DOCTOR’S
STORIES
日々の診療においても研究の視点を忘れず、治療に向き合う林毅先生のストーリー
いつも、「患者さんのための医療を提供したい」という思いで
「患者さんのための医療」を提供する医師であり続けるには、医師としての知見を常に磨かなければなりません。つまり、病気や治療の知識を、常に最新の状態にアップデートし、そのときどきで最善の治療を提供できるようにする必要があるのです。
患者さんの価値観や生活スタイルに応じた治療を行うことも、重要だと考えています。たとえば、「大好きな部活を辞めたくない」「旅行は生きがいなので諦めたくない」とおっしゃる患者さんがいれば、可能な限りその方の希望を叶えられるように、治療内容を検討します。このように、患者さんが望んでいることは何かをよく相談したうえで、その患者さんにとって最善と思われる治療を提供できれば、「患者さんのための医療」は実現すると信じています。
横浜市立大学附属病院に勤務していた頃、後輩に「この患者さんを診てください」と呼ばれました。彼は、患者さんの問診をしているときに、何やらおかしいと感じながらもその原因が分からず、私を呼んでくれたそうです。
早速その患者さんを診察してみたところ、数時間前に問診で得た所見よりも麻痺(まひ)が進んでいました。診察の結果から、私は転移性の脊椎腫瘍を疑いました。転移性の脊椎腫瘍は、症状が進行すると、完全麻痺(損傷された脊髄より下部の運動機能や感覚機能が消失した状態)に陥る可能性がある病気です。そのため、可能な限り早い治療が必要と判断し、同日中に緊急手術を実施しました。
その後、患者さんは自力で歩ける状態まで回復することができました。あのときすぐに緊急手術すべきだと判断し、無事に手術を実施することができて、本当によかったと思います。治療後、その患者さんは「林先生には足を向けて眠られないや。本当にありがとうございました」とおっしゃいました。このようなお言葉をいただくとき、医師としてのやりがいを強く感じます。
もう1人は、当院の外来にいらっしゃった患者さんです。診察の際、胸部にしこりがあることに気づき、なぜだか嫌な予感がしました。診察の結果、なんらかの腫瘍を疑い、なるべく早く精密検査を行うために、患者さんを近隣のCT検査のできる急性期病院に紹介しました。
あとから聞いた話によると、精密検査の結果から、悪性リンパ腫が進行し、縦郭(胸部の左右肺と胸椎、胸骨に囲まれた部分)の中に大きな腫瘍があることが分かったそうです。その患者さんは、その後治療を行って寛解しました。「あのとき、林先生に腫瘍を見つけてもらってよかったです。本当にありがとうございました」とおっしゃり、今でも元気に当院に通院されています。
私は整形外科医ではありますが、診療において整形外科の領域だけを診るのでは、医師として不十分だと思っています。専門領域以外の部分を含めて全体的に患者さんを診ることで、そのとき本当に必要な医療、つまり、「患者さんのための医療」を提供できると考えます。
ただし、自分だけで全ての治療を提供することはできません。そのため、当院で提供できない治療が必要なときに、適切な医療機関に患者さんを紹介できるよう、近隣の病院との連携を図り、信頼関係を構築する努力を欠かしません。
私は、中学・高校時代を、神奈川県の栄光学園中学・高等学校で過ごしました。栄光学園はカトリックの修道会であるイエズス会を運営母体とする中高一貫校です。教育理念のなかに、「他者のために、他者とともに生きる」「いまここで私に与えられた能力や立場を最大限にいかす」という考え方があり、倫理の授業などを通じてさまざまな影響を受けました。
このような背景があり、自分の利益よりも、社会への貢献を追求するという価値観が、私の中に少しずつ形成されたようです。私が医師を志した原点は、このような価値観の形成にあると認識しています。
幼い頃から手先が器用だったこともあり、医学部に入る頃には、「将来は外科の方面に進みたい」と心に決めていました。
医学部時代、さまざまな分野の外科を学ぶなかで、腰野富久先生(横浜市立大学 整形外科3代目教授)の骨切り術などを拝見して、整形外科に強い興味を抱きました。整形外科における治療の特徴は、手術を担当する術者の技量が、結果として目に見える形であらわれること、そして、患者さんの満足度にも直結することです。自らの技術の成果をはっきりと実感できるため、シビアな世界ではありますが、私にとっては、「プロフェッショナルを追求するなら、整形外科だ!」と魅力的に感じました。
