概要
胸郭出口症候群とは、上肢や肩の運動および感覚に深くかかわる神経や血管が障害を受け、肩、腕、手のしびれや痛み、手の動かしにくさなどを自覚するようになる状態です。肩こりとして自覚されることもあります。
胸郭出口症候群はなで肩の女性に多くみられますが、筋肉を鍛えた男性に発症するタイプもあります。発症には日常生活に関連した動作にも関与していることから、規則正しい健康的な生活スタイルを確立することが重要といわれています。自覚症状が強いにもかかわらず、周囲に理解されにくく、当事者が困惑することもある病気の1つです。
原因
首には食道や気管、神経や血管、筋肉など多くの組織が密集しています。腕を司る神経や血管は、胸郭出口と呼ばれる部分を通って、首から目的地である腕に向かって走行しています。胸郭出口を通過する重要な神経として腕神経叢があります。また、主要血管として鎖骨下動脈や鎖骨下静脈があります。
神経や動脈の圧迫
胸郭出口にはいくつかの物理的に狭い空間が存在しており、こうした場所で神経や動脈が圧迫されることがあります。神経や動脈が胸郭出口で圧迫されることで、胸郭出口症候群が発症します。胸郭出口の狭窄部位としては、3か所知られています。
首から腕に向かって順に、以下のとおりです。
- 斜角筋と呼ばれる首の筋肉で構成される部分
- 鎖骨と肋骨の間
- 胸の筋肉である小胸筋と肩甲骨との間に構成される部分
こうした狭窄部位で神経や動脈が圧迫を受ける可能性が高く、それぞれ斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群といった名称がつけられており、これらを総称して胸郭出口症候群といいます。
頚肋
神経や血管が物理的な圧迫を受けて生じる胸郭出口症候群ですが、なかには、頚肋と呼ばれる先天的な肋骨の遺残物が残っていることが原因で発症することもあります。頚肋が存在すると、腕神経叢や鎖骨下動脈がよりいっそう圧迫を受けやすい状況になるため、胸郭出口症候群が発症します。
その他
胸郭出口症候群は長時間、悪い姿勢で座っていたりすると発症しやすくなると考えられています。また、なで肩であることや、重いものを持つ習慣も発症に関連します。
症状
胸郭出口症候群は、いわゆる肩こりとして自覚されることがあります。腕や手に分布する神経や血管が圧迫されることで発症するため、神経症状として首や肩、腕にしびれやちくちくする感覚、刺すような痛みを覚えることがあります。
神経症状はさらに手先や体幹にもみられることがあります。神経障害が持続すると、筋力の低下も現れ、それに随伴して運動機能にも影響が生じます。具体的には、手の握力の低下、巧緻性の低下(指先が不器用になる)などです。
血管の症状としては、血行の悪化から皮膚が白くなったり、青紫色になったりします。血行障害で痛みや感覚障害が誘発されることもあります。
検査・診断
胸郭出口症候群では、身体診察における検査が重要です。具体的には、以下の3つが代表です。
- アドソンテスト
- ライトテスト
- エデンテスト
いずれのテストも、神経や血管が圧迫されやすい体勢をとることから、圧迫に関係した症状の誘発を確認します。たとえば、アドソンテストでは、鎖骨下動脈の圧迫を誘発されるように首を動かした状態で深呼吸を行い、手首の橈骨動脈の脈が弱くなるかどうかを確認します。
また、胸郭出口症候群では、胎生期の異残物である頚肋に関連して病気が発症していることもあります。頚肋の有無を確認するために、頚部のX線検査を行うこともあります。また、頚椎疾患との鑑別のために頚椎のMRI撮影を行うことがあります。
治療
治療では、発症予防と保存療法が中心となります。姿勢の悪さが胸郭出口症候群を誘発することがあるため、良好な姿勢を保ちます(なるべく猫背を避けます。ときに装具を使用することもあります)。また、重いものを持ち上げることも要因であるため、可能な限り重いものを持たないようにします。さらに、睡眠不足やストレスとの関連性も指摘されており、規則正しい生活スタイルを確立することが重要です。以上のような予防策に加えて、症状が現れているときには消炎鎮痛剤などの対症療法薬を使用することもあります。肩周辺の筋肉のストレッチやトレーニングも有効です。
胸郭出口における神経や血管に対しての物理的な圧迫が強い場合には、手術療法を選択することもあります。筋肉の腱を切除したり、肋骨の一部を切除したりすることで、物理的な空間を広げます。頚肋が原因となっている場合には、頚肋を切除することもあります。
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