今日に悔いを残さぬよう、1日1日をひたむきに生きる

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今日に悔いを残さぬよう、1日1日をひたむきに生きる

自らの闘病経験から、前向きにピンチをチャンスに変えてきた上平 修先生のストーリー

小牧市民病院 腎移植センター部長兼患者支援センターがん相談支援センター長
上平 修 先生

腎炎で苦しい闘病生活を送った中学時代

医師になりたいと思ったのは、中学生の頃に腎炎を患ったことがきっかけです。それまでは医師の道へ進むことなど、ほんの少しも考えていませんでした。

中学1年生の冬のある日、私は風邪を引いた状態で部活動を行い、風邪をこじらせて腎炎を発症してしまいます。その後も症状はなかなか改善せず、中学1年生の3月から中学2年生の8月まで半年間の休学を余儀なくされました。さらに休学後も、ときに血尿が出て病欠を繰り返す日々。私はこのまま生きながらえることはできるのかと、とても不安な思春期を過ごしました。もちろん将来のことを考える余裕もありませんでした。

しかし病気が落ち着いてきたとき、「医療の世界に入って自分の病気のことをしっかり理解して、管理できるようになりたい」という思いが芽生え始めました。当時の腎臓病にはなかなかよい治療法がなく安静が基本でしたので、非常にもどかしく感じていたこともありました。さらに、入院や通院をしているなかで、同じように苦しんでいる人をたくさん見てきたので、医師になってこのような患者さんを助けられればと思うようにもなってきました。

これが医師になりたいと思った最初のきっかけです。

医師になる決意を固めた主治医の言葉

そう思い始めていたとき、当時通院していた名古屋大学分院の主治医からこんな言葉をかけられます。

「それだけ病気に苦しんだのだから、医者になって病気を研究し、新しい治療を発見してはどうか」と。

この言葉に、「こんな自分でも医師を目指していいのだ」とどれだけ勇気づけられたことか。芽生え始めていた医師になりたいという思いは、主治医の後押しによって強い決心に変わったのです。

腎臓移植をやりたいと思い始めたのもこの頃です。当時はまだ透析が外シャントの時代ですから、患者さんには常にシャント閉塞(へいそく)の不安がつきまといます。実際に何度もシャントを作り直す患者さんも見てきました。透析に変わる治療があればと考えている最中、中京病院で腎臓移植が開始されたのです。これを知り、医師になるからには腎臓移植に携わりたいと思うようになりました。

外シャント:透析で大量の血液を取り出すために、体の外で静脈と動脈をつなぐ人工血管を設置する方法。現在では皮膚の下で静脈と動脈を直接つなぐ内シャントが主流。

主治医と同じ名古屋大学へ

明日はないかもしれないという危機感で勉学に励む

私の親はごく普通の会社員であり医療関係者とのつながりもありませんでした。医師になるのがどれだけ大変なことか実感する機会がありませんでしたから、中学生当時は「主治医の先生と同じ名古屋大学に入ろう」と軽く考えていました。

結果的に私は無事、名古屋大学の医学部に入学することができました。

中学生のときに半年間休学しましたが、留年することなく公立高校へ進み、その後1浪はしたものの家庭教師をつけたり塾に行ったりせずに大学へ進学することができました。親には病気の治療では負担をかけましたが、教育にはあまり負担をかけずに済んだと思っています。

このように行きたかった大学に進学できたのも、医師になりたいという確固たる目標があり、そのうえで目標達成に向けた強い意識を持って勉学に励むことができたからだと思います。

さらに闘病の経験から「人より人生の持ち時間が少ないのだから、人と同じように勉強をしていてはだめだ」という危機感を常に持っていました。再び病気が悪くなり、勉強を中断せざるをえない状況になるかもしれないと思っていたからです。いかに短時間で効率よく勉強するにはどうしたらよいのか、勉強のやり方を勉強する(工夫する)という感じでした。

泌尿器科の持つ大きな魅力と可能性を実感する

大学を卒業後は、医師になろうと決めた頃から持っていた「自分と同じように苦しんでいる人を救いたい」という思いをそのままに泌尿器科に進み、今では腎臓移植を主な専門としています。