日々の診療のなかで気になったことや疑問を持った点については、研究によってその事象や背景を明らかにし、さらに、得られた研究結果を学会や論文を通じて発表することを心がけています。
大学病院に勤務していた頃や米国留学時代には、炎症による関節軟骨の破壊・防御メカニズム、関節炎の発症メカニズムをはじめとして、さまざまな研究を行ってきました。さらに、当院を開業してからも、乳がん手術後のホルモン療法と関節痛の関連性や、骨粗しょう症、痛風、ロコモティブシンドローム(運動器症候群:骨や関節、筋肉など運動器の衰えを原因として、運動器にかかわる機能が低下している状態)に関する研究と啓発活動を継続的に行っています。
診療のなかで、患者さんが困っていることに耳を傾ける。そして、既存の方法だけにとらわれず、よりよい治療を探求する。その積み重ねが、いつか、多くの患者さんを救うことにつながるかもしれません。私は、医師として、よりよい治療を探求する視点を常に持って診療にあたる姿勢を大切にしています。
1993年からの3年間、米国アーカンソー大学へ留学し、さまざまな研究をしました。この米国への留学が、医師としてのターニングポイントの1つだと思っています。
当時は独身だったこともあり、ほぼ全ての時間を研究に費やすことができました。目の前にある未知の事象を明らかにしたい。そして、より多くの患者さんを助けたい。そう強く思いながら、日々、研究室に通っていました。自分を留学へ送り出してくれた教室の方々や、受け入れてくれた留学先の方々の期待を裏切りたくないという気持ちも強かったように思います。
留学中は、ヒューゴ・E・ジェイソン教授のもとで、ひたすら研究に没頭しました。ジェイソン先生は、非常に頭の切れる先生で、そして研究に関して常に厳しい方でした。時折、彼が口にする「What‘s new ? Let me know.(何か新しいことを発見しましたか?研究の結果を教えてくださいね)」という言葉は、私にとって大きなプレッシャーであり、同時に、心を奮い立たせる栄養剤のようなものでした。
ジェイソン先生に鍛えられた探求心は、今でも私が大切にしている「日々の診療においても研究の視点を忘れない姿勢」の礎になったように思います。
2006年に、はやし整形外科を開業してから、13年間、まとまった休みを取らずに診療を続けてきました。休診日であっても、たまに、気づくと診察室で仕事していることがあります。忙しい日々ですが、苦にはなりません。結局のところ、患者さんを診る医師という仕事が好きなのだと思います。
実は、昨年、生まれて初めてインフルエンザにかかって数日間休診にしてしまい、患者さんに大きな迷惑をかけてしまいました。その出来事をきっかけに、ときどきは信頼する後輩の医師に代診をお願いして、休養を取ることにしました。
日々の診療に取り組みながら、長い間、心のなかに「世の中には、困っている患者さんがたくさんいる。そのような方々に適切な治療を提供したい」という思いがありました。その思いから、現在は日々診療を行う一般整形外科疾患のほかに、乳がん手術後に起こる関節痛や関節炎の難治例、膝関節の病気(変形性膝関節症など)、痛風と偽痛風などに関する疾患啓発に積極的に取り組んでいます。たとえば、乳がん手術後に起こる関節痛のなかには、薬剤の副作用によるものと加齢によるものがあり、両者を慎重に見極めることが適切な治療につながります。また、偽痛風は、痛風と症状が似ており、診断が難しいことがあります。そのように診断がつかず患者さんが苦しんでいるケースに対し、適切な診断・治療を受けられるように導くための活動を行っています。もし、これらの病気でお困りの方がいらっしゃれば、ぜひ一度、当院にいらしていただければと思います。
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はやし整形外科
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