでも少なくなるようサポート体制を整える。東南アジアやアフリカなどの開発途上国におけるハンセン病の制圧にも注力している。皮膚疾患のひとつである疥癬に対して、ガイドライン作成や治療方法の普及など積極的に取り組んでいる。

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