私たちの体を維持するために重要な役割を担う血液。手術や外傷などによって体内の血液が失われると、献血者から採血した血液をもとに同種血輸血が行われることがあります。一方、PBM(Patient Blood Management;患者中心の輸血医療)に基づく治療では、「自分自身の血液を有効に活用する治療プログラム」が採用されます。
ASPBM (Asian Pacific Society for Patient Blood Management)は、PBMをアジア全体に広めることを目指して設立された学術団体です。来たる2019年10月12日(土)、日本で初となるPBMの国際シンポジウムが開催されます。今回は、「第5回ASPBM東京国際シンポジウム2019」の大会会長である湘南厚木病院 無輸血治療外科の川元俊二先生に、本シンポジウムに向けた抱負をお伺いしました。
PBM(Patient Blood Management;患者中心の輸血医療)とは、不必要な同種血輸血*を極力避ける治療概念です。
酸素を全身に運ぶはたらきのある血液は、私たちの体を維持するために重要な役割を担っています。そのため、手術や外傷などによって体内の血液が失われる場合には、失われた血液を補うために同種血輸血が行われることがあります。
一方、PBMに基づく治療では、同種血輸血ではなく「自分自身の血液を有効に活用する治療プログラム」が採用されます。具体的には、自己の赤血球を増やし、失血を最小限にとどめる手術を行ったうえで術後貧血の管理を行い、体内の血液を温存する治療プログラムを実施します。
*同種血輸血:献血者から採血した血液を使用して作られた血液製剤を用いた輸血
PBMに基づく治療は、同種血輸血による感染症やアレルギー反応の抑制につながるといわれています。さらに、患者さんのなかには、宗教上の理由から同種血輸血を行うことができない方もいらっしゃいます。このような患者さんに対しても、同種血輸血を避けるPBMに基づく治療であれば対応が可能な例もあります。
また、今後、日本では少子高齢化によって献血の不足が予想されています。私は、PBMが広まることで献血の不足を補うとともに、本当に必要とする患者さんに同種血輸血を届けることができると考えています。たとえば、交通事故の外傷などでは、大量の輸血が必要となるケースもあります。PBMが広がることで同種血輸血を行う機会を減らすことができれば、本当に必要とする患者さんに輸血を行うことができるようになると考えています。
ASPBM (Asian Pacific Society for Patient Blood Management)とは、PBMをアジア全体に広めることを目指して設立された学術団体です。これまで、ASPBMによる国際シンポジウムは、韓国、中国、マレーシアで開催されてきました。私自身も、これまでに同シンポジウムで講演を行ったり、各国の医師と情報交換や交流をはかったりしてきました。
そのようななか、2019年、ついに日本で初となるASPBM国際シンポジウムの開催が決定したのです。
今回の第5回ASPBM東京国際シンポジウムのテーマは“PBM〜Expanding Frontiers〜”です。「拡大する」という意味のある“Expanding”。このテーマには、「PBMという治療概念をアジアにさらに広めていく」という強い思いが込められています。
私は、安全な治療を行うよう配慮しながら、PBMに基づく治療の適応を拡大していきたいと思っています。治療の適応を拡大するためには、各診療科同士の連携、多職種間の連携が必要です。PBMに基づく治療は、外科医のみならず、麻酔科の医師など、さまざまな診療科の医師が関わらなければ実現することができません。さらに、医師だけでなく、看護師、検査技師、臨床工学技士、栄養士など、多職種の医療スタッフが一丸となり治療にあたることが大切です。
今回の国際シンポジウムは、このような各国の連携の現状を知る機会にもなるでしょう。本シンポジウムをきっかけに、診療科同士あるいは多職種間の連携が進むことを期待しています。
本シンポジウムには、PBMに基づく治療に積極的に取り組んでいらっしゃるAryeh Shander教授をはじめ、約20名の講演者を世界各国から招待しています。また、日本でPBMに基づく治療を精力的に行っている医師も登壇する予定です。PBMに基づく治療の世界各国の現状を知っていただき、PBMを広めるために何ができるか、議論したり考えたりする機会にしてほしいと思っています。
本シンポジウムの講演の多くは、英語で行われるため、同時通訳を入れる予定です。また、一部ですが、日本語から英語、韓国語、中国語の通訳も行う予定です。
同時通訳は、スマートフォンとイヤホンを持参されると視聴することができます。同時通訳を利用したい方は、ぜひスマートフォンとイヤホンをご持参ください。
私は、今回のシンポジウムをきっかけに、日本でもPBMを広めていきたいと考えています。それは、PBMが患者さんの負担の軽減につながると信じているからです。
PBMは、自分自身の血液を有効に活用する治療概念です。PBMに基づく治療プログラムでは、患者さんご自身の血液を大切に管理することで、長期的な健康を目指すことができると考えています。
また、医療従事者のみならず、一般市民の皆さんにも本シンポジウムにご参加いただき、PBMから得られるメリットを知っていただきたいと思っています。それは、どんな治療も、患者さんからのご希望がなければ行うことができないからです。価値観や生き方が多様化した社会では、医療の選択肢も多様化してきています。PBMという概念を知ることで治療の選択肢を増やし、よりよいと考える治療を自ら選択するきっかけになることを願っています。
【開催概要】
・日程:2019年10月12日(土)
・時間:8時45分(8時20分 受付開始)〜17時20分
・同時通訳:
同時通訳(英語→日本語、日本語→韓国語、日本語→中国語)が行われます。
スマートフォンとイヤホンを持参されると視聴できます。
・会場:
東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール (東京大学赤門口入り右横)
住所:東京都文京区本郷7-3-1
・参加費:
6,500円 (9月13日以降に事前登録をされた方)
6,500円 (当日ご来場の方) ※事前登録不要
2,000円(学生)
湘南厚木病院 肝胆膵外科 無輸血外科治療外科 部長
湘南厚木病院 肝胆膵外科 無輸血外科治療外科 部長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医
輸血を受けられない患者さんの声から無輸血外科治療の道へ
1983年に熊本大学医学部を卒業後、消化器外科医としてのキャリアを歩み始める。肝臓移植を学びたいとの思いから、オーストラリアへ留学。当地でエホバの証人の方から、「宗教上の理由により輸血が受けられない」という話を聞いたことがきっかけで、無輸血外科治療に興味を持つ。1996年からは、福岡徳洲会病院にて、宗教上の理由や様々な免疫反応、感染症の予防的観点から輸血を希望しない患者さんに対して、無輸血外科治療の実践を開始する。現在は、湘南厚木病院の肝胆膵外科にて無輸血外科治療を提供している。
川元 俊二 先生の所属医療機関
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