DOCTOR’S
STORIES
自らの技術を磨き、若手医師を育て上げる環境作りにも取り組む藤川貴久先生のストーリー
京都大学医学部に入学した私は、体育会の野球部に入部し、学業だけでなく、スポーツにも熱心に取り組んでいました。当時の京大野球部といえば、関西学生野球連盟というリーグで万年最下位でした。そのようななかで、4年生のときにはキャプテンに任命され、チームを強くし気持ちをひとつにするために何ができるかを考え、皆を引っ張っていくことの大切さを学びました。この働きかけが実り、この年には13シーズンぶりの最下位脱出を果たすことができました。この経験は、現在も私が大切にしている「チーム」の在り方にもつながっています。
外科の医師になることを目指していた私は、厳しい環境で修練を積みたいと考えていました。より多くの手術の経験を積み、自らの手で直接患者さんを治療する外科医に憧れていたからです。そこで、外科手術に力を入れている病院で初期研修を受けることを決め、奈良県天理市にある天理よろづ相談所病院の門を叩きました。
天理よろづ相談所病院では、当時の恩師である武田博士先生、松末智先生という指導医の先生方から、みっちりと手術の指導を受けました。お二人ともさまざまな手術の手技に長けているとともに、後進の育成にとても熱心に取り組んでいる先生方でした。私も、お二人の先生の指導のおかげで、後期研修医3年目までには膵頭十二指腸切除術や肝葉切除をはじめとするさまざまな手術を数多く執刀医として経験させていただきました。先生方の粘り強い指導や、手術の機会を与えてくださった結果、外科医としてこれからやっていく自信を持つことができるようになりました。
今思えば、私が技術を習得できたことは、手厚い教育体制が作られていたことが大きいと感じています。天理よろづ相談所病院では、若手医師が執刀するとき、手術全体が問題なく進んでいるか、指導医の先生方が責任を持って細かく指導してくださる環境下で、教育する体制が整っていました。また、指導医の先生方が若手を育てるというマインドを持っていたからだと痛感しています。
その後、アメリカのフロリダ大学への留学を経て、京都大学肝胆膵・移植外科の教授である上本伸二先生にご指示いただき、福岡県北九州市にある小倉記念病院に赴任することとなりました。
小倉記念病院では、私が赴任した当時の外科部長であった田中明先生のもとで、副部長としてチーム作りに励みました。特にチームのレベルアップを図るために、私は指導的助手となり、若手医師が手術の執刀をする機会を積極的に作りました。
その理由のひとつに、若手を育成することがチーム作りに欠かせないことを天理よろづ相談所病院での経験から学んでいたことが挙げられます。武田先生、松末先生というお二人の恩師に、「あなたたちが指導医になったときに後進を育成できるような医師になってほしい」と繰り返し言われたことも影響していると思います。さらに、京都大学肝胆膵・移植外科では上本先生のご指導のもと、肝移植などの難易度の高い手術でも上級医が指導的助手としてサポートしながら、チームの比較的若い外科医に執刀の機会を与えることで、チームを強化されていたことが刺激になりました。
やがて、「小倉記念病院では多くの手術の経験を積むことができる」という噂が、若手医師の間で広がっていったようで、在籍する若手医師が少しずつ増えていきました。
今、私が小倉記念病院の外科で力を入れて取り組んでいるのが、腹腔鏡手術です(2019年10月時点)。そのなかでも特に、肝臓の腹腔鏡手術に注力しています。腹腔鏡手術は、患者さんの体への負担が少ない手術であることに加えて、切開創が小さく、出血を抑えることが期待できます。特に、肝切除術では開腹手術の場合約30~40cmの大きな創部が必要となりますが、腹腔鏡手術では通常3~5cmまでの創部で済みます。もちろん肝切除術は非常に出血しやすいため、腹腔鏡手術ではより緻密な止血操作を含む安全な技術とデバイスの使い方が必要になります。安全に腹腔鏡下肝切除を受けていただけるようチーム力の強化を行い、現在では以前よりも多くの方に肝切除術を腹腔鏡手術で提供できるようにしています。
加えて、血液をサラサラにする抗血小板薬や抗凝固薬を内服する心疾患・脳血管障害の患者さんに対しても、安全な手術を提供するために尽力しています。抗血小板薬や抗凝固薬を内服する患者さんは、外科手術の際に大量に出血するリスクがあります。一方で、脳梗塞や心筋梗塞などの致命的な血栓塞栓症のリスクも高いという、2つのリスクの板挟みに陥ることになります。そこで、当院では独自に「小倉プロトコール」という周術期管理の方法を開発し、抗血小板薬や抗凝固薬を内服する患者さんの管理を徹底することによって、手術における危険性を少しでも減らす取り組みを行っています。
私は、スーパードクター1人が活躍する病院を目指すよりも、チームとして技術の向上を目指していくことが重要であると考えています。そのため、当院の医療レベルだけでなく、地域の医療機関全体の医療レベルを上げることにも貢献できればと考えています。
その一環として、天理よろづ相談所病院時代の同僚である長谷川傑先生が診療科長を務めておられる福岡大学消化器外科にて、肝臓の腹腔鏡手術の指導を不定期で行っています(2019年10月時点)。2019年4月からは人事交流も始まりました。日本内視鏡外科学会認定の技術認定医取得を目指す福岡大学の若手外科医が、当院での修練を開始しています。また、当院の若手外科医も、医師の人事マッチングを行っている京都大学外科交流センターを通して、福岡大学消化器外科に学びに行くことになっています。人事交流は、地域全体の医療レベルを上げることにもつながるため、これからも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
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小倉記念病院
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