DOCTOR’S
STORIES
後悔と反省を繰り返しながら、無輸血外科治療に取り組む川元俊二先生のストーリー
私は山口県宇部市の山間部の出身で、父はその地域の開業医でした。その田舎はいまだに過疎化の進む地域で、今でいう総合診療医のような、総合的に診療することができる医師が必要とされていました。
過疎化が進む地域で、父は内科医でありながら骨折の患者さんにはギプスをしたり、夜中であっても盲腸の患者さんが来たら手術をしたりもしていました。手術の患者さんが多い日には入院設備が足りずに、翌朝私が目を覚ますと隣に患者さんの家族が寝ていることもあったくらいです。父は地域の方々や患者さんに真摯に向き合っており、夕方には往診に行くことを日課にしていました。
父は内科、私は外科で分野は違いますが、父の総合的に診療をする姿勢、さらには地域の方々や患者さんに真摯に向き合う姿勢を尊敬していました。幼い頃から医師として働く父を間近で見てきた私が、将来医師を目指すことは必然的な流れであったと思います。
私は、今でこそ無輸血外科治療に注力していますが、もともと専門としていたのは肝臓の分野でした。学生の頃から肝臓の分野に興味があり、卒業後には外科医として臨床で2年間、さらには大学院へ通い、そのなかで肝臓移植に興味を持ちました。そして、肝臓移植が進んでいたオーストラリアへ留学しました。
無輸血外科治療に興味を持ったのは、その肝臓移植を学ぶために訪れたオーストラリアでの出来事がきっかけでした。最初に無輸血外科治療を知ったとき、輸血を大量に必要とすることが多い肝臓移植に慣れていた私には無縁の治療だと思いました。しかし、実際にエホバの証人の方から、宗教上の理由で輸血を伴う治療が受けられないことに対するつらい心情を聞き、無輸血外科治療に興味を持つようになりました。肝臓移植を学びに行った先で、まったく無縁の無輸血外科治療に出会い専門分野にする。人生とは本当に何があるか分からないものです。
私が無輸血外科治療を行っている理由は、輸血によって生じる感染症やアレルギー反応の予防、さらには宗教上の理由などから、輸血ができない患者さんを何としてでも救いたいと思ったからです。そのように、さまざまな理由により輸血を受けられない患者さんの中には、手術をすれば治る可能性がある患者さんもたくさんいます。そのような患者さんが「輸血ができない」という理由で、亡くなってしまうことは避けたかったのです。
私が患者さんに治療を提供するうえで大切にしていることは、患者さん自身に本来備わっている代償能力や治癒能力を最大限に活かすことです。
外科医である私は、外科手術を中心にした治療を提供しています。外科手術では患者さんの状態に応じて開腹を行ったり、病巣を切除したりするため、患者さんの体に対して侵襲を加えていることになります。患者さんの体に侵襲が加わる治療を行ううえで、患者さん自身の代償能力や治癒能力を妨げることのないように、むしろそれらの能力がより発揮されるように、日々の治療を心がけています。
無輸血治療外科とは、まさにこうした患者さんの体の代償能力や治癒能力を活かす治療だということが、この経験を通して分かったのです。
私には、患者さんと接するときに心がけていることが2つあります。
1つ目は、患者さんに恐怖心を与えないことです。外科医として患者さんに接していくうえで、患者さんに対して病気や手術の内容について説明する機会があります。一人ひとりの受け取り方は違うということを常に考え、患者さんに応じて伝え方を工夫するようにしています。
2つ目は、患者さんから求められる医療を提供するということです。たとえば、万能であると言われている薬があったとして、私がすすめても患者さんがその薬を選択しないのだとすれば、患者さんにとってよい治療ではないと考えています。それは、「患者さんの求める医療を提供する」という考え方は、無輸血外科治療や治療においても同じではないかと思います。
私が医師になってよかったと思えるのは、患者さんが病気から解放されたときです。
病気から治るまでの過程には、患者さんにとっても、医師にとっても、さまざまな困難が伴います。特に患者さんは、手術後に、もどかしさや痛みに耐えなければいけないこともあるはずです。そのなかで、つらい治療や期間を乗り越えようと頑張っている姿を見ると、私自身も頑張らなくてはと感じます。
また、患者さんと共に治療を乗り越えていくなかで、私がなにより後押しされるのは、患者さんの「何としてでも治りたい」という強い気持ちです。「何が何でも絶対に治りたい。治してほしい」という強い気持ちを持っている患者さんを見ると、私も一段とその気持ちに応えなくてはという思いが強くなります。そして、患者さんの病気が治ったとき、「この患者さんを救えてよかった」と心から思います。
医師を続けるうえで原動力になっているのは、患者さんの手術を終えての後悔や反省だと思います。
医師として、さらには外科医として今まで数々の手術を行ってきましたが、手術が成功しても「もう少しこうしておけばよかった」や「次はこうしよう」などの後悔や反省が尽きることはありません。また、私自身の手技に満足することもありません。それは、医療は永遠に不完全なものであり、手術が成功していると思われるなかでも、さらによりよい状態に治したいという強い気持ちによって後悔や反省が生まれるからです。このことが私のモチベーションや向上心となって、よりよい治療を目指すことにつながっていると思います。これからも、後悔や反省を続けながら、1人でも多くの患者さんを救うために尽力していきます。
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