また泌尿器科医になってからは、腎臓移植以外にも泌尿器科領域の持つ魅力を強く実感してきました。私が医師になったばかりの頃、泌尿器科では結石に対する内視鏡手術やESWL(体外衝撃波結石破砕術)などが日本に導入されたばかりの時期でした。“傷を作らない外科手術”というその先進性に、泌尿器科の大きな将来性を見出したことを覚えています。実際にロボット支援下手術が始まったのも、泌尿器科の前立腺摘出術が最初でした。今後もまだまだ泌尿器科はやるべきフィールドが広い魅力ある診療科なのではないかと考えています。

*ESWL(体外衝撃波結石破砕術):体外から衝撃波を照射して結石を破砕する治療。

医師である喜びを感じるとき

月並みではありますが、患者さんが手術によって回復されることが何にも変えがたい大きな喜びです。たとえば、外科手術でがんが完治したとき、腎臓移植を行った透析患者さんが術後には透析の必要がなくなり普通の生活が送れるようになったときなどには、医師になって本当によかったと心の底から実感します。

特に術前に困難が予想される手術をやりきり、患者さんやご家族に感謝のお言葉をいただいたときにはその思いはさらに強くなります。

また、膀胱がんの患者さんは術後に定期的な膀胱鏡検査が必要となるのですが、患者さんにとって大きな苦痛となることが多々あります。膀胱鏡検査を受けたくないあまり、通院を自己中断してしまう方もいらっしゃるほどです。そのため、患者さんがなるべく苦痛を感じないように、丁寧な膀胱鏡検査を心がけるようにしています。

患者さんの中にはたった数分間の膀胱鏡検査のために、わざわざ三重県の山奥から毎回通院してきてくださる患者さんもいました。その方は、私の勤務先が中京病院から小牧市民病院に変わったときにも転院してついてきてくれました。

膀胱鏡検査のように、医師からしてみれば些細なことでも、患者さんにとっては大きな問題となることがあります。ですから、ちょっとしたことでも1つ1つ丁寧にやれば患者さんは喜んでくれるのです。そんな心がけを忘れずに毎日の診療に励んでいます。

医師として大切にしていること

今日できることは、今日のうちに

私が普段大切にしていることは3つあります。

  • 仕事を明日に持ち越さないこと
  • 悔いを残さぬようその日の仕事に打ち込むこと
  • 一歩一歩は小さくても長く歩き続けること

です。

この思いは過去の闘病生活の経験で「今日は元気でも明日にはまた病気が悪化するかもしれない」という危機感から培われたものです。明日何が起こるかは誰にも分かりません。ですから、今日できることはできるうちにやる、なおかつその日の仕事に悔いを残さないことを常に心がけています。そして、そういった毎日の小さな積み重ねを長く続けていくことで、未来の自分を大きく変えることができると考えています。

常に患者さんの視点に立つことを、決して忘れてはいけない

私自身が患者の立場であったことから、今も患者さんの視点で物事を考えて、その人にとっての最善の治療ができるように心がけています。特に非合理的な治療を選択された場合には、それが患者さんの本心からなのかどうか社会的な背景も含めて考えるようにしています。

病気を治すことだけが最善の医療ではありません。最善の医療は、全ての人に同じものではないことを自覚することが医師としては大切だと思っています。医療資源にも限界がありますし、人はいつまでも生きることができる存在でもありません。不老不死を目指すのではなく、その人に応じた精神的な満足を与える医療が最高の医療になるのではないでしょうか。「時に治し、しばしば支え、常に慰む」という言葉(アメリカで結核療養所を開いたエドワード・リビングストン・トルドー医師の銅像に彫られている)がありますが、これは現代にも通じることだと思うのです。

未来に向けた想い

後輩に多くのチャンスと経験を与える

後進の医師を指導する際には、一人ひとりの性格や上達方法のレベルに合った指導を心がけています。レベルは、(1)自分が失敗をしないと学ばないもの、(2)他人の失敗を見て学ぶことができるもの(3)失敗を見なくても失敗を予測することができるものの3つの段階に分かれると考えています。

たとえば、失敗をしないと学ぶことができない人でも、その失敗にメンタル的に立ち向かえない場合は失敗する前に対処する必要があります。失敗しなくても予測ができる人には、なるべく機会を与えて経験が増やせるようにしています。

また上からの命令として押しつけずに、意見を聞く代わりになるべく自分で考えてもらうことも指導の際に心がけています。これからは、未来を担う後進の医師にたくさんのチャンスを与えて、バトンをつないでいきたいと思います。

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